ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

2重螺旋の恋人

180809 L'Amant Double(2重の恋人)仏 107分 脚本・監督:フランソワ・オゾン

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いかにもオゾンが撮りそうな作品。心理描写と現実描写が複雑に入り組んで、見るものを手玉に取り、騙し、そして放り出す。あとはご随意にどうぞ、と言わんばかり。

もうその手には乗ってやらないよ。結局、描かれたほとんどは主人公であるクロエの妄想の産物として眺めれば、最後の辻褄が合ってくると言うのが自分の見立てだが、受け止め方はそれぞれだろう。

頻繁に出てくる飼い猫の存在も、本作のキーポイントかも。また精神科医の待合室でクロエが植木鉢に手を伸ばして、土を指先で確認する仕草が二度も出てくるが、オゾンはこれで何かを表現しているのかも。

それにしても過激な描写が随所に。また性描写がいつになくしつこくて、いい加減うんざりする。何もそこまで、という感じだ。そのことがそんなに大事なのか。何かフロイト的な展開という含意でもあるのか。終盤、「エイリアン」そっくりの場面が。ここなどはグロ!

主演のマリーヌ・ヴァクト、美形なれど個性なし。ということで、自分にはまったく魅力なしに映った。

双子の相手役、ジェレミー・レニエは、ヒット作”シャンソン・ポピュレール”で一時代を築いたシャンソン歌手、クロード・フランソワの伝記映画「最後のマイウェイ」で見ているが、本作でもフランソワにそっくり!

⬇︎もう一つの興味はジャクリーヌ・ビセット。一時代、それなりの美貌で売った彼女だが、こう老いさらばえていては、言葉がない。女優の場合は、老け役に徹するのは至難と思わざるを得ない。初めて見たのはオードリー・ヘップバーンの「いつも二人で」。その時は23歳、今は74歳だもの。

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この邦題はなかなかで、原題をはるかに凌ぐ。二重螺旋がDNAを示していることは明白。また、劇中、螺旋階段が出てくる。ツッコミどころが多く、これまでのオゾンの作品の中では、それほど上位には来ないだろう。

#59 画像はIMDbから

「ヒトラーを欺いた黄色い星」

180807 DIE UNSICHTBAREN(見えざる者たち)独 111分 監督:クラウス・レーフレ

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スタッフ・キャスト陣に名前を知っている人物、皆無。ドイツでどの程度評価された作品なのか不明。

600万人もがナチスによって殺されたとされるユダヤ人だが、1943年6月、宣伝相ゲッベルスによりベルリンからユダヤ人一掃作戦に抵抗を続け、隠れ逃れたユダヤ人が7,000人もいたという事実は、衝撃的!

ただ、戦後生き延びられたのはその2割の1,500人に過ぎない。ユダヤ人の中にも、それなりの知恵と大いなる勇気、強い才覚を持ち、なおかつ運にも恵まれた人たちだけがやっとたどり着けた運命だ。

同時に、発覚すれば命がないことを承知で、こうしたユダヤ人たちを自宅などに匿った勇気あるドイツ人が多数いた事実も感動的だ。

隠れ家で、日中物音を立てずにひっそりと過ごすシーンは、「アンネの日記」の一場面を想起させる。

映画は、四人の生存者のモノローグを中心に組み立てられている。要所要所に実写フィルムをはさみ、再現ドラマ風に展開される。激しい銃撃や派手なアクションもなし。特別なヒーローも存在せず、普通の人々がドキュメンタリー・タッチで描かれるのみ。

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⬆︎街を歩いていると、ナチスの私服監視員から黄色い星の縫い付け方にイチャモンをつけられる。ちなみに彼の父親はドイツ人で、母親はユダヤ人だが、ドイツ人の配偶者ということで、ユダヤ人狩りの対象外。唯一、息子だけがユダヤ人として追われる身。これも随分気の毒な話だ。

