ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ルチア」@サニーホール コンサートサロン

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ピアノ伴奏者が所属合唱団のピアニストというご縁で、このシリーズ、前回の「イル・トロヴァトーレ」に続いて2度目の観劇となった。

普段は縦長に使い、80席ぐらいはあると思うのだが、オペラゆえ横長に舞台セッティングをする関係で、座席数はおよそ60に落としてあった。概ね7割前後の入りからすると40数名程度の聴衆が入っていたと思われる。

ともあれ、手の届くようなところで、オペラが演じられていること自体、凄いことだろう。それを@¥4,000で見せるのだから、立派なものである。

字幕を入れるスペースも余裕もない(多分)だろうから、事前にプログラムで展開を読み込んでおく必要があり。加えて、本来主宰者で演出も担当している橘 裕之(たちばな ひろの)が解説するのだが、この日は風邪のため、影アナが曲目解説。

スタッフも限られているゆえ、舞台転換はすべてキャストたち自身が行う。今引っ込んだ出演者が箒やらチリトリを持って出てくる姿が少し笑えた。まさに手作り感、たっぷりオペラ。

今年から来年にかけての公演もすでに決定済みで、「マリア・ストゥアルダ」、「コジ・ファン・トゥッテ」とすごいラインナップ!

#7 文中敬称略

「バハールの涙」

190128 原題:LES FILLES DU SOLEIL (太陽の娘たち)仏・ベルギー・ジョージア・スイス合作 111分 脚本・監督:エヴァ・ユッソンルアーブル生まれ、41歳)

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とりわけ濃い顔だが、それだけに目力による表現がすばらしいファラハニ。

無慈悲かつ過酷極まるISの蛮行ぶりは、既に世界に発信され喧伝されているが、これは中でもひときわ目を背けざるをえない女性に対する非道ぶりを、女性の目線で克明に描いた作品として、国際社会で多くの人に見て欲しい。

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どこまで耐え続けられるのか、底知れぬ恐怖と戦いながら。左はカメラ取材をするマチルド。

夫も目の前で虫けらのごとく殺され、一人息子は奪われIS兵士として軍事教練が待っている。自らも、妹と共に性奴隷とされ、妹はその後自殺。しかし、絶望している暇はない、息子を奪還すべく立ち上がるバハール(ゴルシフテ・ファラハニ)。女に殺されると天国に行けないと信じるIS兵士に対し、それを武器に次第に優位に立ち、ついに・・・。

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男性兵士顔負けの闘争心まるだしのバハール隊

主役のファラハニが素晴らしい!!彼女の作品は、ミステリー仕立ての「彼女が消えた浜辺」(2009)他、6本ほど見ているが、本作は彼女のために作られたのではと思うほどのはまり役。当然ながら、目に深い哀しみと怒りが宿っている表情がなんとも言えず素晴らしい!

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爆弾の破片で片目になったマチルド(エマニュエル・ベルコ)も好演。

戦場で夫を亡くしたフランス人ジャーナリストが戦場奥深くに乗り込み(多分強力なつてがあったからだろう)、似たような境遇にあるバハールと意気投合、行動を共にする。武器の代わりにカメラしか持たない。祖国に一人娘を残していて、それこそが唯一の生きがいだが、死をも覚悟した、まさに決死の戦場取材である。

冒頭のシーンがエンディングに回帰するわけだが、途中、過去になんどかフラッシュバックするスタイルを取っていて、まったく不自然さを感じさせないエヴァ・ユッソンの手腕には脱帽だ。

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Éva Husson

#4 画像はIMDbから。

LA TRAVIATA@東京文化会館

190126 「椿姫」を副題の扱いにして、「ラ・トラヴィアータ」としたところが嬉しいね。こうであるべき。(原作は「椿姫」、オペラはLA TRAVIATA)さすが藤原歌劇団

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3日公演の初日を見た。何より、舞台の豪華さには圧倒された。アレッサンドロ・チャンマルーギ、やるねぇ〜〜。それと照明の見事なこと。多少高く払っても、やはり時折は、こうした本格的な舞台を見るべきだなと今日は改めてつくづく思った。

