ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「男と女 人生最良の日々」

200219 LES PLUS BELLES ANNÉES D'UNE VIE (人生最良の年々)仏 90分 製作(共)・脚本・監督:クロード・ルルーシュ

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パリ市内を南北へ駆け抜けてたどり着いたのはモンマルトル。

1966年公開の「男と女」、フランシス・レイの名曲と共に映像が一つ一ついつでも蘇るほど印象に残った作品。20年後の「男と女2」は未見。評判はいまいちだったみたい。

そして50年後の今回の作品、老人ホームに彼を彼女が訪ねるシーンから。アヌークさんは87歳で、背も縮んだし、ふわっとした黒の衣装で巧みに隠してはいるが、引力には逆らえない様子はありあり。でもそれなりに美しさを保っているのは見事。

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別に整形などしなくても、自然な美しさがある。

ジャン・ルイの方は三つ上だが、こちらはまさによぼよぼの老人で、昔の面影はほぼ皆無。「俺も昔は美男だったし、女には困らなかったんだよ」っていうセリフ、案外、本人の口癖かも。

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あの美男も帽子やスカーフがないと、かなりしょぼくれた爺さん。90だからね。

認知症によるまだらボケで、時々正気に戻るような展開が楽しいし、セリフ回しもうまいのには感心する。「女は山のように知ってるけど、アンヌほどすばらしい女はいなかったなぁ。そう言えば、あんたはアンヌによく似ているなぁ。髪をかきあげる素敵な仕草は彼女そのものだワ!」

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50年後でも決まってるねぇ、このツーショット!

何度か会ううちに、やっと目の前の女がアンヌ自身であることに気づくジャン・ルイ、「こんな年寄りばっかしかいないところはうんざりだから、脱走することに決めた。一緒に来ないか?」

彼女の乗ってきたシトロエン2CVに乗って田舎道を疾走し、交通警察に停止させられると「俺を誰だと思ってんだ。あの伝説のレーサー、ジャン=ルイ・デュロックだぜ!」と啖呵を切るが、若い警察官だから知るわけもないし、相手にしない。この場面は夢か妄想の映像化なのだが、結構笑わせてくれる場面が多いのは意外。

劇中に例のフランシス・レイのメロディーが流れ始めると不覚にもうるうる。昔の映像をふんだんに盛り込みながら、金もかけずによくやるよねぇ、クロード・ルルーシュ!ちなみにフランシス・レイは本作の音楽を担当した後、急死しているから、これが遺作というのも因縁を感じる。彼が作った主題歌はニコール・コロワジーカロージェロいう歌手が歌っているが、これがまたなかなかいい。

彼らの一人息子と一人娘(尤もジャン=ルイの方は他で設けた娘がいて、なんとモニカ・ベルッチさんがその娘エレーナになって登場!)、それぞれの親に伴われて子供の頃に何度もあっていて、彼らにとってもこの50年後の再会を機に、どちらも独り身ゆえ、自然に距離を縮めていくらしい海岸の光景がしみじみした余韻を残す。

ところで、タイトルは現代では日々でなくaneés(複数年)となっているのだが、訳しにくいので、jours(日々)に変えたのだろう。こういう変更は歓迎だ。

#7 画像はIMBdから

 

「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」

200218 LES TRADUCTEURS 仏・ベルギー合作 105分 監督:レジ・ロワンサール(「タイピスト」2012)

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例のダ・ヴィンチ・コードダン・ブラウンが「インフェルノ」を出版する際に、各国語の翻訳家たちを一堂に集めて缶詰にしたことをヒントにして作ったとか。結構、よくできたミステリー!

典型的な拝金主義者の出版社を経営するエリック(ランベール・ウィルソン)が缶詰方式の同時翻訳作戦を仕掛けるわけだが、しばらくしてネット上で脅迫されることになり、9人の中に犯人がいると睨んで、次第に犯人探しの手口が凶暴化していく。対抗上、9人も協力して立ち向かうのだが、その過程で、英仏語しかできないエリックの分からない言語を駆使する場面が興味ふかい。

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パリ郊外の立派なシャトーにある堅牢な地下空間が翻訳作業と彼らの居住空間。

意外なところに真犯人がいることが分かるのはかなり終盤に近いところだが、ある程度、見ていると目星は着き始める。しかし、犯人の意図がエリックに対する報復というのだが・・・。