1945年4月に入ると、いよいよ赤軍がベルリン市内への侵攻を開始。勢いづく隠れユダヤ人たち。防空壕から出てきた二人のユダヤ人青年、たちまち赤軍兵士に囲まれ、ドイツ人と疑われて撃たれそうになる。必死にユダヤ人と言い張ると、銃口を向けたままユダヤ教祈りの言葉を唱えてみろと言われ、手を挙げたまま、祈りの言葉を口にすると、表情を一変、銃を下げ、二人を固く抱擁する兵士。彼もユダヤ系ロシア人というわけで、これがなかなか感動的な終幕部の1シーン。

おそらくかなり低予算で作られたはずだが、うまく作ってある。画面にみなぎる並外れた緊迫感で、見終わって、少々お疲れ気味。

#58 画像はIMDbから。

フェスタサマーミューザ 2018

180803 今年もこの季節になった。毎年5回は来ていたのだが、、昨年から3回に。自分にとっては今日が初日に当たる。何と言っても、神尾真由子だ!

 

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ミューザ川崎に頻繁に来るわりに、カナフィルを聴く機会はあまりない。このマエストロは初めてだ。34歳という新進。きびきびとした気持ちの良い演奏スタイルで、これは特に女性ファンから好感持たれるだろう。

サン=サーンスは、普段あまり聴く機会がない。1曲目、「サムソンとデリラ」からのバッカナール、快調な演奏だった。バッカナールは、先日も「椿姫」第3幕で歌ったが、バッカスに由来する言葉で酒宴とか、馬鹿騒ぎのこと。だいたい、賑やかに騒々しく演奏して、あっという間に終わってしまうみたいだ。

 

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今日の目玉はなんと言っても神尾真由子!5,6年前にもここの舞台で聴いているが、小生意気な雰囲気をまとった真実、天才肌という弾き方をしていたのを鮮明に覚えているが、その後ロシア人ピアニストと結婚、出産も経験し、そんなことも手伝ってか、グッと円熟味を増した印象。演奏態度も堂々と落ち着いており、まるで別人の様。

楽器は、サントリーから貸与されたストラディヴァリウス(1727)を使用していたが、その後、拠点を海外に移したことで、現在はグァリネリゥス・デル・ジェス(1735)を使っている。

3曲目の交響曲3番オルガン付きという、わりに珍しい演目を聴いた。オルガン付きとなれば、演奏会場が限られる。その点、ミューザ川崎はうってつけである。オルガンが鳴り始めるのは中盤も過ぎた頃、最初は静かに和音を鳴らしているだけだが、終盤に大音響となり、ホールいっぱいの聴衆もちょっと驚いた様子だった。

今日は演奏家も演目も素晴らしく、フェスタの時期は値段も手ごろとなるので、これまで見たこともないような超満員。5階席など、パイプオルガンのすぐ脇にまで聴衆がいる光景は初めてだ。当然、休憩中のロビーも人が溢れ、また男子トイレでも女子並みに長蛇の列ができるなど、えらい騒ぎだ。ばったり会った友人も部類のコーヒー好きで、幕間を楽しみにしていたようだが、あまりの混雑に呆然とするのみ。

ところで、カナフィル名物というと差し障りがありそうだが、コンマス石田泰尚、イガグリ頭がトレードマーク。そこに剃り込みを入れているという異色の存在!普段はサングラスまでかけるというから、組長と呼ばれるというのもむべなるかな。無愛想そのもので、にこりともしない。まあ一種の照れ隠しなんだろうが、最後にマエストロとなにやら喋っていて、一瞬、笑顔が。

#43 (文中敬称略)

「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」

180803 MISSION IMPOSSIBLE - FALLOUT 147分 米 製作(共同)・脚本・監督:クリストファー・マッカリー

ストーリーは、プルトニウム核弾頭を爆発させて破滅的な損害を地球に与えようとする一味とそれを阻止しようとするイーサンたち。そこへCIA, IFM, MI6が入り乱れてという、毎度お馴染みの展開。誰が味方で、いつの間にか敵になっていたり、その逆だったりと、ついて行けないところもあるが、見せ場は目一杯用意されていて、たっぷり楽しめる作り込み方はさすがである。

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このシリーズ、すべて見ているが、見るたびに”凄み”を増し、さらに次へと期待が膨らむ。とりわけ現在56歳のトム・クルーズの捨て身のスタントには目を奪われる。今回はとうとうビルからビルへと飛び移るシーンで骨折したそうだが、演技をそのまま続けたというから役者魂もここまで来ると、超脱帽あるのみ!

