ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「人生の特等席」

121208 109シネマズ川崎 原題:TROUBLE WITH THE CURVE(カーブに手こずる)米 111分、[監]ロバート・ロレンツ [脚]ランディ・ブラウン [出]クリント・イーストウッドエイミー・アダムス

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これまた邦題が素晴らしい。原題だと、野球に興味のない人には何だか分からない。この邦題も十分女性客を意識した付け方。実に巧みだ。最近の邦題は冴えているものが多い。父娘が終盤で交わす会話からヒントを得てつけたと思われる。

野球を介して、長く別々の人生を歩んでいた父ガスと一人娘ミッキーが次第に理解し合えるようになり、ハッピー・エンド。いかにもアメリカ的な筋書き。途中「こりゃーないな!」と思えるような部分も少なくなく、チト脚本、甘過ぎでは、と思わせるし、中盤で、概ね先が読めてしまうが、それはそれとして、父と娘の情感が素敵に描かれていたと思う。

とりわけ印象的なシーンの一つ。娘が6歳の時に亡くした愛妻の墓石に座り込んで、つぶやく You are my sunshine, my only sunshine, you make me happy when sky is grey, you never know dear how much I love you, please don't take my sunshine away. 有名なカントリーだが、全部を言うとは思わなかった。もちろん、BGMとして、歌手を替えて2度効果的に使われている。

野球をテーマとして作品と言えば、ブラピの「マネーボール」が昨年話題になったが、あれは貧乏チームのジェネラルマネジャーが、コンピュータを駆使して過去のデータからいい選手を安く買いあさり、ついに優勝という筋書きだから、コンピュータが使えないゆえに、スカウト業から退場しようとしている主人公を描くこの作品とは対照的。

頑固を絵に描いたような主人公を、さすがイーストウッドだ、見事に演じている。彼が出演だけやったのは、93年の「ザ・シークレット・サービス」以来だそうだ。自分で監督して主演した「グラン・トリノ」('08)以降、出演しないと言っていたそうだから、心境の変化だろう。

 このロレンツという監督は、ずーっと製作ではイーストウッドと組んで活躍しており、多分、イーストウッドに勧められて監督に初めて挑戦したのだろう。

蛇足ながら、ファースト・シーン、まさかイーストウッドのおしっこから始まるとは!チョロチョロとしか出て来ないおのれを叱咤激励という、かの大スターにしてと、思わず笑わせる場面。82歳ともなれば、首筋辺りの深い多数の皺や、ラストシーンの後ろ姿の猫背で前屈み加減も仕方ないが、見ていてこれが最後の作品になるかと思うとやはり寂しい。

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一方のエイミー・アダムス、いかにもヤンキー姐ちゃんという感じの女優。余り特徴もないけど、この役はいいのではないか。サンドラ・ブロックと争ったらしいけど、まぁよかった。それにしても白人にしては、脚が短かめで太いところが意外。でも、こういう役だから、気にならないし、むしろ良かったのかも。

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主人公のガス(Gus)は恐らくGustavの省略形だろうが、問題はミッキー。映画の中でボーイフレンドが「ミシェル」が本名?と尋ねる場面が。すると、「父親がミッキー・マントルからつけたの」というやりとりが。息子ならともかく、一人娘に野球選手の名前つけちゃうんだからねぇ。日本だったら娘にイチローって名付けるようなもの。

グラン・トリノ」で音楽を担当した長男カイル・イーストウッドに続いて本作では、スランプのスラッガー、ビリー・クラーク役で次男のスコット・イーストウッドが出演している。大家族の映画一家だ。

ま、秀作とは言わないが、よい作品だ。

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