ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「クリムト展」@東京都美術館

190515 恥ずかしながら、前回空振りだった(会期前)ので、改めて上野へ。

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JUDITH 1

グスタフ・クリムト(1862-1918)、19世紀末に妖しく光芒を放った画家として、またその日本趣味的画風からも、日本でもよく知られた画家。

この時代、すでに写真が使われるようになっていたので、彼の写真も多く出回っているが、アトリエ用での作業用なのか、ずだ袋のようなものを被っていて、風貌も冴えないのだが、どこか愛嬌のある人物。制作対象としての男にはまったく興味がなく、自画像もほとんど描いていない。ひたすら女、女、女!

事実、よくモテたらしい。結婚はしていないが、そっちの方は不自由していなかったとか。恋多き女、才女のアルマ・マーラーとも一時恋愛関係にあった。

そんな男が、まあ実にきらびやかな、まばゆいほどの作品、それも大作を数多く残している。今回、その中から上のユディット、下のヌーダ・ヴェリタスという代表作の一部が展示されたのは、嬉しい限り。

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NUDA VERITAS (裸の真実)1899

ちょうど世紀を跨ぐ頃に、彼のスタイルが完成したと言えるだろう。意外なことに、この頃から、それまで肖像画主体の画業に、風景画が加わり始めることだ。風景画も悪くない。代表的な大作「丘の見える庭の風景」(一番上のポスター背景)は死の2年前の1916年に描かれている。

また、今回のもう一つの目玉はウィーン分離派ビルの内側フリーズ部分に描かれたベートーベンフリーズ。壁画ゆえ、現地でしか見られない大作だが、実物大のコピーが展示されている。コピーと言っても、実際に同じ手法で描かれたもので、限りなく本物に近いと言える。

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ベートーベンフリーズ(部分)

材料は、クレヨン、サンギーヌ(チョークの一種)、パステル、カゼイン絵の具(牛乳由来)、金、銀、漆喰、モルタルなど多岐に及ぶ。実物と同じ見せ方をしているので、オペラグラスを持参すべきだった。

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オイゲニア・プリマフェージの肖像

1913-14頃に制作されたこの作品、なんと豊田市美術館所蔵である。トヨタ自動車からの寄付金で、17.7億円で購入したとか!!

ということで、彼自身の油彩画は25点(うち、風景画3点)、その他、彼の弟、エルンストの作品、同時代人の作品、油彩画以外の作品を含めると、120点の展示。残念ながら、もっとも関係性のあるエゴン・シーレの作品はここにはない。(国立新美術館で開催中の「ウィーンモダン クリムト、シーレ世紀末への道」展で見られる。

「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」

190515  THE WHITE CROW 127分 英仏合作 製作(共)・監督:レイフ・ファインズ(エギュゼキュティブ・プロデューサーに、リアム・ニーソン

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カリスマ・ダンサー、ルドルフ・ヌレエフ(1938-1993)が、ソ連からパリ公演のために、一行と一緒にパリのル・ブルジェ空港到着から、亡命するまでを描く。幼少時代およびソ連でめきめき頭角を表す時代を繰り返し現在にフラッシュバックさせ、テンポよく見せるのは、自らも重要な役で出演しているレイフ・ファインズ。なかなかの手腕だ。

ヌレエフ役に起用したのは、ウクライナ出身のオレグ・イヴェンコ。ダンサーに演技させるか、俳優に踊らせるか、監督としては悩みどころだろう。結局、今回は前者を選んで、セーカイだったとは本人の弁。確かに、演技的になんら違和感は感じなかった。

冒頭のシーンとラストシーンが重なる。ファインズ演じる、ヌレエフのソ連時代のダンス教師、プーシキンに対する尋問シーン。国家の至宝とも言えるプリンシパルをみすみすフランスに亡命されてしまったことはソ連当局としては、重大な失態だから、師たるもの、もちろん心穏やかではない。

レイフ・ファインズは、残忍な収容所の所長や、冒険心に富んだ役、あるいは野心満々な役どころが多いのだが、本作では、どこまでも穏やかで、自宅に仮住まいさせていたヌレエフが妻と情事を重ねていることを知りつつも事を荒立てないほどの人物を演じている。