イーサンは、その優しさ(特に女性に)ゆえに、危機が迫っていても非情になりきれず、そのために仲間までも危険な目に遭わせることになるのは、毎回お馴染み。それが、イーサン、一番の魅力なのかもしれないが。

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これだもの!

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この直後、骨折かな。

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セントポールを背景に疾走するトム。骨折前の撮影か。

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こんな命がけのスタントをやってた日には、命がいくつあっても足りない。

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終幕近くのこの場面はもしかしたらCG撮影かな。

見せ場が次から次へと登場し、画面に釘付けとはこのこと!ベルファスト、ベルリン、パリ、ロンドン、カシミールと舞台が目まぐるしく変化する。見せ場は、パリでの高高度からのグラン・パリへ向けての降下シーン、その後のグラン・パレの男子トイレでの超ハードな格闘シーン、パリ市内でのカーチェイス、ロンドンでの追跡シーン、そして終幕近く、カシミールでのヘリ同士の戦闘シーンとその後の墜落、崖上での格闘、など。

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大型トラックでパリの路地を疾駆し、ついに挟まる場面。これって、両側のビルに相当なダメージを与えているはずなのだが、パリ市はこれを許可したってーことか。

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レベッカ・ファーガソン、最近見た「グレイテスト・ショーマン」の時よりずっと自然な演技で存在感に溢れている。この印象的なシーンはパリ市内のパレ・ロワイヤルで撮影されたもの。

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ミシェル・モナハン、イーサンの女房役ジュリアで最後の方に少しだけ登場。確か、前作でも最後の最後に登場。

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女優陣の揃い踏み。

ここには並んでないが、パリ警察の一人として、劇中、イーサンたちと偶然、出会ってしまい、突然のことでどう対応していいか、お互いに大いに困惑する(この場面、おかしくて、笑ってしまったが)ところで、やっとArrêtez!(止まれ)とイーサンたちに叫ぶが、突如現れたApostles一味に撃たれてしまうのが⬇︎フランス人のAlix Bénézech! 27歳だが、女優だけでなくすでに監督もやっているというから、なかなかの傑物かも。

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こうした魅力溢れる女優たちが次々に登場するところも本作の見所と思うのだが。

#57 画像はIMDbから。

「カメラを止めるな!」

180802 久しぶりに映画館に足を運んだ。余りにも暑いので、遅い時間帯を選んだのだが、6時頃でも外気温32度!日が差していないだけマシだと思い、久しぶりに蒲田まで歩いた。

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これが稀に見る面白さ!どこか陰気な廃墟風の建物でのゾンビ映画撮影現場。定番の首筋に噛み付かれる場面での女優の顔が気に入らない監督が、その若い女優に、それこそ噛み付かんばかりに大声でダメ出しをする。そこから、一気呵成に撮影が進行していくのだが、これがノーカット撮影というから凄い!タイトルもONE CUT OF THE DEAD!

エンドロールがやや控えめに左端に出始めたが、えらく短いけど・・・?それもそのはず、ここからが本題で、いかなる事情・背景でこの作品が作られるに至ったか、つまりプロデューサーが出てきて、スタッフ・キャストを一同に集めて、種明かしをしてから、いわばメーキング風に展開していくのだが・・・・。まあ、この辺にしておこう。

これほど痛快で、しかも前半の怖さと、後半のおかしさとの対比が実に見事。愚亭が知っているスタッフ・キャストはゼロ。かなりの低予算だと思うが、現在大入り満員だし、海外での評判もすこぶる上々。いやぁー、やられたね、見事に!まいった、まいった!

#56