ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

西洋美術館の前庭での彫刻鑑賞後、赤羽のまるます家へ。

170713 恒例の赤羽「まるます家」での暑気払いまで少しだけ時間があったので、高齢者が無料で入館できる常設館を覗こうとしたが、途中でそれほどの時間がないと判断、前庭に展示されているロダン、ブルデル(弟子)の作品群の鑑賞にとどめた。

置いてあるのは、入口から右側に「地獄の門」、「アダム」、「イブ」、そして「弓を引くヘラクレス」(これだけブルデルの作品)、左側に「カレーの市民」と「考える人」の、全部で6点。

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細部はもっと近くか、双眼鏡でも用意しないとよく見えない。

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このねじれたアダムの顔の表情は、システィーナ礼拝堂の天井画中央にあるアダムにそっくりなのだが、果たしてロダンミケランジェロを意識していたのだろうか。していただろうね。

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こちらは恥じらうイブ。

結局、京浜東北線に遅れが出て、ゆうゆう間に合うはずだった会合に定刻5時ぴったり到着。

いつものように、ナマズ唐揚げ、⬇︎鯉の洗い、ほや、特製メンチカツ、などなど次々にオーダー、最後は恒例のうな重で締め。5時から2時間ちょっと。

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最初の生ビールの後に飲んだのは、5人がそれぞれ別のものをオーダー。ちなみに愚亭は白ワイン、赤ワイン、最後はモヒート。ワインは機内で供されると同じような250ml入りの洒落たボトルで、しかもちゃんとしたイタリアの銘柄品。トレッビアーノとサン・ジョヴェーゼ。それで、@¥4,000だから、堪えられないのだ。

「歓びのトスカーナ」

170713 原題:LA PAZZA GIOIA (大喜び)伊仏合作 監督:パオロ・ヴィルツ

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主演のヴァレーリア・ブルーニ・テデスキの上手さが断然光る作品!相手役の、監督の女房でもあるカエラ・ラマッツォッティも見事な演技だった。テデスキさんは、例の元仏大統領夫人、カルラ・ブルーの異父姉。まったく似ていない。もちろん妹の方が断然きれいだ。

この手の作品はイタリアでは、珍しいだろう。1991年に公開された米映画、「テルマ&ルイーズ」(スーザン・サランドン、ジーナ・デイビス)を彷彿とさせる典型的なロードムーヴィーである。

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トスカーナにある療養施設、社会復帰を目指す弱者達が収容されている。ここで出会った、性格も育ちも何もかもまったく異なるベアトリーチェ(テデスキ)とドナテッラ(ラマッツォッティ)。

ベアトリーチェは、元伯爵夫人と言いふらし、虚言癖で口がよく回り、一見社交的な女、一方のドナテッラは、身体中にタトゥーを入れており、虚ろな表情でほとんど口を開かず、何を考えているか分からない、見るからに陰気な女。

見事なほど対照的な二人が互いに惹かれあったり、嫌悪したりしながらトスカーナ州内を転々と移動しつつ、互いの辛い過去を知るにつれ、ますます離れがたい仲に。

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結局は、元の施設に二人とも戻ることになり、一応ハッピー・エンディングにしてあるが、周囲を巻き込み、大迷惑をかけながらも、計り知れない犠牲を二人とも払ったことにある種、諦観だけでなく、ちょっとだけ明るい未来を感じさせる幕切れ。後から施設に戻ったドナテッラに、2階の窓から控え目に手を振るベアトリーチェの、どこか物悲しい目が問わず語りに。

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エンディングに字幕で紹介されたのは、1978年、イタリアでは精神病院を廃止したと。

世界で初めて精神病院をなくした国、イタリアでは、バザリア法の制定によって、次々に精神病院が閉鎖された。『自由こそ治療だ!』という画期的な考え方から、それまで病院に閉じ込められ、人としての扱いを受けていなかった患者たちを、一般社会で生活させるため、地域にもどしたのだ。本作は、そんな時代背景を基に作られた。

#47 (画像はIMDbから)

「レオナルド ✖️ミケランジェロ展」@三菱一号館美術館(ブロガー内覧会へ)

170711 今日はブロガー対象の内覧会に招待され、三菱一号館美術館へ。午後6時から受付開始なので、しばらく近くでスタンバイ。

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手前の植物が絡まるタワーからミストが吹き出てきて、気持ちが良い。

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ルネサンス期、無数の偉大な芸術家が登場したが、中でも聳え立つ2大天才は、間違いなくこの二人だろう。今度の企画展は、この二人だけにスポットを当てるという、大英断!と言っても、彼らの著名な作品がずらりと並ぶというわけではなく、彼らの作品はどれもほぼ門外不出揃いだから、そもそもそれは無理な相談。

