ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

DOLCE MUSICA Vol.7@アルテリーベ

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いつもはこの店のスタッフとしてチロル衣装を身にまとい、キビキビ動き回っている姿しか知らない店の看板娘、佐藤 祥を初めて聞きに行った。

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この人、強靭な声帯をお持ちのようで、低く力強い音色が持ち味。メゾソプラノと言っても、かなりアルト寄りの音域だろう。そのような選曲をされていた。後半、「ドン・カルロ」からの有名な二重唱がプログラムに載っていて、テノールがいないから、彼女がドン・カルロのパートを歌うんだろうとは思っていたが、これがほぼ違和感なく聞けた。ということは、やはりテノールに近い音色・音域の持ち主なんだろう。なかなか日本人には珍しいタイプかも知れない。

上のプログラムだが、やはり演奏者の名前は入れてもらいたい。器楽演奏が、4曲組まれていた。それは良いのだが、チコチコ(フルートをフィーチャー)、月の光(もちろんピアノ)、チムチムチェリーなどはともかくとして、普段オケで演奏される「セヴィリアの理髪師」序曲など、ピアノ、フルート、チェロで聞かされてもなぁ〜、という感慨あり。

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前半、純白のドレスで登場の佐藤 祥。タッパもあり、見事な舞台姿!

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共演の追分 基は気のいいおっちゃん風で、一言喋るたびに凄い歓声が上がる。どうやら合唱指導でもしていて、その生徒さん(おばちゃんばかり)の一群がいたようだ。

高音までカバーできるハイバリトンで、オーソドックスな歌唱法。ただ、ミュージカルの「魅惑の宵」などは、もう少しそれっぽく、つまり情感を込めて歌ってほしい。(「南太平洋」は学生時代に何度も見ていて、ロッサノ・ブラッツィ⦅歌唱はジョルジョ・トッツィ⦆の声が耳に残っている)

前半最後の「セヴィリア・・・」からのシェーナ、「それは私なのね!」は素晴らしい掛け合いで、大いに楽しんだ。

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後半、女性陣は衣替えで、佐藤も落ち着いたネイビー系のドレス。これもよく似合っていた。

ところで、佐藤が歌ったソロ、「ジュリエッタとロメオ」から「もし君が眠っているのなら」を、「みなさま、よくご存知のロメオとジュリエットから1曲・・・」という風に紹介していた(と思う)が、この曲はイタリア人のニコラ・ヴァッカイ(1790-1848)が作曲したもので、ロミジュリのオペラ版は、一般的にはグノーのもの、あるいはタイトルは違うがベッリーニのものが知られているわけで、ヴァッカイのものは、タイトルもジュリエッタが先に来ていて、滅多に上演されることもないから、その辺りも触れて欲しかった。

写真で分かるように、ほぼ満席。客の反応をじっくり観察していると、出演者5人の中では、彼女のファンが最も多かったようだった。

#52 文中敬称略

初めてマルタ料理を

170829 今から30年ほど前に一度だけマルタに行ったことがある。仕事だったので、あまり街は見ていないが、期待したほどの印象はない。もっとじっくり滞在すればまた違った印象が得られたと思うのだが、観光で行ったわけではないから、それはそれで仕方ない。

地中海のど真ん中に位置するから、文明の十字路などと言われ、随分数奇な運命を辿った島だが、シチリアまで100kmほどという関係で、イタリア語も通じるし、最後に統治していたのが英国だから、英語も普通に通じる。だが地元民が相互に意思疎通を行うのはもっぱらマルタ語である。

人種的にも散々交配を繰り返しているから、街を行けば、何人か判断がつかないような顔が多い。

さて、料理だが、島なので、当然新鮮な魚介類を食べるのが一番。あとはイタリア料理に近いというのが大雑把な印象。

この店は、日本でも数少ないマルタ料理を提供する店。今回は、後期高齢者ばかりなので、一番品数の少ないコース料理を注文。正直、どれも美味しくて、期待以上だった。特にフティーラというマルタ風のピッツァはぜひまた食べたいと思った。

