ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「万引き家族」

180627 原案・監督・脚本・監督:是枝裕和 120分

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実の家族以上にやすらぎに満ちている偽家族。収入源は、ばあちゃん(樹木希林)のわずかな年金、信代(安藤サクラ)のクリーニング屋でのアルバイト代、そして万引き。

一人一人に曰く因縁があり、いつ崩壊してもおかしくない砂上の楼閣。汚部屋に近い一軒家。案外、破綻が早くなる。ばあちゃんが楽しかった海水浴の翌朝、ぽっくり。誰にも知られては困る一家、すばやくばあちゃんを床下に。

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傍目にはほんとうの家族にしか見えない一家だが・・・。

これまでの是枝作品にも共通するが、人というのは、ばかなことを繰り返すものだが、どうあがいても一人では生きていけない、かわいそうな存在で、愛こそが心の空隙を埋め、闇を照らし、自分たちを支えていることにはなかなか気付かない。

血は繋がっていないのに、親子以上の絆が芽生えている治(リリー・フランキー)のところで一夜を明かし、施設へ戻る翔太(城桧吏)を見送る治、バスが走り出し、懸命に後を追う治の心が切ない。

凛と名を変えたゆり(じゅり)が、本当の両親の家に戻されたものの、そこは愛の感じられない空漠とした世界。バルコニーに出て踏み台に乗り、凛が遠くを見るラストシーンが秀逸。

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カンヌではすっかり常連になった是枝裕和と出演者たち。監督が絶対的な信頼を置いているメインキャスト陣。翔太役の男の子は、撮影中にどんどん成長していき、終わりの方では、体つきも風貌を変わっている。

#52 画像はALLCINEMA on lineから

歌劇「劇場支配人」+「魔笛」@かつしかシンフォニーヒルズ

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地元合唱団の指導者がパミーナを演じたので、他の団員10名ほどと前から4列目に陣取り、大喝采とブラーヴァを盛大に送った。出演の合唱団員の中に、嘗て第九を一緒に歌った仲間を発見したのも嬉しいことだった。

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「劇場支配人」という演目は初めて聞いた。事前にYouTubeで検索しても、序曲ばかりで、歌手が登場するものがない。それもそのはず、上の説明で納得!下の「あとがきに代えて」に登場する黒田裕史の脚本はよくできていて、十分楽しめた。ソプラノ二人の競演も、なかなか聞き応えがあった。

ちなみに序曲だが、いかにもモーツァルトらしい、ウキウキワクワクするようなメロディーが随所に顔を出し、これだけが単独で演奏されることが多いのも大いに頷ける。

 

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魔笛はもう何十回となく聞いているが、その都度演出や解釈が異なるので、毎回それなりに楽しめる。

今回は演奏会形式ということで、男性陣はすべてタキシードの正装だが、女性陣はそれぞれ工夫を凝らした可愛らしい、或いは豪勢なコスチュームで会場を湧かせていた。振りも適宜加わるし、背景の映像にも工夫が凝らしてあり、字幕も分かりやすく、全体にそれほどの違和感を感じずに楽しめたのはありがたい。

この寄せ集めと思われる「テアトロ・フィガロ管弦楽団」のうまさには脱帽だ!もちろん、小編成ながら合唱団もよく鍛えられた印象を受けた。

パミーナの藤永和望、この役柄にぴったりの美声の持ち主。夜女の内海響子は、黒地に銀色の縫取りのあるゴージャスな姿でせり上がって登場し、場内からため息が漏れるほどの存在感を示したが、肝心の超有名なアリアでは、失礼ながら、やや不発だったのは惜しまれる。

タミーノ、藤田卓也、藤原が誇る屈指のテノールだが、前半は今ひとつ調子がうわずった印象を受けた。しかし、徐々に本来のテクニックを取り戻し、終わってみれば、さすがの名唱の連続となった。

パパゲーノ、大川 博(元東映社長と同姓同名)は、歌唱も素晴らしかったことに加え、演技がそこぶる自然でパパゲーノになりきっていたのは賞賛されるべきだろう。終演後、本人に何度目か確認したら、なんと今回は初役!そんなことって???

