ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

創作オペラ「人道の桜」 (杉原千畝物語)

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すでにあまりにも知られるようになった杉原千畝の一生をオペラにした、意欲作。彼の、カウナスにおけるユダヤ人へのヴィザ発給の話が軸になっているのは当然だが、後半は、ユダヤ人たちが艱難辛苦の末、日本に身一つで到着し、地元民に思わぬ歓迎を受ける話や、さらに時代が下って、無事安住の地へ生き延びた本人たちや次の世代の話まで網羅していることには驚かされた。

これだけ長い長い話を2時間半ぐらいにまとめること自体、相当無理があったと思うが、それをオペラにしてしまうことには感動せざるを得ない。幕が開くと、若き日の夫妻が舞台中央に立ち、夫人役の羽山弘子が、静かに「さくらさくら」を歌うところから、始まる。

要所要所に解説が入り、アリア、重唱、そして弦楽のソロパートには、聞き覚えのあるメロディーが挿入されていたり、いつの間にかすっかり舞台に引き摺り込まれていた。

$14 (文中敬称略)

音楽レクチャー@日生劇場 (ラ・ボエーム関連企画)

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6月、日生劇場での公演を控え、「ラ・ボエーム」のレクチャーが行われた。今や、テレビ番組でもレギュラー出演をしている人気作曲家・ピアニストと人気上昇中の若手指揮者(40)の登場とあって、会議室はほぼ満席。

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左側のボードには登場人物の相関関係図、中央に手際よくマエストロが加羽沢の解説を図示していく。まあ、この辺は事前打ち合わせ通りなんだろう。その後、交代でピアノの前で、弾きながらの解説。これが面白かった!二人の絶妙のやりとりが痛快!

ほとんどの参加者はすでにこれまで何度もこのオペラを聴いている様子で、クイズ形式で問題を出しても、聞く側は知っていることばかりで、反応はイマイチ。加羽沢もいささか拍子抜けの様子だったが、そこは巧みに戦法を変えて、見事な進行ぶりを見せたのはさすがである。

また6月の公演で振ることになっているマエストロをうまく誘導し、アシスタントのように使い倒したり、いじったりで、しばしば場内、爆笑の渦。芸大で4年後輩にあたるのだから、こうしたやり取りも宜なるかなだ。

これまで散々聴いているアリアや、シェーナについてのピアノやレコーダー実演を伴う解説には、いちいち目から鱗で、たっぷり楽しませてもらえたレクチャーだった。

「これぞ暁斎!」@Bunkamura ザ・ミュージアム

170323 ブロガー対象の内覧会に参加した。

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⬆️⬇️は配布されたチラシから抜粋

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河鍋暁斎がどれほど凄い画人だったか、人並み以上の情報は持っていたつもりだったが、本展で展示されている173点にも及ぶ作品群を見て、しばしボーゼンという体たらく!いやはや、凄まじいまでの画力・筆力を備えた画家がいたものと、今更ながら呆れると同時に、同じ日本人として誇らしく感じさせられた展覧会と思った次第。

暁斎の略歴を展覧会ホームページでは、以下のように紹介している。

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内覧会は7時半にスタート。まずは中村剛士さん(⬇︎右端)×チバヒデトシさん×黒田和士学芸員(同じく左端)によるギャラリー・トーク。ここで展覧会概要の解説があり、その後、厳選された代表作を巡りながら、詳細な説明が入るという、ありがたい趣向で進行。あとは自由鑑賞と撮影タイム(1点撮りは厳禁)となる。(以下に掲載する画像はすべて主催者から特別な許可を得て撮影したものです。

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世界屈指の暁斎コレクターという触れ込みのイスラエル・ゴールドマンのコレクションの一部らしいが、まあよくぞここまで収集したと驚くしかないが、収集のきっかけ、第一歩となったのが、この小さな作品だったというのも面白い。

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『象とたぬき」(1870)という小品。大きな象と小さな狸がユーモラスに描かれている。対象物に対する優しい眼差しを感じることができる作品の一つである。

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入口付近のちょっとしたスペースの三面にずらりと掲げられているのはカラスばかり。全部で14枚。暁斎は全部で30点ほどはカラスの作品を残しているということなので、展示されているのは、ほぼ半分程度ということになる。

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彼の作品群の中で、極めて特異な位置を占める枝にとまるカラス。ものすごい筆のスピードが実感できる作品群だ。

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鍾馗さんも彼が得意としていた題材のようだ。上の三枚は、依頼主がいたので、真面目に描いているが、左側には⬇︎鬼を崖上から吊り下げてみたり、サッカーボールのように空中高く蹴り上げているなど、自分の好きなように遊び心でユーモラスにのびのびと描いていて、この辺りにこそ、これぞ暁斎!の面目躍如たるところが感じら、みている方もつい笑みがこぼれる。