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種類も豊富で、ざっとこれだけある。⬇️

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新橋の烏森神社裏にあり、看板も目立たないので、方向音痴の人は探すのに一苦労しそうだ。席数も少なく、厨房は多分オーナーシェフと思われる若い方が、一人で切り盛りしており、予約は必要だ。

 「エル ELLE」

170828 原題:ELLE(彼女)131分 仏 監督:ポール・ヴァーホーヴェン(Verhoevenと綴るオランダ人、本来はフェルホーフェンとカタカナ表記すべきだろう。「氷の微笑」、「ブラックブック」)原作:フィリップ・ディジャン

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まあ、よくこんなストーリーを考えつく者がいるんだというのが見終わった後の、率直な感想。フランス以外では、まず起こり得ないような展開である。要するに登場人物全員が一癖も二癖もある(日本人から見れば)変人揃い。

そろそろ老齢に入ろうとする主人公ミシェル(演じるイザベル・ユペールはすでに64歳!)は新鋭コンピューターゲーム開発会社の腕利きCEO。殺人鬼の父親は服役中、プチ整形を繰り返している老母は、財産狙いで近づく若いツバメとよろしくやっている、離婚した物書きの元亭主は若い女と同棲中、出来損ないの一人息子、ヴァンサンはバカな女に入れあげている。大変な家庭環境だ。でも一番変わっているのは性倒錯者でレズのミシェルだろう。

ある日、一瞬の隙を突かれて、全身黒づくめの男に押入られ、レイプされてしまう。犯人は誰か、思わせぶりな展開で、観客も一緒に探すことになる。レイプされても、父親のトラウマがあり、警察には届けないばかりか、それをきっかけにミシェルの中で、何かが変化していく。

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⬆︎ミシェルが会いに行く直前に獄死(自死)した父親の遺灰を(おそらくセーヌ川)まくミシェル。(違法行為と思うが)

レイプ犯は意外な人物だったことが分かり、犯人との危険な関係が続く。ヴァンサンに犯人が撲殺されるまでは。

広い屋敷内で次々に起こる”事件”を目撃しているのは黒猫だけである。この猫ちゃん、ブスだが、演技力が凄い!

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当初ハリウッドで映画化する手筈で、主演女優を探していたが、二コール・キッドマンや、ジュリアン・ムーアなど、大物女優にかたっぱしから断られる。それも即決。それぐらい、レイプシーンがなんども出てくる原作が女優探しを難航させる。結局、製作者はアメリカで撮るのを諦め、話をフランスに切り替えて改めて主演女優探し。原作を読んだイザベル・ユペール意欲を示し、監督を逆指名。オランダ人のヴァーホーヴェンである。過去、一緒に仕事をしていないのに、多大なる関心をこの監督に抱いていたようだ。

今や、フランス映画界で右に出る者がいないほど名女優の地位を恣にしているユペールの、文字通り体当たり演技も見ものである。美人とは程遠いが、味のある、いかにもフランス女優ここにあり感がいい。

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冒頭のシーン、演技をつける監督。

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右端はレイプ犯のロラン・ラフィット

#56 画像はIMDbから

創作オペラ「セヴィリアの理髪師の結婚」

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タイトルから分かるように、二つの名作オペラをくっつけちまった、奇天烈な創作オペラ!上のチラシにもある構成・演出:田尾下 哲/家田 淳の仕業である。

もともと、ストーリーの展開は「セヴィリア・・・」があって、その続きが「フィガロの・・・」なのだから、いずれ誰かが考えるだろうと思へば、それほど突拍子もないものでもないが、いざやるとなると、相当な決断が必要だろうことは想像に難くない。なんたって天下のモーツァルトさんとロッシーニさんに失礼に当たりはしないだろうかって、考えるよね、普通は。

ちなみに、フィガロの初演は1786年、セヴィリアはちょうど30年後の1816年と、ストーリーの展開とは逆になっている。本公演では、セヴィリアの3年後がフィガロという設定。

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⬆︎武道館付近の行列。まだ最後尾が見えない。

多大なる興味を持って観に行きましたよ。その前にミューザ川崎でコンサートが入っていたのだが、こっちの演目の方が気になって、前座だけで出てきてしまった。その上、日テレの24時間テレビの会場が近くの武道館なので混雑が予想されるなどという情報も入ってきており、早め早めに会場へ。案外スムーズに言って、もらった整理券番号は72は上出来。

