ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「巨匠たちのクレパス画展」@損保ジャパン日本興亜美術館

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珍しい展覧会へ。小ぶりながら、見応えたっぷりというのが鑑賞後の第一印象!内外の巨匠たちがこうした庶民的な画材で作品を多数残していたことに、ちょっとした驚きを感じた。

子供の頃には誰でもクレヨンやクレパスに親しんだものだが、そもそもクレヨン、クレパスパステルの区別がつかない。本展の協力に名を連ねている(株)サクラクレパスによれば、、

日本では大正時代に作られ始めたクレヨンは、顔料を固形ワックスだけで練り固めたもので、硬く、塗った紙に定着し、艶があり、手にベとつかない、などの長所が歓迎された。

反面、硬くて滑りやすいという性質上、線描が中心となるので表現に限界が。しだいにパステのように画用紙の上で混色したり、のばしたりすることができるなど、高度で幅広い描画効果が得られる性質をもったクレヨンが求められるようになっていった。

しかし、パステルは顔料を結合材で固めただけの描画材料ゆえ、紙などの基底材となる表面の凹凸に顔料が擦り付けられている状態なので、仕上げにフィキサチーフという定着液を霧状にして吹き付けるという後処理が必要です。

そこでパステルのように自由に混色ができてのびのび描け、クレヨンのように後処理の手間がなく、しかも油絵具のようにべっとり塗れて画面が盛り上がるような、つまりそれぞれのいいとこ取りの描画材料の開発が進めらた。

試行錯誤の末、完成した「クレパス」は、クレヨンのクレとパステルのパスをとって命名され、「クレヨンとパステルそれぞれの描画上の長所を兼ね備えた新しい描画材料」という画期的なものだった。

ということで、これがなかなか奥深いのだ。ま、それはともかくとして、これで作品を残した画家たちのクレパスに対する反応が一様に素晴らしいのに感心する。猪熊弦一郎なども、「クレパスは何にも束縛されず、まことに自由である」と絶賛している。

油絵を描く前の段階での下絵制作にクレパスを利用する画家たちも少なくない。あるいはスケッチの上にいきなりクレパスで描画するケースも珍しくないが、これもまた、クレパスの性質を上手く利用した例だろう。

出品作品は150点、詳細は➡︎作品リスト

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熊谷守一 「裸婦」

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山本鼎 「江の浦風景」

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猪熊弦一郎 「顔」

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舟越 桂 「習作」

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山下 清 「花火」

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小磯良平 「婦人像」

中には瀧本周造の「緑の扉」、「Parque」など、ほんとうにクレパスで描いたのか訝しく思えるほどの超細密画法もあり、学芸員に尋ねても、「企業秘密なので、申し訳ありません」と。

こんなハンディな画材で絵が描けるなら自分でも描けそうと思う鑑賞者も、きっと少なくないだろう。自分もそんな一人かもと思いつつ、いつものように最後のコーナーでグランマ・モーゼス東郷青児、そして当館最大の「売り」である、セザンヌゴッホゴーギャンの大作に敬意を評して、クソ暑い下界へと。

会期は9月9日(日)まで。画像は当館ホームページほかからお借りしました。

「明治からの贈り物」@静嘉堂文庫 ブロガー対象内覧会へ

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ここのコレクションの全貌は➡︎静嘉堂文庫ホームページで

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本展のタイトル通り、今回は明治の逸品ぞろいの展示。

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コレクション全体のほんの一部だが、それが思わずため息の出そうなものばかりという、日本の絵画・彫刻・工芸品ファンにはまさに垂涎の展覧会である。昨日から約7週間という会期で、前期・後期で一部展示が入れ替わるから注意する必要あり。

今回、ブロガー対象の内覧会に応募していたところ、運良く当選したので、以下の内容でトークショーが聞けたり、一点撮りの撮影が出来たり(一部作品を除く)、まことに嬉しい企画である。

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二子玉川駅からミニバスで美術館前まで、普段は10分もかからないところを何と35分!3連休の最終日ゆえの渋滞で、どうにもならない。トークショーには大幅に遅れた。貴重なトークの多くを聞き逃した。

バス停からのアプローチは上のような具合。両側、鬱蒼とした林をだらだらと10分ほど上がっていく。どこか、外国でも似たような経験したなぁと思いつつ、汗を拭き吹きやっと辿り着いた。館内は冷房が効きすぎていて、羽織るもの、何かもってくればよかったと後悔。