前半は結構ダレて、ちょっと眠くなったりもするが、後半、それをカバーしてお釣りがくるほど急展開で一気に面白くなる。なかなか洒落たミステリーである。

オルガ・キュリレンコはメインの役割がないわりに存在感たっぷり。リッカルド・スカマルチョは案外つまらない役どころで、ちょっとかわいそう。

#5 画像はIMBdから

「1917 命がけの伝令」

20200218 1917 英 119分、製作・脚本・監督:サム・メンデス

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また戦争映画の傑作が一つ

サム・メンデスが自身の祖父から聞いた話を基にして製作したことになっている。第1次大戦で、実際フランス北部の塹壕戦で悲惨な戦いを強いられた祖父は、ほとんどその時の話を家族にしなかったそうだから、どういう経路で事実を知ったか不明だが、もちろんメンデスのことだから、緻密な情報収集に加え、自身のイマジネーションを最大限に発揮してできたのが本作なのだろう。

アメリカが正式に参戦することにした直後、1917年4月、膠着する西部戦線での話。予定された攻撃を中止するという重要な作戦指令を前線に届けるすべがないため、若い兵士2名に、まだ独軍が潜んでいる恐れのある地帯を突破して最前線の指揮官に直接届けよとの密命。

勇躍出発する二人をカメラがひたすら追い続ける。全編ワンカットという触れ込み通り、途切れることはない。今のカメラワークには驚くほかないが、手ブレというものがまったくなく、終始滑らかである。ワンカットということなら、映画の中の進行と実際の経過が同じかと一瞬思ったがさにあらず。

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複葉機同士の空中戦で、落ちてくるのを眺めていたら、なんとこっちに向かって

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ドイツの狙撃兵と相討ちとなる主人公


命の恩人である相棒を失った主人公が、単独行となり先を急ぐが、壊れた橋を渡りきる寸前にドイツの狙撃兵から銃弾を浴び、最後は相討ちとなり、一瞬画面が暗闇となる。ここでワンカットは途切れる。次のシーンは、周囲は真っ暗だが、教会らしき大建造物の火災で、濃淡のはっきりした映像シーンとなる。これは死後の世界かと一瞬思えるほどの効果を出していて、秀逸な場面である。

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夢の中、はたまた死後の世界?

最初と最後のシーンがかぶるのもメンデスのよく使う手。のどかな草地に一本そそり立つ大木に背中を預ける兵士の姿。(実は、撮影時、野営トイレがかなり先であるため、エキストラたちは皆、この大木の根元で用を足していたから、ここで主役が感慨深く座るラストには笑いを禁じ得なかったとか)

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ジョージ・マッケイにとっては願ってもない大役だ。これがその”木”!

1次大戦でとりわけ酸鼻を極めた塹壕戦を扱った古今の名作、数知れず。その中でも秀逸な作品に本作が加わったのは間違いないだろう。

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コリン・ファースベネディクト・カンバーバッチというビッグネームもここでは端役。

主役を射止めたジョージ・マッケイ、それほどインパクトのある風貌でもなく、ことさら演技派ということもないのだが、そこが却ってよかったようで、こうした役柄には目立つ男優を使わないのがメンデス流なのだろう。愚亭は、日本で公開された彼の出演作はかなり見ている方。「サンシャイン/歌声が響く街」、「私は生きていける」、「パレードへようこそ」、いずれも2013/14の地味な作品ばかり。

#4 画像はIMBdから。

FACE展 2020 損保ジャパン日本興亜美術賞展 内覧会へ

202014 

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我が家からは近くもないのに、職場が新宿だったためか、せっせと通ったこの美術館だが、いよいよこの会場での最後の展覧会となった。通称パンタロンビル、旧安田火災海上本社ビルができたのは1976年春。その後、現在の損保ジャパン日本興亜ビルに名前を変更。ビルのオープン直後にできた当美術館もそれに合わせて東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館という長ったらしい呼称に変更されている。ちなみに新しい美術館はこのビルの新宿駅よりのすぐ脇に間もなくオープンする。

