ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「たかが世界の終わり」

170301 Juste la fin du monde (まさに世界の終わり)加仏合作 99分 監督・脚本・製作:グザヴィエ・ドラン   ジャン=リュック・ラガルスの同名の戯曲の映画化

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かなり風変わりな作品。見終わって、???となるが、じわっと後味の良さが伝わってくるような感じかな。

次男ルイ(ガスパールウリエル)が、家を出てから12年。作家として一応の成功を収め、家に帰ってくる。待ち受けるのは、長男アントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)、妹シュザンヌ(レア・セドゥー)、母親マルティーヌ(ナタリー・バイ)、長男の嫁カトリーヌ(マリオン・コティヤール)の4人。父親の姿はないし、説明もない。それにしても、何と豪華なキャスティングだろう!

大喜びのシュザンヌ、マルティーヌ、初対面でほのかな恥じらいを見せる兄嫁、カトリーヌ。これに対して、無表情のアントワーヌは、喜ぶどころか、初めから喧嘩腰で、訳がわからない。

映画は、終始家の中で展開していくが、それぞれの対象がクローズアップで映され続け、位置関係や、家の中の構造・有様がさっぱり分からないまま進行していく。しかも、突如として大音響のポップ風の音楽が流れ、かなり意表を突かれる。

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顔のアップでないシーンは中庭でのランチ風景のみ。ここでもアントワーヌと妹シュザンヌの激しい言い合いが続き、嫌気がさして一人二人とこの場から抜けていく。肝心のルイは何か言いたげなのだが、それを許さない空気が淀んでいて、切り出せない。

些細なことにいちいちケチをつけ、延々と激しい言葉を吐き続けるアントワーヌの心情は何なのか。一応成功しているらしいルイに嫉妬しているのか、12年もほっといて突如ご帰還が気に食わぬのか、その両方か。

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悩んだルイ、これからはもっと頻繁にみんなに会いにくるよ、と告げて、去っていく。実は不治の病に冒されているのだが、ここまで出かかって、結局その言葉を飲み込んでしまう。

確かにこれは戯曲だ。それも、作者ラガルスの実体験がベースになっているらしい。説明が徹底的に省かれ、言葉のやり取りから観衆は中身を読み解くしかない。聖書に登場する「放蕩息子の帰還」を意識して構成されたような気がしないでもない。しかし、父親不在だから、帰ってきた息子を許す役割はマルティーヌに振られているのだろうか。

会話に加わらず、おずおずとその場に同席しているカトリーヌだけが第三者的に俯瞰して会話の進行を見つめ、未来を予測しているように感じる。アントワーヌは長男としての自覚が強すぎて、ガミガミいい散らし、却って家族の結束を乱している。マルティーヌはルイはもちろんとしても、慈愛に満ちた目で全員を見ている。

結局、皆一人一人が何とか自分を保ちながら、必死で生きている、その微妙なバランスが、突如帰還して、何やらただならぬ気配のルイが加わったことで、”揺れ”初めたことに腹を立てたアントワーヌが、屁理屈をつけてルイを追い返してしまったのか。

色々考えさせる作品だ。監督のみカナダ人、それもまだ27歳というから驚く。これが5本目の監督作品。出演者は全員フランス人。ルイ以外の役名がすべてヌで終わっているのも何か暗示的だ。カメラワークが秀逸である。また、すごい量のセリフを物ともせず、役者は皆達者だ。

先日「マリアンヌ」で見たばかりのマリオン・コティヤールだが、ここでは一転、物静かで控えめな兄嫁を、ほぼメークなし(に見える)で演じていて、自分にはこうした役のコティヤールの方が好感が持てる。

ちなみに、英米系の映画批評家からは酷評され、仏系は大喝采を贈るなど、くっきりと評価が別れた。カンヌ映画祭では、グランプリに輝き、他に作品賞、主演男優賞ガスパールウリエル)、編集賞を獲得している。

