ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

横浜シティ・フィルハーモニック第64回定期演奏会@アプリコ大ホール

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昨年も同じ日に第62回定期演奏会を行っているが、場所はミューザ川崎ラフマニノフの P協2番とシンフォニー2番という組み合わせ。

今年は会場をアプリコに移し、演目は「皇帝」と「悲愴」である。超がつく人気演目で、好天にも恵まれたせいか、開場時間の10分前に会場に到着したら、いつ果てるとも分からぬほどのの長蛇の列!こりゃいかんと、一旦は帰りかけたのだが、結末が知りたくて、1階ロビーでスタンバイ。他にも並びたくない高齢者たちがその辺に座ったりしていた。開演5分前になって、列の最後尾が目の前に到着、その辺にいた連中も一斉に中へ。さすが大ホール、これだけ長い列でも見事吸収してしまった。

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「皇帝」を弾いた東 誠三って、私は知らないピアニストだが、巷ではかなり高名だそうである。大柄で指も長いらしく、えらく軽々演奏していた。ブラーヴォと喝采、凄まじく鳴り響いていた。もちろん演奏には文句あろうはずなし。参りました!

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メインイベントの「悲愴」では、いきなりハプニング。冒頭の有名なバスーン・ソロで、音が一瞬出なくなってしまった。2小節の最初のソの音である。

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恐らくリードになんらかの不具合が出た模様。額にじっとりと脂汗が光る。その後も不調で、なんども首をかしげるしぐさ。後半はやや持ち直したが、終演後はうちのめされたようで、ちょっと気の毒だった。しかも、マエストロから最初に喝采を浴びるようにスタンディングの指示。それを一瞬だが、嫌がるような仕草も。

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団員たちが左右の袖にはけ始めても、顔面蒼白のままで、近くの他の団員から慰められていたようだ。直前の練習時に、その辺、調整出来なかったんだろうか。かなりショックだったろう。

最初にあの超有名な旋律を弦が奏でるところで、ホルンの音が大きすぎで、ちょっともったいない気がしたが、ま、それでも演奏自体はその後、しっかり持ち直して、終わってみれば、一応の成功だろう。

あの冒頭部分だが、なぜかチャイコフスキーの5番でも感じるのだが、広大なロシアの大雪原に夕日がゆっくり落ちていく光景が想像されてしまう。なにか刷り込みができてしまったようだ。

#75 (文中敬称略)

 

「ノクターナル・アニマルズ」

171104 原題も:NOCTURNAL ANIMALSとまったく同じ。こういう邦題の付け方は楽だし、そして変にいじらない方がいい。米 116分。製作・脚本・監督:トム・フォード(56歳、ファッション・デザイナーでもある才人)

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上のタイトルの下に「人は誰かを愛したら、放り出してはいけない」という警句のような1行が見える。そう、この作品、愛する人物に才能がない(少なくとも自分よりは)という打算見え見えで捨てたことで、特殊な方法で仕返しをされるという、こわ〜いお話。

冒頭、超のつくおデブの年増女が素っ裸で踊るシーンが延々と映し出され、なにか、嫌〜な気分に。でも、このシーンは何かの伏線でもないし、作品の展開にはほとんど関係がないと思われるが、トム・フォードとしては何らかの意味合いを持たせているんだろう。

金銭的にはなんの不自由もなく極めて安定した生活だが、ダンナ(アーミー・ハマー)が女を作ってることを知り、精神的にはすこぶる不安定な主人公のスーザン(エイミー・アダムス)、ある日、20年前に別れた(女の方が”捨てた”形)エドワード(ジェイク・ギレンホー)から小説の原稿が送られてくる。

読み始めたところで、映画は小説の世界に入り込む。トニー(ギレンホール)はカミさんと一人娘を連れての夜間ドライブ。途中から”あおり”や割り込みを繰り返され(今、日本でもちょうど話題になっていることでもあり、この30分はかなり怖い)、挙句にタイヤをパンクさせられて、カミさんと娘を連れ去られてしまう。抵抗しようにも、相手は屈強な3人組だし、人気のない荒野では、どうにもならない。

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翌朝、地元警察に届け出て、一緒に実況検分に行くと、なんと二人の惨殺死体を発見。それから一年後、地元警察のボビー(マイケル・シャノン)から犯人が上がったという連絡が。ところが、状況証拠だけで、不起訴に。だが、癌で余命僅かと告白するボビーは、なんとか個人的にトニーを助けたいと、主犯格の二人を脅して荒野の一軒家に監禁・・・。