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「セヴィリア・・・」のおかげで、楽しみにいていた「マラ5」は結局、聞き損なった。

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またこの豪華絢爛たる出演者陣はどうだろう!できれば両方見たいところだったが、毎回こんなこと言いつつも同じ演目を両組とも見た経験、一度もなし。我ながら、ケチ。

二つのオペラをくっつけるというのは、ガラガラポンとは行かないから、最初はフィガロ、次に、ハイ、セヴィリア、それから再び、フィガロで、また次にセヴィリア。んで、最後はフィガロという具合で、どちらかと言うと、やはりモーツァルト比重が重かったかな。

ま、それにしても、ごく自然にストーリーも展開して行くし、さすがに見事な構成と演出だ。驚きました。ただ、観る側、聴く側に両方のオペラの情報がきっちり入っていないと、訳、分かんなくなるだろう。

中で、一番美味しいところを持って言っちゃったのは紛れもなく嘉目真木子!いいアリアを独り占めの観、たっぷり。それでも、皆さん、それぞれ大善戦!終わってみれば、大喝采のブラヴィッシミでありました。

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ああ、それから初めて聞いたバスの森 雅史の低音の響きには、ちょっと惚れましたね。なかなかあのような響きを出せる人、多くないから。

終演後、混み合うロビーに、出演者が全員お出ましになり、大サービス。ここぞとばかり撮りまくりました。

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左、美しい高音で会場を魅了したリンドーロ/アルマヴィーヴァ伯爵役の山本康寛と、右はバルトロの三戸大久。この人の威圧感と迫力は日本人離れしている。

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どうですか、このお姿!でも、10年近くずーっとフォローしているが、少しばかり貫禄も備わってきた。以前はスザンナの方が適役だったが、今日はロジーナ/伯爵夫人。

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日本オペラ界随一の細身長身、手足の長さはハンパない。それを折りたたむような演技が凄かった!こんなケルビーノができるのは青木エマしかいない。姿ばかりが話題になりがちだが、もちろん本業の歌唱の方もずば抜けている。だいぶ後ろに下がったのだが、それでも全身が収まりきらない。

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マルチェッリーナのイヌッチョこと磯地美樹、少し痩せたんじゃない?と言ったら、変顔で返された。安定感ある演唱、さすがです。

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フィガロの方の伯爵を演じた、ベテランの与那城 敬。伯爵にふさわしい気品を備えたバリトン。今宵も存在感、たっぷり見せつけた。失礼ながら、この童顔だから、やはりスカルピアなどは、ちょっとね。よほど特殊メイクでも施さないことには、トスカに手玉に取られそうだ。

#51 (文中敬称略)

 

 

實川 風(かおる)ピアノ・リサイタル@銀座ヤマハホール

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この新進のピアニストを聞くため、2年ぶりにヤマハホールへ。久しぶりの客席の座り心地は上々。チケット購入がかなり出遅れたために1階最後列から二番目の、しかも左端で、見づらい、聞きづらいだろうことはある程度覚悟してたが、これがどうして、実に聴きやすい、見やすいポジションで、うまい空間設計を施しているものと感心した次第。

このピアニストを初めて聞いたのは、今年の3月、アプリコホール。その時の記事

今回も期待を裏切らず、若々しく鮮烈な印象を残して、舞台を去っていった。アンコールは3曲もサービスしてくれたが、鳴り止まぬ拍手に、戸惑い、照れ臭そうにしながら、アンコール(エチュード作品25-1 エオリアンハープ、ファリャ作曲「恋は魔術師」から火祭りの踊り、エチュード作品25-12「大洋」)に応える姿が大変チャーミングで、一層女性ファンの心を捉えたように見えた。ちなみに、この日の客層は、前日と打って変わって、比較的若い女性が6割ぐらいの感じだった。

こういう若手がどんどん台頭してくるのを見るのは実に気持ちのいいこと。たまたまこの日、スイスで開催された、若手ピアニストの登竜門と言われるクララ・ハスキル国際コンクールで、日本人の藤田真央(男)が優勝という嬉しいニュースも飛び込んできていた。

#49