#11 画像はIMdbから

 

佐藤美術館へ

170228 東京では随分いろんな美術館へ行ったと思うが、都心にこうして初めて行く美術館もあるんだ。

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分かりにくい場所にあり、探訪大好き人間でも、今日は少々手こずった。

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街角の美術館という風情だが、2階に受付とショップ、3〜5階が展示室。監視カメラ作動中という表示と、撮影禁止のアイコンは一応見えるが、展示室は全くの無人。訪問客も自分以外はわずか二人という、美術鑑賞にはもったいないほどの環境である。

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一人だけ気になる画家は山本大貴(ひろき)という若手。

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超細密人物画を得意とするようだ。”究めた”という、これ以上ないほどのリアリティーに釘付けになる。髪の毛、肌や、持っているピューターの質感など、まだ若いのに、大変な技だ。

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帰路は、たまたま走ってきた都バスに乗って、千駄ヶ谷、霞ヶ丘(ここに立地する有名な都営団地⬇️、すでに住人の姿はなく、取り壊されるのを待つばかり。1946年に100戸がたてられ、前回の東京オリンピックの1964年に10棟300戸に建て替えられた。)、原宿、代々木体育館などを経由して渋谷まで”遊覧”しながら、移動。

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さらに、ここから東横線で中目黒へ。来週に迫った東日本大震災鎮魂コンサートの合唱練習の仕上げ会場へ向かった。今日は立ち位置が決まり、その順に着席。いよいよだ。

フォーレのレクイエムを通しで練習。マエストロから”三位一体”(横隔膜、喉、唇)、Sul fiato(息に乗せて)、指揮棒の読み方など、細部に渡って再三注意の声が飛ぶ。なかなか自分の意図通りに歌えないジイさんバアさん相手に、相当イライラしているはずなのに、一切表情には出さず、むしろにこやかに冗談を交えて伝えようとする姿は、感動的ですらある。

「マリアンヌ」

170227 原題:ALLIED (同士?)米 124分 監督:ロバート・ゼメキスバック・トゥ・ザ・フューチャー」、「フォレスト・ガンプ」)

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別の組織に属しながら、モロッコでドイツ軍の要人暗殺指令を受けた二人が、難度の高いミッションを見事に完遂、ロンドンに逃れるのが前半。後半は、戦時下のロンドンだが、娘まで生まれて、幸せいっぱいの二人。だが、上官から告げられたのは、妻がドイツのスパイで、自分で始末をつけられなければ、二人とも”処分”されるという、どっちに転んでも逃げ場のない運命。

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かたや英軍特殊作戦部所属、こなたフランスのレジスタンス所属(実はドイツの二重スパイ)の二人が合流するモロッコ。マックス(ブラッド・ピット)がパラシュートで広々した砂漠に降りるシーンが巻頭。

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仲睦まじい夫婦を装う二人。コティヤール、よく似合っている。

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砂漠で機関銃の試射をする二人。安全装置をかけてマリアンヌ(マリオン・コティヤール)の腕を試すマックス。

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お返しに、食事時、わざと胸をはだけて、マックスの度胸を試す(?)マリアンヌ

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二人のファッションが素晴らしい。二人とも、メイクもあるが、若い!

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目的を果たして、現場を急ぎ足で去る二人。機関銃を打ちまくっただけだから、髪や服装の乱れもほとんどなし。

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「お前の女房は独軍のスパイだ!」ある日、上官から告げられ、驚愕と怒りとを露わにするマックス。自分で妻の無実を証明してみせると自信満々だったが・・・

ラストシーンは、十数年後、広々した牧草地を歩く父と娘の姿

さすがゼメキス、よく出来ていると思うのだが、館内はガラガラ。もったいない!