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⬆︎ボビー(マイケル・シャノン)は、当初から非協力と思わせるほど無愛想だが、実はトニーには同情し、リベンジをさせたいと考えている。何か自分の家族も不幸にして亡くしたらしいと思えるセリフが出てくる。マイケル・シャノンの眼光の鋭いこと!この作品でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。

この小説のエンディングは、撃った犯人の反撃にあい、トニーも倒れた拍子に自分の持ってるピストルが暴発して死んでしまうのだが、読み終わったスーザンには、とうてい小説の話には思えない。更には小説としての完成度も高く、エドワードの力量を認めざるを得ないのと、内容を確認したい。しかも、亭主はとっくに自分を離れている今、久しぶりにエドワードに再会したい。

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メールで約束した時間になっても、約束のレストランに現れないエドワード。一人黙々と杯を重ねるスーザン。そして、周囲から誰もいなくなる。暗転してジ・エンド。

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彼女の経営する会社には、こんな暗示的なアート作品が!

エドワードは、生きているのか、もうこの世にはいないのか、それは見た人に任せるトム・フォード。うまいねぇ〜、この辺りは。

#74 画像はIMDbから

「華麗なるディーヴァたちの饗宴」@ジャルダン・ドゥ・ルセーヌ(原宿)

171102 合唱練習でお世話になっている指導者、藤永和望出演のコンサートへ。この、いかにも館と呼ぶにふさわしい会場、喧騒極まる竹下通りの一本裏側の小径だが、不思議なほど静寂に包まれている。

1階部分がコンサート会場になっており、いくつかのテーブルに分かれるから、場所によっては、聞こえるが、視覚的にはかなり制限されるところもある。従って、早めに行って、いい席を確保することだ。@¥6,500でビュッフェディナー(まあまあの内容。お皿がとにかく小さいから頑張っても少ししか乗らないので、大食漢には不向き。)付きだから、コスパは高い方だろう。

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我が合唱団員、13名(一人は事情によりドタキャン。でも、事前に払込んでいるから、誰にも迷惑をかけていない)が大挙(?)集結、一番大きな楕円形のテーブルに陣取った。聴く、見るには悪くはないポジションだが、ビュッフェが並ぶのは対角線上の反対側と、この点ではサイアク!

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演目は、以下の通り。

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マーカーで赤くしたのが、藤永和望が歌った楽曲。どれも、極めて難曲である。ロドリーゴ、リスト、グノー、ヴェルディと作曲家の国籍がみな異なるのは敢えての選曲だろう。

この中でもとりわけ、10.のロミ・ジュリ、16.のÉ stranoで始まる「そはかの人か」は長いし、風邪から立ち直ったばかりでは、相当きつかったろうと想像される。生来の美声に加えて類稀なるテクニックを駆使、いやいやそれは凄かった!思わず、Bravissima~~~!!!と絶叫していた。

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アンコールには、わが合唱団も歌うことになっているTIME TO SAY GOODBYEを選曲してくれて、我が陣営から一斉に歓声と喝采が送られた。

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ホッとしたと同時に満足げな表情。終演後、お客さまをお見送り。次の舞台はいつ、どこかな?

#74   (文中敬称略)

「メイキング・カルメン」@きゅりあん小ホール

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日頃応援している青栁・江口夫妻がかかわっているスターファーム(新人オペラ歌手発掘・育成システム)の記念すべき第1回公演。傘下の若手歌手たちが十数人(女性が圧倒的に多い)が入れ替わり立ち替わり登場し、日頃の研鑽の成果を披露するという趣向。

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開演時間になると、稽古中らしきスタジオ、わらわらと歌手たちが登場して、てんでに屈伸運動をしたり、おしゃべりに熱中したり。そこへ演出家らしき男が現れ、新人たちに一席ぶつのだが、ここが一つのポイントで、名前の由来にもなっているスターに触れる。夜空にどれだけの星があるのか、君たちはその中の一つ。シューティングスターになるか、一等星として輝くかは、これからの研鑽次第と。

これが第1層で、その後、この演出家は作曲家ジョルジュ・ビゼー役としても登場することになり、なかなか重要な役割だ。ジョルジュ・ビゼーを取り巻く人々、声楽教師の父親、ピアニストだった母親、女中でビゼーと密接な関係になる女たちが登場、これが第2層。

そして第3層は、助演が出てくる、ほんとのオペラ「カルメン」。映画の世界では、よく使われる時間軸をずらして、フラッシュバックが多用される手法だが、舞台、それもオペラでこのような演出はやはり珍しいだろう。さすが三浦アンコウだ!