全幕を通じて、絵画、それも近代絵画のうち、雅宴画風なものから印象派風のものまで含めて、何十枚という絵、それもほとんど女性の肖像画中心だが、登場し、舞台をきらびやかに彩る。10m X 5mぐらいもあろうかという半端ないデカさが下手、中央、上手に陣取り、これが照明の当て方で紗幕効果を出して、うしろで演技する人物たちを額縁内に浮き上がらせて見たりするから驚く。

3幕では照明で絵を消し、額縁だけにしてしまい、その前で死の淵にある主人公を演技させたりと、驚きの手法を次々に繰り出していた。

粟国演出も、さすがと唸らせる場面、少なからず。昨年合唱隊の一員で一応、舞台に乗っているから、人物たちの動きがいちいち気になってしようがなかったが、どれも自然で素晴らしい!の一言。

ジェルモンとアルフレードの絡みの場面も目から鱗の演技で、こりゃ凄いものを今見てるのかも知れないと思いつつ、惹き込まれていた。

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砂川涼子、期待に違わず、見事なヴィオレッタで、歌唱は完璧で言うことなし。ちなみに、1幕の終わり、「花から花へ」の最後はEsを回避して原音で締めた。(最近はむしろ上げない方が本場でも主流になりつつあるらしい)3幕の死に際の微妙な発声どころも、まったく淀みなく歌いきった。直後のカーテンコールでは、まだ目にいっぱい涙を溜めた状態であり、そのためか、その後、再び登場した時には笑顔がこぼれた。

西村悟は、昨年秋、所沢で見た同オペラの1幕のシェーナを聞いた時に比べると、復調目覚ましい。最高音は、やはりビシッと決めてほしい。なにしろ長身、イケメンで、アルフレードにはぴったりの容姿だからね。

最もブラーヴォが多かったのは、「プロヴァンスの海と陸」を歌った時の牧野正人だった。確かに、安定感抜群の演唱で、この辺りは、まあ年季の入れ方の違いだろう。

2幕2場、踊りが入り、賭け事が行われる進行も素晴らしかった。一つ一つの演技もさることながら、人の流れがごく自然で、西洋ものによくある、とってつけたような演技でなく、日本人でもここまで自然な演技ができることにも瞠目した。

そんなわけで今回は正味145分をフルに堪能できた。

#6 文中敬称略

 

「喜望峰の風に乗せて」

190126 原題:THE MERCY (慈悲、救い)英 101分 監督:ジェームス・マーシュ(「博士と彼女のセオリー」2014)

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邦題とこの絵柄に惹かれて観に行った人、結構いたはず。

実話に基づいた作品というが、この話はまったく知らなかった。当時(1968)、それなりに話題になったらしいが・・・。

海洋ものが特に好きというわけではないが、コリン・ファースレイチェル・ワイズ主演というのにむしろ興味があって観に行ったのだが・・・まあ、残念ながら駄作かな。

ストーリーにもう少し起伏を持たせて欲しかった。あまりに淡々とし過ぎて盛り上がりに欠け、家族の話題にばかり目がいく展開はかなり期待はずれ。もしかしたら、かなり低予算だったのかも。

それでも、二人の演技には満足。デビッド・シューリスの、どちらかと言うと怪演に近い演技も見もの。

コリン・ファースは現在58歳、ロンドン芸大で演技を学んだという本格派。対するレイチェル・ワイズは47歳、ロンドン出身、ケンブリッジ大出という才媛で、亭主はダニエル・クレイグ

原題は意味深長で、でっち上げの航海日誌の中に出てくる単語を映画の字幕では「救い」と訳出していたが、確かにmercy単独には慈悲とか恩恵とか出ているので、もちろん誤訳ではない。しかし、at the mercy of~となると、「〜の意のままに、〜に翻弄されて」という意味合いがあり、書いた本人にはもう少し深い意味でこの言葉を使ったような気がする。