ナレーションが入る分、舞台上の動きを割愛してすこし短縮したらしいが、実際には140分かかっていたので、ほとんどカットした場面が分からなかったほど。

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パミーナ、衣装は自作らしい。才能ある人は何にでも。合唱団のメンバーと。

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パパゲーノを見事に演じたバリトン大川 博と、うちの団員。

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ザラストロを演じた高橋雄一には、2年前、海の日のチャリティーコンサートでロッシーニの小荘厳ミサを合唱で歌った際、ベースのトラで参加され、お世話になった。今日は難しい役どころのザラストロを立派に歌いきった。

#36 文中敬称略

 

オルガン演奏会@東大駒場キャンパス

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こういう素敵なコンサートが無料で開催されていたことは、まったく知らなかった。すでに138回というから驚く。

ついでに、900番教室とは一般的には講堂という風情なのだが、そこにこのようなパイプオルガンが設置されていることにも驚くし、羨ましい限りで、こういう環境で勉学に励める学生たち、本当に恵まれていると思う。

講堂ゆえ、おそらく天井の煌々たる明かりの照度調整はできないと思われる。コンサートだから、本来もう少しだけ照度を落としたら雰囲気が出るところだが、贅沢は言えない。

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それはともかく、正面にはモニターに映し出される演奏者の姿が。ただし、音源が後ろの上部ということで、一部の聴衆は、自席から顔だけ後ろ側に向けて鑑賞していたが、不自然な体勢だから、正面のモニターを見て、後ろから飛んでくる演奏を聴くしかない。

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500人ほど入る講堂はほぼ満席となっていた。前方で挨拶するのは日本語堪能なオルガニストでもある、ヘルマン・ゴチェフスキー教授。名前からするとポーランド系ドイツ人ということか。出身のフライブルク大学での専攻は超域文化科学で、現在は音楽学、音楽論、音楽史、演奏論などで教鞭を取っている模様。今回の演目のひとつについて、同教授が以下のように大変興味深い理論を展開している。

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演奏された演目は、大半が親しみやすいものばかりで、ソプラノとオルガン演奏がほぼ交互に組まれていた。

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⬆︎ちなみに留学中、1位となった国際声楽コンクールが行われたカリ(Cagli)はマルケ州、ペーザロ・ウルビーノ県にある町。ヨーロッパでのオペラ・デビューもこの町での「アリオダンテ」(ヘンデル)、ダリンダ役。

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帰り際にパチリ。

その後、渋谷へ出て、タパス屋でピンチョスで一杯だけ。

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どれもおいしかった。(安くはなかったけど)

#35

「サバービコン 仮面を被った街」

180620 SUBURBICON 米 105分 製作(共)・脚本(イーサン兄弟と共)・監督:ジョージ・クルーニー

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それほどの評判ではなかった作品だが、期待以上に楽しめた。コーエン兄弟の脚本は悪くないし、展開に意外性もあり、自分にはクルーニーの力作と思えたが・・・。

時代設定は1950年代、誰もが憧れる夢のニュータウンという触れ込みの街で起きる二つの事件。一つは主人公一家での保険金詐欺事件、もう一つは道路を挟んだ家に引っ越して来た黒人一家に対する暴動事件。

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この作品に興味を持ったのは、ジュリアン・ムーアが出演すること。似たような時代設定で、同じく黒人問題を取り上げた「エデンより彼方へ」(2002)での彼女の好演が忘れられない。この時代設定に彼女ほどぴったりはまる女優は少ないと思う。

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閑静な新興住宅街に突然黒人一家が引っ越して来たから、たちまち騒然とする周辺の白人住人たち。最初は、それを見越したかのように当の黒人一家も気丈に振舞っていたが、次第にエスカレートする騒ぎで・・・まさかの展開が終盤に。