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前頭部は思い切って剃ってしまったらしい。役をやりながら、監督としてあれこれ指示を出すのに、ズラをつけている時間がもったいないと思ったとか。

さて、肝心のヌレエフ、実物がどれほど凄かったかは、ほぼ同世代を生きたにしては、なーんにも知らない。そもそもバレエに関心が薄かったせいでもある。マーゴット・フォンテエインと組んで盛んに活躍していたことは知っていたが。

バレエのシーンだが、よく知らない者が見ても、その圧倒的な演技には驚かざるを得ないが、さらに、エンドロールで本人が同じ演目を踊るシーンが実写で出てくる。それを見て、オレグ・イヴェンコの凄さを改めて思い知らされた次第。

ただ、ヌレエフ、いわゆるKYとでもいうのか、ジコチュウの極みであり、突如キレたりするし、かなり破滅型の人間だったようだ。ま、天才にありがちだが。それをうかがわせるシーンがなんども出てくる。

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オペラ座(ガルニエ)の前にあるカフェ・ドゥ・ラペーでくつろぐオレグ。

オレグ・イヴェンコ、顔も体つきも申し分ない。それで演技力をつけたのだから、レイフ・ファインズが太鼓判を押すわけだ。

最初にソ連バレエ団御一行様が宿泊先にえらんだのは、パリ10区共和国広場に面するMODERNE PALACE HOTEL。ここは、その後、日本人団体も随分泊まっていた中級ホテル。(現在はCROWN PLAZA)1960年初頭のパリの街並みが出てくるが、走っている車といい、当時のフィルムをCGで加工したようだ。

また、一行がCAVEAU DES POÈMESという名前のジャズのライブハウスで興じるシーンは、実在するCAVEAU DES OUBLIETTES(忘却亭)で撮影されたようだ。他に、ステンドグラスがきれいなサント・シャペルなども登場するが、こうした”観光編”は不要。

後半、いよいよパリ公演も終わり、再びル・ブルジェ空港へと向かう一行。そこで事態が急展開、大騒ぎになるのだが、おそらく実際もここで描かれているとおりだったのだろう。

エイズで54であっけなく没してしまったのは惜しまれる。そう言えば、フレディー・マーキュリーもエイズで死んだっけ。彼の場合は更に若い45。同じパリで亡くなったと言えばマリア・カラスも享年54!

なお、タイトルのホワイト・クロウ(白いカラス)とは、特別な才能を持っている者を指しているようだ)

以前見た「ホワイトナイツ/白夜」('85)では、同じくソ連から亡命したミハエル・バリシニコフが黒人ダンサー、グレゴリー・ハインズと華麗に舞ったシーンが忘れられない。

#32 画像はIMDbから。

谷中散策

190512 谷中会館初音ホール(観智院)でのコンサートの後、夕方の合唱練習まで数時間あったので、付近を散策。

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観智院のすぐ裏手の路地を行くと、別世界のごとき静寂が支配している。そこにこんなおしゃれな塀が目をなごませる。

この後、定番の谷中銀座へ。相変わらず外国人でごった返している。外国人でも、この界隈は白人の方が多いのが特徴。一巡して、疲れたので、夕焼けだんだんの下にあるカフェで地ビールを一杯。合唱練習前というのに、我慢できずに、ついビールに手が出た。喉が喜んだことは言うまでもない。

狛江フィル第43回定期演奏会@エコルマホール

190511 かつての職場の先輩が、創設に深く関わった管弦楽団で、当時から何度か聴いているアマオケ定期演奏会はおそらく年2回だろうから、およそ創立から20年以上が経過しているはずだ。顔ぶれも当時とは一新、知っている顔はゼロ・・・と思ったら、1ST VIOLINに意外な顔を発見(後述)。

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エストロもチェリストもまったく情報ゼロの状態で聴いた。

ドン・ジョヴァンニ」序曲で快調な滑り出し。さらに、江口心一のソロ演奏、「ラロのチェロ協奏曲」が素晴らしかった。ラロと言えば、誰しも真っ先に「スペイン交響曲」を思う、というか、それ以外が思い浮かばないという方が正しいかも知れない。

というわけで、どうしてもヴァイオリンの方と比較しながら聴いてしまう。そして、随所に、曲想の類似性を嫌でも認識させられる。スペイン交響曲チェロ版と言えば、ラロに叱られるだろうが。