戦時下のモロッコが舞台と来れば、「カサブランカ」を思い出さないわけにはいかない。でも、総合的な出来栄えは、残念だが、比較にならない。やはり、本作は底が浅いというか、脚本が薄っぺらな印象。そもそも命がけの指令を帯びた者同士が恋愛関係に陥ることがご法度なのはイロハのイ。その上、ミッション・コンプリートで、二人で逃走して、新しい生活を目指すなんてことはあり得ない。それをあっさり破ってしまうあたり、ええっ!そりゃないわなぁ〜!まずそこで、白けるが、そこをもう少しうまく書けなかったのかなあ。

それはそれとしても、映像が美しい。それとカメラワークの冴えがたっぷり楽しめる。コティヤールは好きな女優ではないが、本作では見事なコスチューム(89回アカデミー賞の衣装デザイン部門でノミネート)にも助けられてだろうが、実に美しい!

#10 画像はIMdbから

音楽ビアプラザ ライオンへ

170224

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我が合唱団の指導者のお一人、猪村浩之登場とあって、合唱団からは大挙16名が聞きに行った。愚亭が前回ここへきたのは、数年前、テノールの村上敏明とソプラノ菊池美奈がドゥオコンサートをやった時以来。

今日の演目は、

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ヴェテラン歌手4人に加えて、今日はピアニストが二人という、豪華な布陣。それゆえ、演目にグッと幅ができて、ご覧のような、見るからにそそられるプログラムに。

中でも、期待に違わぬ見事な重唱は、ヴェルディドン・カルロ」からの我らの胸に友情を」これは、いつ聞いても、何度聞いてもしびれる。今日の二人も、大変バランスが取れた響きだった。

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愛の妙薬」から。ちゃんと字幕まで用意されている。ここで字幕付きは初めてだ。

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こちらはメッゾの杣友恵子と「カヴァッレリーア・ルスティカーナ」からの二重唱。いやぁ〜、お二人ともビンビン出てますねぇ、声!

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狭い舞台で、衣装にも工夫を凝らし、熱演を続ける出演者たち。ほとばしる情熱が伝わり、感動そのもの。

#8

オペラ界の新星☆期待のバリトン歌手 加耒 徹が贈る『春』『恋』『愛』@アプリコ小ホール

170223 午前11時と午後2時の2回に亘ってのリサイタル。演目が異なるので、2度とも切符を買っている人が多かったようだ。予想されたことだが、9割が女性客。今、最も旬なバリトン歌手で、小顔、長身、イケメン、おまけに歌が上手いとくれば、まあこういうファン層になるのは必然。11時の回のメニューは以下の通り。

本人も冒頭の挨拶で認めていたように、ほとんど知られてない曲で、日頃から究めたいと思っている歌曲中心の構成にしたと。ついでながら、この方、トークがまたお上手だ。余計なことは一切言わないのだが、笑わせもするし、きちんと話せるという、まあこの若さでは、大したもの。昔、作曲家の黛敏郎が「題名のない音楽会」の司会をしていたあの端正なスタイルを思い出した。

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2014年、シャネル・ピグマリオン・デイズに1年間出演した時に何度か聞いているが、やはり当時と比べれば格段に上手くなっている。それは昨秋の「ナクソス島のアリアードネ」出演時でも実感していたが、今日、改めてじっくり聞いて、その感を深くした。

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この細さでよくこうした重厚な音色が出せるものと、感嘆しきりである。特に、最後の2曲は、まさにトリハダものだった。アンコールには一転、「初恋」を切々と歌い、おばちゃん、おばあちゃんたちは、こりゃたまらんワ!という表情。

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2種類のCD即売とサイン会にはおば(あ)ちゃまたちの長い列。しかも、なんと完売してしまった。最後尾の客は、売り切れ寸前で、不安の表情。(結局買えない人には、後日郵送するということに)

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サインをCDにしてもらって、うっとり顔のファンたち。即売会はよく見かけるが、完売というのはあまり聞いたことがない。

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CDも買わず、サインもねだらず、ツーショットだけ。

#7