ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「遺体 明日への十日間」

130301 有楽町スバル座。監督・脚本:君塚良一 主役級の俳優がずらりと名を連ねる本作、あの日、あの時間から10日間を、釜石の中学校の体育館に運ばれて来る遺体に、様々な形で携わる人物、一人一人に焦点を当て、淡々と描いて終わる。筋書きとしては、単調そのものだが、そこにはいくつもの胸を打つドラマが展開される。

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次々に運び込まれる泥まみれの遺体を、つい乱暴に床に下ろしたり、モノ扱いする現実に耐えられない民生委員の相葉(西田敏行)は、顔見知りの市長に懇願して、ヴォランティアで遺体安置所で働かせてもらう許可を貰う。

 

一体一体に、あたかも生前からの顔見知りかのように話しかける相葉の姿に、周囲も次第に感化され、それまで茫然自失、指示待ち状態で、ただ遺体搬入の様子を見守るしかなかった市の若いスタッフたちも、遺族と向き合い、生き生きと動き始めるのだった。

 

医者(佐藤浩市)は遺体の全体的な特徴を確認、歯科医(柳葉敏郎)は助手(酒井若菜)と既に固く閉じられた遺体の口をこじ開け、歯の治療歴を探る。そんな中、近くの寺から住職(國村隼)が現れる。読経を始めるが、眼前の余りの悲惨さに何度も中断せざるを得ない。

 

これは、あの時、あちこちで起きていた光景のたった一例に過ぎない。同時に何十、何百カ所で起きていたことを考えると、まことにやるせない。

 

それにしても、リアルな映像構成力には恐れ入るしかない。実際に被害に遭われた人たちも多数エキストラで参加しているのだろうか。遺体安置所という、余りに非日常的な舞台のみで撮影された、記録映画的要素をたっぷり備えた異色の作品。

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西田敏行の自然な演技が光るが、初めて見る酒井若菜の演技にも唸った。単なるテレビタレントと思ったのだが、大したものだ。

#14  画像はALLCINEMA on lineから