これは実際にあったニュータウンニューヨーク州ペンシルヴァニア州に出現したレヴィッタウン(LEVITTOWN)がモデルになっていて、黒人一家を巻き込む暴動も実際に起きていたらしい。

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そうした大人たちの騒ぎをよそに子供同士はすぐに仲良しに。

多額の保険金を掛け、双子の姉を強盗殺人を装って殺害するガードナー(マット・デイモン)、強盗になり済ませたマフィアと示し合わせていて、警察の面通しに立ち会うが、なんとその場に子供が居合わせ(うすうす真相に感づいている一人息子が車の中に隠れて親の後をつけてきたんだろう)、「あ、あのおじちゃんたちだ!」

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一方、詐欺に感づく保険屋(オスカー・アイザック)が登場、この辺りから俄然緊迫感が増す。

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オスカー・アイザックグアテマラ出身の39歳)の演技が小気味好い。愛想よく現れて、「オタクたちの悪事、俺はみんな知ってんだよ。俺にも一枚加わわらせてもらうとするか」

その後、この白人一家で唯一の生存者になった少年が、暴動騒ぎも収まり、元の静けさが戻った街でキャッチボールを始め、カメラが上空へと引いてジ・エンド。なかなかうまい締め方だ。

みんなが幸せになれる夢のニュータウンと大々的にふれこんだものの、一皮むけば、このザマでっせというお話。そして未来に夢を繋げるようなエンディング。

#51 画像はIMDbから。

 

R.シュトラウスを聴く@サントリーホール

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時間調整を兼ねて、まずはカラヤン広場に面するAUX BACCANALESで食前酒とオムレツで少しだけ腹ごしらえ。今日は睡魔を恐れ、ギネス一杯だけにとどめる。

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R.シュトラウスだけで構成されたプログラム。歌劇「カプリッチョ」や「薔薇の騎士」は何度か見たことはあるし、交響詩の中では「ティル・オイゲンシュピーゲルの愉快ないたずら」や「ツァラトゥストラはかく語りき」、「英雄の生涯」ぐらいは聞いたことがあるが、比較的自分には馴染みが薄い作曲家。

まあ、それにしても、楽器編成が凄い!大編成というか、珍しい楽器がさまざま登場する。そして、他の作曲家が考えもしなかったサウンドを創り出して楽しんでいたのだろう。

ドン・キホーテ」では、見たこともないような楽器が奥に鎮座していて、残念ながら奏者が後ろにいるから、動きが見えない。なんでもウィンド・マシーンという楽器で、文字通り風の音を鳴らしていたのだ。ただ、自分にはそれは聞こえなかった。

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カプリッチョ」の前奏曲と月光の音楽では、11分の演奏時間の半分以上は第2バイオリンを除く弦楽第1プルトの6人だけで演奏するという、これなども、結構珍しい演奏である。

また、最後の演目では、奥に鍵盤打楽器が2台見えていて、1台は普通の鉄筋でマレットを叩いて演奏していたが、もう一台のグロッケンシュピールについては、終演部で打楽器奏者二人掛かりで、バイオリンの弓らしきもので音板の縁を上下させて鳴らすと言う特殊な奏法を披露。初めて見る光景だった。

この39歳という若さのマエストロ、その名もコルネリウス・マイスターという新進のドイツ人。マイスターはイタリア語にすればマエストロであるから、運命的だ。

開演前に楽団員が入場すると同時にマエストロが登場して、全員が着席するのを待つというスタイル。というのも、下のチラシの説明を見れば分かるように、黙祷の代わりに演奏するためのスタンバイだったようだ。洒落たことをやるもの。

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演奏されたチャイコフスキーの「くるみ割り人形」に「情景/冬の松林」という曲があること、知らなかった。普段聴いているのは、全部で15曲もある中のほんの一部でしかないのだ。バレエを見ていないから、知らないのも無理はない。

#34