ラロという名前の響きもあり、彼がスペイン人だと思う人が圧倒的ではないか。自分もてっきりそうだと思い込んでいたら、これがなんとフランス人。ファーストネームエドゥアールであることを考えれば分かるはずだが、気づかなかった。親がバスク出身というから、スペイン風な姓と思えば合点が行く。

そして、後半、「シューマン 交響曲1番」、出だしの管がいただけなかったなぁ。なにか不揃いで、後半盛り上げただけに、あそこは一踏ん張りして欲しかったと惜しまれる。ま、でも結果オーライで、Bravi!!!でした。

この曲、「春」というタイトルが付いていて、さらに1楽章は「春の始まり」、以下「夕べ」、「たのしい遊び」、「たけなわの春」となっていたのが、後年、シューマン自身によりこうした楽章ごとのタイトルは削除されたという。プログラムの解説によれば、リストが標榜する標題音楽を避けたのではとしている。なお、初演は、あのメンデルスゾーンの指揮で演奏されたそうだ。

エストロの三河正典、真っ黒なヒゲを深々と生やしているから上の写真とは似ても似つかぬ風貌。前述の人物とは、我が中高のはるか後輩で、弁護士であり、オペラ上演のマエストロも務めるというマルチタレントのY君、なんとこちらのオケで数年前までコンマスを勤めていたと聴いて2度びっくり。そして今日のマエストロは彼がこのオケに紹介したというのだ。今日は、久しぶりに狛江まで来てセーカイだった!

アンコール曲:

稲本 響「船長」(江口心一)

ブラームス ハンガリー舞曲1番

#27 文中敬称略

谷中オペラ寺劇場(てらこや)第6回を観て

190512

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シリーズ6回目ということは、初回は2013年か。数回、観に(聴きに)来ている。

コスパの高い演奏会というと、失礼になりそうだが、やはりこの充実した内容のコンサートを@¥3,000で楽しめるのは、そうとしかいいようがない。

今年は、日声協恒例の「海の日のチャリティーコンサート」(7/15)の祝祭合唱団の一員として1年ぶりに芸大の奏楽堂の舞台に乗ることになっているが、合唱団が歌う演目、「カルメン」のタイトルロールを歌うメゾの佐間野朋美が出演するということもあって、久しぶりに初音ホールへ。

普段、合唱練習で見慣れているホールだが、今日は椅子の位置を90度ずらして、コンサート仕様に。舞台はまさにお寺(観智院)の真下に位置する、多分世界でも珍しいホールである。70席ほどが、ほぼ満杯。伴奏は実力、知名度抜群の服部容子。われわれが歌う時も弾いてくれるピアニスト。

解説はいつものように中村敬一。毎度これが楽しみでもある。ジョークを挟みながら、傍のスライドをリモコンで操作しながらこれから聞く演目の詳しい解説をしてくれるのは、まことにありがたい。

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第1部は有名オペラのシェーナを並べ、第2部はフランスオペラの代表格「ウェルテル」

舞台には、ごく簡素な小道具が置かれるだけ。中にはダンボール製の小型ピアノが置かれたり、スタッフの苦労の後が偲ばれる。どれだけ稽古時間があったか分からないが、みなさん大熱演で、圧倒されっぱなし。

とりわけ第2部、ウェルテル役の高柳 圭は、相手(シャルロッテ)が取っ替え引っ替えなのに、ひとりだけ出ずっぱり、しかも高音の連続で、ほんとうにご苦労なことだった。しかもなお、彼の名前だけが上のプログラムには掲載漏れという気の毒な事態に。

蛇足ながら、このホールでは、靴を脱いで用意されたスリッパに履き替える必要がある。この点でも、誠に珍しいホールなのだ。したがって、終演後、広くもない玄関はスリッパから、自分の靴を下駄箱から探し出して履き替える客でごった返すことになる。

出演者は聴衆を見送ることになっているらしく、”その辺”で待機するのだが、このごった返す場所では身の置き所がない。雨天ならともかく、やはり混雑を避けて、一歩外に出た空間にスタンバイすればよかったと思った。そうしていたのは、さすがベテラン、大塚博章、ただ一人!この辺りは事務局スタッフが気を利かして、事前に出演者に伝えるべきだったと思われた。

#28 文中敬称略