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中央は当館の河野元昭館長、右は長谷川祥子主任学芸員、左は「青い日記帳」でお馴染み、ナビゲーターのTak氏。トークショー終了後、記念撮影。その後、一般客が帰った後、ギャラリートークに移行。約1時間、長谷川学芸員からほぼ全作品について、詳細な解説をしていただく。その合間に撮影もしないといけないから、一言も聞き漏らしたくないし、撮影もしないといけないし、というわけで、結構これが慌ただしい。

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一番上の栞の表紙にも橋本雅邦の龍虎図屏風。あまりにも雄大で、写真には収まらない。裏事情や、作者に親しみのわくような裏話もいろいろしてくだるから、こうしてメモをしっかり取る人も。

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あの時代に中国の故事などを題材にして、こういう生々しい画風で聞こえた画家がいたこと自体、驚きを禁じ得ない。

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手前に描かれている武士たちの甲冑などの細かい筆さばきと色彩に目を奪われる。逆に景色はぼやーっと水墨画か水彩画のようなタッチで描かれている。

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省線七宝は浪川で、有線七宝(色の境を成す枠を残す手法)はおなじナミカワでも並河で、名は靖之。先日、この有線七宝の技法をNHKの美術番組で放映されたばかり。

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ガラスのショーケースの反射でどうやってもうまく撮れない。

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漆工芸の天才、柴田是眞の作品は一度、根津美術館で見たことがあり、絶句するほどの見事さだったが、ここで再会するとは、嬉しい限り。こういう細やかな力作はやはり本物を見ないとどうにもならない。

河鍋暁斎も天才の名をほしいままにした一人。下は「地獄・極楽めぐり図」。依頼主は日本橋大伝馬町で小間物問屋を営んでいた勝田五兵衛。亡くなった娘、田鶴(たつ)の供養のために描かせたもの。全部で40図もあるそうだが、そのうち35図を以下のように4回に分けて展示される。

・7/16(月・祝)-7/26(木)・田鶴の臨終と来迎、羅人宮、三途の川の渡し舟に乗る等
・7/27(金)-8/9(木)・賽の河原、旅館はりやま到着、田鶴の身支度等
・8/10(金)-8/23(木)・家族との再会、芝居小屋、盛り場等
・8/24(金)-9/2(日)・地獄見物、閻魔大王極楽行きの汽車、極楽往生

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これを収めるための内箱を、河鍋暁斎と不仲と言われていた柴田是眞が作っているのが興味ふかい。(参考出品)

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裏には、依頼主、勝田五兵衛の亡き娘、田鶴(14歳)の横顔。

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右側に是眞の銘が見える。

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かなりブレているが、この山本芳翠がいなければ、後の洋画家、黒田清輝は誕生していなかったと考えると、二人は相当興味深い関係にある。黒田の作品「裸体婦人像」と対峙するように展示されている。

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入口付近に展示されているのが、その作品。黒田と言えば腰巻展示事件として有名な『朝妝』(ちょうしょう)があるが、惜しくも消失している。

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 2点とも入口付近に展示されている。これらの作品の真の凄さを知るには、やはり現物を見る他にない。ガラス越しの写真では万分の一の再現すら不能。それほどの超絶技法!

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南側は緑の斜面を見下ろすような立地。

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森の小道を抜けると、パッと視界が開けて、静嘉堂文庫の建物が目の前に。

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人生も終盤になって初めて来ることになった。世田谷には小学校5年生から20年近く住んでいながら、一度も来ることがなかったのが不思議だ。我が大田区に次ぐ面積を持つ世田谷区でも、最深部とも言える立地ゆえ、重い腰が上がらなかった。(言い訳)

それがこの度、内覧会のお陰で来ることができたのは、まことに幸運であった。主催者には感謝しかない。

展示物の撮影については、主催者側から特別な許可を得ています。

本展の会期は7/16~9/2。午前10時から午後5時。月曜休館。入館料は一般が@¥1,000。途中で展示物の一部が入れ替わるので、「明治からの贈り物」を真から味わうには2回は来る必要がある。

ヨコハマベイフィル定期演奏会@アプリコ大ホール

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この神成マエストロは、昨年、我が合唱団の定期演奏会で振っていただき、そのご縁で、今回、合唱団の団員10名ほどと本格的なオケ演奏を楽しんだ。

オーボエ奏者の近藤菜実子は、まだかなり若いが、見事な吹きっぷり。小柄ながら、すごい肺活量があることにもびっくり!個人的にはフルートの同じ協奏曲の方が好きなのだが、これももちろんたっぷり楽しめた。Bravissima!! アンコールで吹いたNELLA FANTASIAも心に染み入る演奏!