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おそらく自分で実際に見ることがかなわなったであろうに、こうした大型動物たちをも見事な筆騒ぎでものにしている。

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右側の作品にも描かれているが、彼の作品にしばしば登場するのは、こうした骸骨や髑髏、幽霊など。来世をごく身近に捉えて、それを見るものに伝えたかったのだろうか。

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出口に近い位置に掲げられているのは、六曲一双の屏風絵、「百鬼夜行」。可愛らしい妖怪たちが右から左へと行進していき、左端の大きな火の玉を見て、慌てて逆行する姿を描いている。

彼の作品に心酔した人の中に、英人建築家ジョサイア・コンドル(1852-1920)がいる。政府のお雇い外国人として来日、日本の近代建築に大いなる貢献をした人物だが、趣味人としても有名で、やがて暁斎に師事し、暁斎から画号を贈られたりしている。もちろん自身、多数の絵画作品も残し、また英国では暁斎を詳細に紹介する本を出版している。そのような事情もあり、国内以上に、暁斎の名は欧米で広く知られるようになった。

会期は4月16日まであと三週間あまり、本当の暁斎を知る絶好のこの機会を逃す手はないと思うが。

 

「ラ・ラ・ランド」

170322 アカデミー賞は、主演女優賞(エマ・ストーン)、監督賞(デイミアン・チャゼル)ほか、4部門を獲得したのも十分うなずける作品。それにしても、この監督、32歳というから驚く。「セッション」を撮った時は20代だからね!

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いやぁ〜、久しぶりに味わうアメリカらしいミュージカルで、大満足(ちょっとハッピー・エンディングでないのが・・・)

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幕開けで繰り広げられる「これぞアメリカン・ミュージカル」と唸らせるシーン!

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主演のこの二人のうまさには、参った!このキャスティングのうまさには感動する。こうした歌や踊り、楽器演奏を伴う欧米系作品の主演者は、徹底的に特訓をして、自分で演じてみせることが多いが、本作でも、ダンスシーンはもちろん、ライアン・ゴスリングのピアノ演奏シーンも、ほぼほぼ自分で演奏したようだ。あらかじめ吹き込まれた演奏を聴きながら、毎日2時間、週6日のペースで8週間以上猛稽古を積んだという。

一緒に演奏している本職のジャズ・プレイヤーも舌を巻いたというから、やはりゴスリングのは只者じゃないのだ。

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女優を目指しながら、何度も挫折するミア(エマ・ストーン)、自分のライブハウスを持ちたい夢を持ちながら、とても無理と諦めているセブ(ライアン・ゴスリング)が、互いをよく知らないまま、いつしか恋に落ち、やがて彼女は女優の仕事でパリへ。時は流れ、5年後・・・。

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数多のハリウッド映画の舞台になってきたハリウッドの丘が本作でも重要な舞台になっている。また、数多くの名作、「カサブランカ」、「理由なき反抗」、「パリのアメリカ人」、「ミッドナイト・イン・パリ」etc. へのオマージュ的場面が次々に登場するが、こうした作品を見ていれば、余計に楽しめるという仕掛け。

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チャゼル監督⬇︎の「セッション」で名演を見せたJ.K.シモンズ、出番は少ないが、存在感は抜群。

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また登場する楽曲が素晴らしいし、エマ・ストーンの歌唱にもしびれる。文句なしに楽しめる作品!

#14 

古楽器の伴奏で、小編成モツレクを聞く@浜離宮ホール

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今年の海の日のチャリティーコンサートで、モーツァルトのレクイエムを歌うことにしているので、大いに参考になったこの演奏会だが、まずは古楽器の群れにびっくり!博物館から借りてきたのかと思うほど、不思議な格好の、超珍しい楽器も登場、もうこれだけでも、今日聞きに来た意味があったかと思うほど。

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使われたオルガンがこれ!一般にポジティフオルガン(1段手鍵盤チェストオルガン)

と呼ばれるもので、ご覧のように小さいながらもパイプを並べて、下からふいごのように風を送って音を鳴らす仕組み。当然、大きい音は無理だが、大変典雅な味わいで、このような演目にはぴったり。

弦楽器も、中には何丁か古楽器も混じっていたし、弓も古楽器仕様のものを使っている団員がいた。

管楽器にはピストンなしのトランペットや、かなり形の違うトロンボーンオーボエ、そして、冒頭に書いた、名前も知らない、途中で折れ曲がったリード楽器らしきものも2丁。古楽器ゆえに音量は小さいが、いかにも古楽器という風情に大いに魅了された次第。

合唱団は全部で25人ほどで、男女半々。モツレクを歌うにはかなりの小編成だが、古楽器との音量のバランスを考えれば、これがちょうどいいのだろう。

ソリスト陣も素晴らしかったし、見事なアンサンブルを聞かせていただき、大満足!

#14