この展覧会は初めてだが、法人格変更(公益財団法人)の際に創設されたそうで、今回で8回目だそうだ。本展の詳細は、→ 損保ジャパン日本興亜美術賞展

そこで触れているように、本展の特徴は、

新進作家の動向を反映する公募コンクールとして定着。
「年齢・所属を問わず、真に力がある作品」を公募した結果、幅広い年齢層の875名の新進作家たちから応募があり、四次の「入選審査」と二次の「賞審査」を経て、国際的に通用する可能性を秘めた、入選作品71点(内受賞作品9点)を決定。
 不確かな社会情勢の中、創作活動には困難を伴うが、時代の感覚を捉えた、きらりと輝くものが数多くあった。油彩、アクリル、水彩、岩絵具、版画、染色、ミクストメディアなど技法やモチーフは多岐にわたるが、見る者の心に潤いと感動をもたらしてくれることは共通している。

いくつか、自分の目にとまった作品を主催者から特別な許可を得て撮影した。

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これがろうけつ染めというから驚く。登場する絵描きは120人とか。

⬆︎木村 不二雄  崖屋美術館 (Riverside Museum of Art) ろうけつ染(墨)・綿布 112x162 2019 審査員特別賞

 

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表面の凹凸が際立つ。横から見るとそれがよく分かってこの作品の面白さが伝わる。正面から平面的に見ると、それが伝わりにくい。木目込み、染色、スタイロフォームで仕上げたとの説明。スタイロフォームは合成樹脂素材で発泡スチロールの一種らしい。なるほど、めずらしい画材を使うものだ。

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箔の使い方が絶妙。

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鉛筆でひたすら食パンの質感を追求。

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日曜画家で、航空機の専門家である兄によると、右下の飛行機はP-51MUSTANG。第2次大戦では米国で最も性能の良い戦闘機で、朝鮮戦争でも活躍した、ロールスロイスのエンジンを付けて成功した米国機だとか。模型でも胴体の幅はもっと狭く、垂直尾翼の形状をもっと直線的にすると実機に近くなるとか、詳しい解説が。 

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「うーむ」と思わず唸りたくなる作品。なんか分かるなぁ〜。

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緻密な作業には脱帽。ちかっていくと「ぽつんと一軒家」の世界。

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この会場で見ると、一番ノーマルっぽい作品。キャンバスに油彩がほとんどなかったせいかも。

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偶然なのだろうが、窓に映った影をうまく撮りいれた作品。

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上の絵の部分を拡大

思わず触りたくなるような表面。凹凸がありルービックキューブを思わせる。

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「告白」とした事情はなにか。中央のくっきりした縦の線が意味ありげな。

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作者の猪上(いのうえ) 亜美さん。上野動物園で、この動かない鳥、ハシビロコウをスケッチ、麻紙に数ヶ月がかりで制作されたそうだ。色もすてきだが、特有の哲学者のような風貌がよく捉えられている。

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会場風景1

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会場風景2

最近の絵画傾向を端的に知りたい愛好家は必見。会期は3月15日まで。月曜日休館。

フレッシュ名曲コンサートシリーズで種谷典子を聴く

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つい先日、「こうもり」の抜粋上演で同じ舞台に乗った種谷典子を聴きに、久しぶりにカミさんと近くのきゅりあんへ。

原田慶太楼は最近テレビで存在を知ったばかりだが、ちょっと変わった経歴である。現在もアメリカ在住で、海外で多く活動しているようだ。全体にケレン味のない振り方に好感するが、後半の曲にこそ彼の真髄が窺えたように感じた。

さてお目当の種谷典子だが、後半の1曲目、「着飾ってきらびやかに」は、彼女の声質にまさにぴったりの曲で、本領をいかんなく発揮していて、輝くばかりの高音には痛く魅了された。初めてこの名曲を聞いたのは釜洞祐子で、その後、随分いろんなソプラノの演奏を聞いてきたが、今日の種谷典子の演唱は特筆すべき名唱と言える。

たまたまかなり前列で聴いていたが、フルオケのサウンドで、後方ではどの程度彼女の声が響いていたか、いささか気になるところではあった。近くにスタンドマイクが置いてあったのはそのためか。2曲目も軽めのI could have danced all night であったから、このマイクを通していたのかも知れない。

だが、指揮者が促したアンコール曲はオペラ「ロミオとジュリエット」(グノー)からの「私は夢に生きたい」であったので、マエストロはさっさとマイクを片付けていた。オペラ歌手が正当なオペラを歌う以上、マイクを通した声というわけにはいかない。

#7 文中敬称略