ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「終戦のエンペラー」

130729 品川プリンス・シネマ 

f:id:grappatei:20130730142000j:plain

原題: EMPEROR 107 []ピーター・ウェーバー[製]奈良橋陽子、野村祐人(奈良橋の息子)ほか[出]マシュー・フォックストミー・リー・ジョーンズ初音映莉子、西田敏行、ほか。

 

連合軍相手に戦った枢軸3国のうち、日本に対する処理が結果として比較的寛大だったのは、何故か。さっさと降伏して、昨日まで味方だったドイツに国土を陵辱されたイタリアは論外としても、あのドイツも、国土はまっ二つにされ、統一まで長い年月を要したことに比べれば、原爆を落とされたとは言え、復興がどこよりも早かったのは、単に幸運だったからではない。

 

鬼畜米英などと言っていたのが嘘のように、降伏した途端、その鬼畜であった進駐軍に極めて従順で、いいなりという、かなり特殊な国民性もあるが、やはり天皇制の影響が大きく影を落としていたことは間違いない。

 

この映画は、自分たちとはまったく異なる価値観、宗教観、国家観を持つ国家・民族をどう処するかに頭を悩ませた進駐軍最高司令官マッカーサーと、彼の絶大な信任を得て、天皇を頂点とする複雑怪奇な組織の解明、首謀者の処罰、天皇の処遇等の難題解決を命じられたフェラーズ准将を、彼らの人間性も併せて描く。

f:id:grappatei:20130730142213j:plain

本国はもとより、連合国からも納得が得られ、且つ日本を速やかに、しかも一切の騒乱なしに復興させるには、天皇の処刑などはあり得ず、むしろ天皇制維持が不可欠とする結論に達するには、フェラーズ准将の深い洞察力と捨て身の行動力があったればこそなのだが、その陰に、一日本人女性の存在が鍵を握っていたとは。

 

日本人には屈辱的なツーショットが撮影されたいきさつと撮影後、天皇がマッカーサーにとつとつと英語で語りかけるシーンが大変興味深いし、ジーンと来てしまった。

 

トミー・リー・ジョーンズのマッカーサー、悪くないが、難を言えば、あのジャガイモのような容貌と、ずんぐりむっくりの体型は、長身でハンサムだったダグラス・マッカーサーには似ても似つかない。が、演技力でうまくカバーしていたと思う。

f:id:grappatei:20130730142755j:plain

主役のフェラーズ准将を演じたマシュー・フォックスは、2008年の「バンテージ・ポイント」で見ただけだが、いかにも印象の薄い俳優である。ちょっとミスキャストという感じがする。

 

フェラーズの日本人の恋人役、初音映莉子、まったく知らない女優。これも、よくこんな大役に抜擢したと思うほどの素人臭さ。そこがよかったのか。

 

天皇に扮した片岡孝太郎、雰囲気、よく出せたと思うね。それに2005年のロシア映画「太陽」(アレクサンドル・ソクーロフ監督)で天皇を演じたイッセー尾形より上手かった。尤も出番は少なくセリフも限られていたが。東条の火野正平はセリフなし。それでも撮影場所のNZに一月も滞在しドライブをしまくったらしい。いい商売だ!

 

英語セリフの結構多かった鹿島大将役西田敏行も、それと近衛文麿役の中村雅俊もさすがの演技。侍従長の夏八木勲、これが遺作か。桃井かおりさん、鹿島の妻を演じたが、本当に上手い!因に、上記「太陽」にも出演、この時は香淳皇后を演じた。

 

米国が描いた(原作は日本人だが)終戦秘話、そこそこ面白く見ることができた。いい企画だ。

 

#59 画像はALLCINEMA on line