チャイ5は今やチャイ6(悲愴)より好きな演目。出だしのクラリネットによる低音部のソロにはぞくっとくる。導入部も中間部も終盤も、いずれも彩り豊かで、名曲である。

エストロ、8ヶ月ぶりだが、やはり着実に指揮ぶりも堂に行ったものになっている。団員からの信頼も篤いのは、とっくり感じられた。アンコールはシベリウス「カレリア組曲から3番。

終演後、厚かましくも楽屋へ行き、合唱団員と記念撮影。

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#41 文中敬称略

「セラヴィー!」

180711  仏 117分 C'EST LA VIE (これが人生!つまり「しゃーない!」)監督:エリック・トレダノオリヴィエ・ナカシュ(「最強の二人」、「サンバ」)

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婚礼披露宴などのプロデューサー、マックス(ジャン=ピエール・バークリ、老けたねぇ)、引退の潮時を図っていて、最後の宴会をパリ近郊のシャトーで開催することに。ところが、予期せぬ不手際や珍事の連続で、もうめちゃくちゃ。それでも、転んでもただでは起きない。まあまあ朝がしらじらと明けるころには、メデタシメデタシとそれぞれが城を後にしていく。

集めたスタッフは彼の息のかかった連中ばかりで、気心が知れているはずなのだが、この日に限って、何から何までうまくいかない。手違いの連続で来るはずの料飲のスタッフが来ずに、代わりと称する男はまるで役立たず。

プロのカメラマン、最近はどいつもこいつもスマホで彼のよこでパシャパシャやるから、すっかり戦意喪失。撮影そっちのけで、オードブルばっかり食べる始末で、新郎から嫌味を言われるマックス。

右腕ともいうべき黒人女性のアデル(アイ・アイダラ)は、バンドマスター、ジェームス(ジル・ルルーシュ、歌、上手い!)と大口論(の挙句、最後は仲良くなっちゃうが)、客の中には懐メロの演奏を要求する連中が少なからず、「パタシューを是非!」と言われてもジェームスには何のことやら。適当に答えてお茶を濁すしかない。

17世紀のシャトーだし、当然ながら、最新式の電気設備など備えていない。突然停電になるわ、誰かが食材の入っている冷蔵庫の電源を抜いたとかで、予定していたメニューが出せなくなる。とりあえず、「塩を振ったパイを出せ!」と怒号するマックス。「喉が乾くから、どんどん炭酸水を飲ませろ、それで時間稼ぎだ」

極め付けは、新郎が気球に吊り下がって、新婦に上空から愛のメッセージ。下で綱を操ってた連中がうっかり離したもんだから、勝手な方向に飛んで行ってしまい・・・。

こんなドタバタだが、フランス人がやると、一味違った形になり、愚亭はかなり面白く見たし、エスプリの利いたやりとりもおかしく、一人でゲラゲラ。フランス式の喜劇だから、面白く観るには、ある程度、フランス、フランス人、フランス語、etc.の知識・情報があった方がいい。多分、上映期間は短いだろう。

ついでながら、撮影に使われたシャトーはフォンテーヌブロー至近にあるChâteau de Courances(クーロンス城)⬇︎ヴェルサイユ宮殿より先に建造されている。1630年頃。

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それにしても、フランス人が議論好きで、何を言われても凹まないし、気の利いた言い回しで反駁する国民性であることが、よく分かる作品。日本人の感性ではあり得ない会話がたっぷり。

#55 画像はIMDbから。

 

初めて生で聴く許昌(シュー・チャン)

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まったく偶然に、こんな素敵なコンサートに招かれ、至福の一刻を過ごせた。旅行会社が自社所有のホールでこうしたコンサートを開けること自体、羨ましき限り。すでに、これまでに開いたコンサートは優に200回を超えているらしい。

主にヨーロッパを拠点にして活動しているテノール許昌が急遽帰国(本国は中国だから、厳密には訪日が正しい)の話があり、俄か仕立てで企画したという。奥様でもあるソプラノの山口安紀子は、近年メキメキ力をつけて、人気急上昇中。この二人をささえるのが、美しいだけでなく、演奏スタイルもエレガントなピアニスト赤星裕子

許昌YouTubeでは聴いていたが、生で聴くのは今回が初めて。やはり高音の輝きは特別なもので、今日の短いコンサートでは、それをフィーチャーした選曲となった。

とりわけドニゼッティの「連隊の娘」から「友よ、・・・」では、ハイC9連発が有名だが、彼の場合は9発目は、+ハイD!という驚異の喉の持ち主。

アンコールは二人でO SOLE MIOを熱唱、暑さを吹き飛ばしてくれた。

#40 文中敬称略