ということで、素描や手稿が中心になったのはやむを得ぬところ。それでも、それでもだ、《十字架を持つ(ジュスティニアーニのキリスト)》が間近に見られたのは、なんという僥倖だろう。しかも、この日から公開というから、実にラッキーであった。

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いつもは大きめの作品が並ぶこの一角だが、今日は割にこざっぱりした風情だ。

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6時半からレクチャー開始。今日の担当学芸員は若手の岩瀬 慧(けん)さん。手前はお馴染みのナビゲーター、Takさん。奥は高橋館長。舞台裏の話など含め、貴重なお話を伺うことができた。

そしていよいよ超目玉、「十字架を持つキリスト」を見に、ぞろぞろ全員で1階へ降りる。そして・・・まずは見ていただこう。

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上の説明にあるローマにある像とは、市内のサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会にあるこの像。

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十字架を入れれば2m50, キリスト像だけでも2mを少し超える大作。制作年代は1514-1516と、40歳前後ということになる。これだけの作品だが、上の顔のクローズアップにも明らかなように掘り進んでいる最中に、白の大理石に黒い筋が現れたため、その後の制作を放棄したそうだ。後世、別の彫刻家が鑿を打ったようだが、それが誰かは不明。あのジャン=ロレンツォ・ベルニーニとする説もあるそうだ。どこまでがミケランジェロ本人の鑿で、どこからが別人のものかは推定するしかないそうだが、捕縛縄を持つ右手部分は明らかに別人のものとされている。なにやら、途中から弟子が作曲を続けたモーツァルトのレクイエムの話のようで、実に興味深い。

ローマ近郊、ヴィテルボ県のバッサーノ・ロマーノという村の修道院、Monastero San Vincenzoにあったために、世紀の大発見は1997年と、つい最近のこと。

ともあれ、数奇な運命を辿ったこの一点を見るためだけでも、遠くからここへ来る価値は十分あると思う。

さて、書きながらも興奮冷めやらぬが、他の展示にも少し触れておこう。

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ウッフィーツィ所蔵のこの有名な作品の模写だが、作者は不明だが、明らかにレオナルドが生きている時代に、この作品(ルーブル所蔵)を直接見ながら描いた模写とされている。聖アンナはよく似ているが、聖母の顔はちょっと違うかなぁーという感じだ。

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これは、作者不詳ながら、素晴らしい作品である。レオナルドがなんらかの形で絡んでいたとされるほどだから、専門家でもレオナルド自身の作品と判定しかねない。

なお、掲載した写真は、主催者から特別な許可をいただいて、撮影したものです。

本展覧会は9月24日まで。月曜休館。当日券は一般が1700円。芸術愛好家、必見!!!

 

「水墨の風」展@出光美術館

170711

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久しぶりに水墨画を見る機会があった。自分の父方の祖父が水墨画の絵師(聾仙と号した)であったので、我が家には彼の作品が常時何点かかけられていた。日常的にそうした作品に接していると、あまり有り難みも感ずることなく、過ごしていたが、出身地の岐阜大垣で彼の回顧展が割に大掛かりで開催されたことがあり、相当傑出した水墨画家であることを遅まきながら認識した次第。

爾来、水墨画には特別な想いを込めて鑑賞するようになり、今回の展覧会も楽しみに出かけた。上のチラシにもあるように、「長谷川等伯雪舟」と副題がついていて、彼らの作品が今回の展覧会の目玉。

構成:

第1章 雪舟を創りあげたもの ー「破墨山水図」への道

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第2章 等伯誕生 ー水墨表現の展開

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第3章 室町水墨の広がり

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第4章 近世水墨 ー狩野派、そして文人画へ

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あまりこれまで鑑賞したことのないような作品ばかりだが、全てこの美術館所蔵のものというから、大したものだ。

中国の色濃い影響を受けながら、等伯の時代になって、日本独自の水墨画が開花して行く様子をわかりやすく展示してくれているのはありがたいと思った。

さらに室町時代にヴァリエーションが多彩になり、近世に受け継がれ、中国から”かすれ”(墨線がかすれてカサカサした枯れた感じを表現)などの技術を駆使した、文人画と称する、職業絵師以外のいわゆるインテリたちの嗜みの一つとして描かれた水墨画などの出現もこの時代の特徴か。