そもそもずぶの素人がヨットで世界一周などという途方もない冒険に乗り出すなど、無謀にもほどがあるし、止められなかっただけでなく、却って煽った周囲の責任、極めて重大!今の日本なら自己責任論で喧しくなるような話だ。

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#3 画像はALLCINEMA on lineおよびIMDbから

東京コールフリーデの演奏会へ

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ソリストとして出演するメゾの佐藤 祥からFB上で案内があった演奏会。オペラ合唱曲の中に、自分の所属する合唱団が次の演奏会で歌うことが決まってる演目が並んでいるので、どんな舞台か大いに関心を抱き、チケット手配しようとしたら、既にその時点でほぼ満員!彼女が工面してくれて、何とか入れた。入口に「当日券、完売!」の案内が。なんとも羨ましい繁盛ぶりだ。

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我が合唱団と似たような構成で、第1部宗教曲、第2部日本の合唱曲、第3部がオペラの合唱曲。モーツァルトのこの曲は初めて聴いた。やや地味な楽曲だが、そこはモーツァルト、随所に聴かせどころが配置されており、35分ほどなので、一度自分たちもトライしてみたいと思った。

15分の休憩の後、第2部は20分ほど。歌われたのは「故郷」「春の小川」「朧月夜」「鯉のぼり」「茶摘」「夏は来ぬ」「われは海の子」「村祭り」「紅葉」「冬景色」「雪」「故郷」と11曲に及ぶ。「故郷」の1番が終わってから次々に歌い繋ぐが、それぞれ2番までで、一巡してから、「故郷」の2、3番でおしまい。誰もが知っている懐かしい歌ばかりで、特に高齢者には受けがいいだろう。

2部と3部の間をつなぐ意味で、指揮者から挨拶と当合唱団の概要について手短に説明があった。部分的にプログラムにも書いてあるが、読まない人もいるし、これは悪くないと思った。

最も関心のあった第3部は35分と少し長いが、合間に指揮者による曲目解説がそれぞれ30秒ほどが含まれている。

「オレンジの・・・」合唱曲の定番。やはりこの程度の人数が揃わないと、少し難しいかも。

「乾杯の歌」、ソプラノとテノール、そして合間に合唱が加わるスタイル。ソプラノが一瞬、歌詞が出なかったのか、つまりそうになり、ひやっとしたが、多分、ほとんどの聴衆は気づかなかったろう。

「婚礼の合唱」も定番中の定番。かなり短く、すこしあっけないほど。まあ無難に。

「ハバネラ」、今日一番の狙い目がこれ!佐藤 祥が得意とする演目だが、後で聞いたら、今日は本調子でなかったらしい。それでも、やはり舞台映えのする姿もあり、オーラはたっぷり。

闘牛士の歌」、これもあまりにも有名で、カルメンの中でも男性のソロとしてはドン・ホセの「花の歌」と並ぶ名曲。今日のバリトンだが、もう少し声量があってもいいかなとは思ったが、技巧的にはきちんと歌いきっていた。合唱は「ハバネラ」の時と同様、合いの手を入れる程度ということもあり、全員暗譜!

ナブッコ」からの「行け、我が想いよ・・」、これもイタリアの第2の国歌と言われるほどの名曲(イタリア国歌自体がちょっとねー、ということもあり)で、誰もが口ずさみたくなるほど。これは譜持ち。

「歌の殿堂をたたえよう」は、4人のソリストが合唱団の中に入って一緒にドイツ語で歌った。(全員譜持ち)

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アンコールはメンデルスゾーンの「緑の森よ」2分少々。これもソリスト、合唱団全員で。合唱団は暗譜。この歌はまったく知らなかった。そして、さらに「アヴェ・ヴェルムコルプス」を全員暗譜で歌って幕。いい演奏会だった。

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前列右端に佐藤 祥の姿が。ご覧の通りの長身。

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朝日ホールの片隅で気軽に撮影に応じた佐藤 祥。舞台映えする立ち姿!

 #5 文中敬称略