ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ゼロ・ダーク・サーティー」

130218原題:ZERO DARK THIRTY (深夜00:30を意味する軍用語、ビンラーデンを確保した時間を指す)

 

9.11の首謀者、オサマ・ビンラーデン(符丁、ジェロニモ)を仕留めるまでの10年間を、CIAの若き女流分析官マヤを主人公にして、克明に、冷静に追い続ける3時間近い迫真のドラマ。

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期待以上の出来映え。そりゃもう、08年のアカデミー賞を総なめにした「ハート・ロッカー」を作ったキャスリン・ビグローだからね、監督は。それにしても、よくまぁこんな男性的な作品を撮るものよ。今回は主役も女性だしね、もう男の出る幕、ないねェ。

 

正直、前半はエグい拷問シーンが結構延々と描かれたりして、やや冗漫な印象は否めないが、高校卒と共に大抜擢した若き分析官を鍛え上げる意味もあって、敢えて執拗に映したのかも知れない。

 

彼女にどうしてこんなとてつもない大役の白羽の矢を立てたのか、特段の説明もないから、いささか解せない気もする。だって、そうでしょう、経験豊かな老かいな男性分析官を凌ぐ力量、つまり冷静な分析能力を発揮するかどうか分かったもんじゃないからね。

 

多分にツキもあったが、最後は彼女の第六感だったのか。並みいるベテラン勢が、長官の前で、ビンラーデンがそこに潜んでいる確率を60%,70%と言っているのに、彼女一人が95%と言い切る。その前に長官に対して行った最初のブリーフィングで、隠れ家とパキスタン陸軍士官学校との距離を聞かれ、上司たちが概ね1マイルと言ったのを訂正して後ろの席から突如発言、正確に距離を述べたマヤに対して、長官がWho are you?と尋ねるくだりが笑えた。「隠れ家を探しあてたクソヤローです!」I'm the motherfucker that found this place, sir. これにはさすがの長官もニヤリ。f:id:grappatei:20130219113037j:plain

ついに探し当てた隠れ家への突入計画は米海軍特殊部隊シールズに任せることに。当然、隠れ家そっくりの構造物をアメリカ国内に作って、突入の実地訓練を繰り返しているから、シールズ隊員は絶対の自信を持って臨む訳だ。最新式の、かなりごっつい暗視ゴーグル⬆を装着して、突入。大体25分で、ジェロニモを仕留める。映画もこのシーンにほぼ25分を費やしているから、一部始終を観客は見たことになる。当然ここが最大の見せ場で、正に息を殺し、身を乗り出してひたすら画面に集中する。

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基地に戻って来たステルス機、ブラックホークを一人出迎えるマヤ、直ちに本人確認作業をし、長かった作戦が終了する。大型輸送機にたった一人乗り込んでアメリカに帰国するマヤの顔のクローズアップ。涙、滂沱である。そこには大仕事をついに成し遂げた満足の表情は全くない。作戦中に失くした仲間への追悼の涙か、仕留めた「獲物」への憐憫の涙か、はたまた空しさしか残らなかった虚脱感によるものか・・・。

 

主演のジェシカ・チャステイン、これまで「テイク・シェルター」、「ヘルプ」、「ツリー・オブ・ライフ」と3本見ているが、どちらかと言うと地味な存在で、寧ろ貧乏臭い印象の女優に見えたが、本作品ではなんと生き生きとしいたことか!彼女を抜擢したビグロー監督のお目の高さには舌を巻く。彼女自ら電話で口説いたらしい。

 

#10 画像はIMdb及びALLCINEMA on line