そして、狩野派の登場を見るという具合で、大雑把ながら、こうした重要な流れがこの展覧会を通じて理解されるのではないか。小規模だが、充実した展覧会。

画像は出光美術館のホームページからお借りした。

「ボンジュール、アン」

180711 原題:PARIS CAN WAIT(英)、BONJOUR, ANNE(仏) 米 92分(程よい長さだ)製作・脚本・監督:エリノア・コッポラ (フランシス・フォード・コッポラの奥さんで、ソフィア・コッポラの母親、自分の体験を基に作ったというから、なかなかの才人。すごい一家である)

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カンヌからパリまでのロードムーヴィー。自分にとっては懐かしい土地がいくつも登場、カメラングルも見事で、また、その土地の料理、ワインなどもふんだんに紹介されるなど、観光要素たっぷりの作品でもある。加えて、中年というか初老男女の大人の恋路みたいなものが絡んだりで、これははっきり女性向き作品。こんな甘っちょろいタイトルだけに惹かれて見にくるおばちゃん達が大多数だろう。

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愚亭が見る気になったのは、フランス縦断の旅の要素もさることながら、主演のダイアン・レインがどんな風に年齢を重ねているかに興味を持ったからだ。本作と同じようにカリフォルニアから中部イタリアへのバスツアーに参加した主人公(ダイアン・レイン)が、トスカーナ・ウンブリア地方の魅力に抗えず、ついに途中離団(コルトーナという小さな村)して、住み着いてしまう。時にイタリア男に翻弄されたりしながら、イタリア暮らしをたっぷり楽しむロードムーヴィが公開されたのは、今から14年も前。今や目尻の小じわも確実に増えたが、依然チャーミングだし、とても52歳とは思えぬ若々しさだ。

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子育ても終わり、仕事でカンヌ映画祭に出張するプロデューサーの夫、マイケル(アレック・ボールドウィン)に同行、ヴァカンスを南仏とパリで過ごす計画のアン。⬆︎旅のお供は白いライカ。まだ初心者らしく、景色以外、料理でもワインでもカメラを向けてしまう。

夫が急な仕事でブダペストに行くことになり、アンは先にパリに行くことにする。耳に持病があるから、飛行機は大の苦手。TGVの出番が順当なところだが、マイケルの仕事仲間で南仏在住のジャック(アルノー・ヴィアール)が、自分が車で送ってやると言い出す。それもいいかと話に乗るが・・・。

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せっかくプロヴァンスにいるからと、あちこち案内したがるジャック(多分、初めから下心見え見えだったが、)に誘われるまま、古代ローマの大構築物、⬆︎ポン・デュ・ガールの三段の水道橋を見たり、パリに行きたい気持ちと、滅多にできない地方巡りの旅の醍醐味を味わいたい気持ちのせめぎ合いが最後まで続くアン。

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ポンコツに近いジャックの車(PEUGEOT 504)は、途中でエンスト。予想してたかのように手回し良く、川辺でピクニックと洒落込む。

メカに弱い(本当か?)というジャックを尻目に、ボンネットに首を突っ込み、切れたファンベルトを引っ張り出すアン。しかも、着用していたストッキングを脱いで、ベルトの代用品を作っちゃうって、ちと出来過ぎだが。ま、それで再びドライブ開始。

途中、リヨンの有名な市場に寄ったり、市内随一という高級レストランで最高の料理と最高のワインを試したり、アンが興味を持っているという刺繍の博物館に入ったり、それはそれは充実した瞬間を何度も味わうことに。(パリに着いたら返すからと高級ホテル代やらレストランの支払いをアンのクレジットカードで済ますジャック、何か企んでるのかこの男と思わせる)

それにしても、このジャックという男、確かにサービス精神旺盛だし、女性には親切すぎるほどだから、時折スマホにかかってくるマイケルからの「フランス男には気を許すなという忠告がなくても、十分気を使っていたつもりなのだが、徐々にジャックのペースに巻き込まれて行く。

そして、2日目の深夜、パリに到着。途中、二人とも辛い過去を互いに吐露するシーンが挟まれていたりして、気持ちの盛り上がりを暗示しているが、まあ、最後は、やっぱりなぁ、という風にしてエンディング。(そうそう、途中でアンのクレジットカードで支払った金は全額、なんともオシャレな方法で戻ってきたが)

起伏はないけど、それなりに楽しめる作品。ところで、ジャックを演じたフランス人のアルノー・ヴィアールだが、俳優経験はなく、「メトロで恋して」(2003)の製作・脚本・監督をしたというから、意外なキャスティングをしたものだ。

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中央がエリノア・コッポラ監督。御年、80歳。こうした自伝的作品を監督した最高齢者はなんと日本の木村威夫!美術担当でほとんど映画人生を全うするはずだったが、晩年に自伝的作品「夢のまにまに」(2008)を撮ったのは90歳!上には上が。

#46 画像はIMDbから。