それと下の写真では定かではないが、舞台装置が素晴らしい!光る素材の幕にジョルジュ・ビゼーのサインを大きく描き、手前には5枚の縦長キャスター付きパネルが並び、出演者が舞台の進行に合わせて自在にこれらを入れ替えていき、エンディングで、裏返し(本来こっちが表)にすると、CARMENという文字と、派手なカラーで闘牛士の絵が現れる仕掛け。オシャレ!!

今回はできるだけ均等に全員に役を割り当てる意図から、昼夜公演で、まったく違うキャスティングにしている。であれば、本来両方見るべしなのだが、夜は夜で別のコンサートが入っていて、後ろ髪を引かれる思いで、会場を後にした。

さあて、この中から、将来日本オペラ界を牽引するようなスターがどんだけ出現するか、楽しみにしたい。

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助演でドン・ホセを演じた青栁素晴、予想以上に出番が多かったので、なにか得した気分。

#73 (文中敬称略)

「ブレードランナー2049」

171030 原題も:BLADE RUNNER 2049 米 2017 163分(長い!)製作総指揮:リドリー・スコット、監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ(カナダ人)彼が監督した「灼熱の魂」(2010)以降、日本公開作品はすべて見ている。いずれもほぼはずれはない。

そもそも35年前の作品も見ていないし、特別の興味もないのだが、この二人の共演を見たいと思って、無謀にも・・・。

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タイトル通り、前作の設定2019から30年後の設定で、舞台はロサンジェルス。前作を見ていない以上、かなり分かりづらい筋書きはともかくとして、シュール、かつスタイリッシュな映像美はたっぷり堪能できた。全体に荒廃した都市を描いているので、彩度をかなり落とした落ち着いたトーンで、リアリティー感も十分。

猥雑な繁華街の様子は日本語あり、ハングルあり、アジアを意識した設定が目につく。日本語は他にも話し言葉として普通に登場するから、面白い。アンドロイド、じゃなかったレプリカントは多言語対応能力を備えているようだ。

主役のライアン・ゴズリング扮する警察官Kも、また30年の時の経過を経て登場するハリソン・フォード演じるリック・デッカードほかも、レプリカントで、生身の人間はごく少数しか登場しないという設定。

旧約聖書からの隠喩(ラケル『レイチェル』にまつわる話など)やトロイに関連するホメロスの話などもメタファーとして出て来て、ある程度、こうした知識があれば、理解も深くなるだろうが、まあ一般の日本人には無理な話だ。

始まったから1時間40分もして、やっとハリソン・フォードが初めて登場する。隠れていたのはラスヴェガスのホテルということになっていて、ライアン・ゴズリングとの格闘シーンはカジノの中。ここでホログラムでエルビス・プレスリーマリリン・モンローが登場させ、古い世代の観客には嬉しい場面だ。エルヴィスは「愛さずにはいられない」などを熱唱する。ほかにジュークボックスをかけるとやはりホログラムでフランク・シナトラ⬇︎が出て来て歌う姿を見るのも楽しい。ヴィルヌーヴのサービス精神に感謝だ。

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音楽といえば、ハンス・ジマーベンジャミン・ウォルフィッシュが担当しているが、重低音中心に、ずーっと鳴り響かせていて、その効果は絶大だ。また警官Kが起動するところで使われるのはプロコフィエフの「ペーターと狼」からの有名なメロディー。

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ハリソン・フォードもすでに75歳、さすがに背も縮んでるし、老いは隠せないが、まだまだ魅力たっぷりの俳優だ。

本作を”滅多に見かけない駄作”と一刀両断する批評もあるようで、特に前作を見た観客からどのような評価が出るか、戦々恐々だったとはヴィルヌーヴ監督談。

でも、長くて退屈するようなことはなく、こういう作品は好みの俳優の演技と映像美を楽しめれば、それでよしとしよう。

#73 画像はIMDbとALLCINEMA on lineから