ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「シルヴィアのいる街で」

100819 渋谷イメージ・フォーラム 原題:EN LA CIUDAD DE SYLVIA(西) DANS LA VILLE DE SYLVIE(仏)監督:ホセ・ルイス・ゲリンバルセロナ出身)、出演:グザビエ・ファフィット(パリ生まれ、36歳)、ピラール・ロペス・デ・アジャラマドリッド生まれ32歳)

舞台が、間もなく行くことになっているストラスブールということで観に行った。やや変わった趣向の作品。冒頭、安ホテルの一室、ダブルベッドの上でスケッチ帖と鉛筆をもったまま、沈思黙考する主人公。長回し延々4分ぐらい。

その後、HOTEL PATRICIAという止宿先の安ホテルを出て、街に出る。美術学校近くのカフェで、ビールを置いてひたすら周囲を眺めながら、スケッチ帖に鉛筆を走らせる。目に入る女性が対象。描きながら、視線の先には様々な人間模様。これをカメラが丁寧に、執拗に描写する。
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そうしながら、彼は誰かを探しているらしい。そう、シルヴィアだ(フランス語ではシルヴィー)。席を移して、店の内部が見える位置に。ガラスの向こうに見覚えのある顔。確か・・・。女が席を立つ。慌てて席を立って後を追う主人公。口をつけていないタンブラーが弾みで倒れ、ビールがこぼれ落ちるが、そんなことはどうでもいい。
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そこから、また長〜〜いショット。小さいストラスブール市街区の大通りを、小路を、右に左に。途中何度も最新の低床式市電が、追う主人公の視界を遮る。一瞬見失うものの、再び追跡が続く。途中、「シルヴィー!」と何度か後ろから呼びかけるが無反応。どこまで続くかと思っていると市電に乗車する女。彼も当然乗車して、込み合う車内を巧みに移動して接近。ストーカーそのものだ。

そこで、やっと二人の会話が始まる。「シルヴィーだろう、久しぶり。6年前にアヴィアトゥール・バーで遭ったじゃん」と問うが、すべて否定。「人違いよ、それは」と簡単にいなされる。「だって私がこの街に来たの、去年だもの。そんな話あり得ないでしょ?」・・・・。

ということで、ほとんど会話なし、BGMなし。あるのは市電の音、キャフェの雑音、人の声、かつかつという足音、柔らかな風の音、たわむれる子供の歓声、大聖堂の鐘の音、etc.と、まるでドキュメンタリーのごとし。ポエムでもある。この作品でもカメラワークが見事だ。ちょっとした追跡劇を通して、美しい街並をさりげなく描写しつくしている。詩情あふれる作品。

蛇足だが、主人公が6年前にシルヴィーに会ったとされる「飛行士バー」、カウンターの背にある大きな鏡を通して映る男女(主人公も含め)の姿を描くシーンは、マネ晩年の傑作「フォリーベルジェールのバー」(ロンドンのコートールド・ギャラリー)を意識して構成されたことは間違いないだろう。

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