ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「私が愛した大統領」

130921 原題:HYDE PARK ON HUDSON(ハドソン川沿いのハイドパーク)これはルーズベルト家のあった広大な土地を指す。マンハッタンから150km北に位置する。実際、1939年、英国王夫妻のアメリカ公式訪問の際、この私邸を訪問した。

[監]ロジャー・ミッシェル、[出]ビル・マーレイローラ・リニー

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組織のトップは常に悩みを抱え、孤独に生きる宿命。まして大国のトップ、合衆国の大統領ともなれば、どれほどのものだろうか。多彩な趣味でも孤独を癒しきれないルーズベルト(ビル・マーレイ)は、ある日、従姉妹の一人、デイジー(ローラ・リニー)を呼び出して身辺の世話係に据える。

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何も知らないデイジー、彼女なりに大統領に尽くすうちに、自然にいとこ以上の感情を持つようになるのだが、英国王夫妻がこの私邸を訪問した夜、知らされた事実に驚愕するのだった。

 

時あたかも第二次大戦前夜、ナチスドイツとの戦いが避けがたい今、英国としては、モンロー主義に凝り固まるアメリカを何としてもヨーロッパ戦線に引っ張り出したいところ。国王夫妻の訪問は、当然そのことも目的の一つになっていた筈。

 

この時、ルーズベルトは57歳、対するジョージ6世、43歳、公式晩餐会も終り、出席者も皆引き揚げてから、大統領は自分の書斎に若い国王を招き入れる。二人とも好きなアルコールと葉巻ですっかり打ち解け、国王を気に入った大統領は国王をYoung man!と呼びかけるほど。

 

吃音症に悩むジョージ6世は、大統領の前で自説が思うように展開できないことに腹を立て、つい「このどもりメが!!」と自虐的につぶやくと、「そんなこと、大したことないよ、私なんかポリオなんだから!」と言われて、思わず自分を恥じる国王の姿が印象的。

 

大統領がアメリカ参戦に踏み切るには真珠湾攻撃が引き金になったのは事実としても、この夜、二人が親密になったことも大統領の決断の一因になったことは否定出来まい。翌朝、王妃マーガレットに、「まるで父親みたいだ」と大統領を評している。

 

晩餐会の最中、大きな陶器の置物がどうした弾みか、床に崩れ落ち、大音響と共に粉々に。一瞬凍り付くその場の空気。すかさず国王が「あれ、天使が通り過ぎたようだ。それもドジなやつが」で大爆笑。さらに、その後、今度は給仕人の不始末でお盆が床に落ちて再び大音響、「天使2号!」とにやり。なんともお茶目で、英国伝統のユーモアを忘れなかった国王、見事である。

 

でも、王妃からバーティー(アルバート)と愛称で呼ばれる国王、二言目には「なるたくて国王になんかなったわけじゃない!」と弱気の虫が顔を出すので、エリザベスは結構愛想を尽かしているように見える。確かに兄のエドワード8世がシンプソン夫人を選んじまったばっかりに、国王の座が回って来ちゃった訳でね、同情すべき点が多いのも事実。

 

また、ファーストレディーのエレノアだが、王妃に対し、「あたなのこと、エリザベスと呼んでもいいかしら?」と、アメリカ人気質丸出しなのが面白い。国王に対しても、「Your Highness, あら失礼、Your Majesty!」とか、ま、ざっくばらんと言えばざっくばらんだろうが、周囲はハラハラしっ放しの開けっぴろげさ。であるからこそ、大統領に愛人がいようが、気にもしなかったんだろう。太っ腹だ。

 

あの時代、大統領に愛人が何人いようと、そんなことをあげつらうメディアはなかったらしい。しっかり大統領が職責を果たし成果を上げていれば、ま、いいか!ってーとこか。その点、クリントンが大バッシングを受けたのは、ある意味、仕方ないね。フランスでは、ミッテランにもそんな話があったが、マスコミは知らんぷり。今もその伝統は生きているみたい。

 

いろいろ面白い作品だったが、これがハリウッド製でなく、イギリス製というところがミソ。あの国は皇室と庶民の関係が羨ましいほどに近いが、散々皇室を笑い者にもしてしまう度量が双方にあるというか、不思議なほどだ。既に、エリザベス女王も映画化されているし、ジョージ6世も何度目か。ダイアナの映画が間もなく封切られる。

 

どこまでが本当で、どこからがフィクションか判然としないが、うまく作ってある。英国王夫妻を演じる二人はイギリス人、ほかはアメリカ人が演じている。ビル・マーレイ、外観的にはまったく似ていないが雰囲気は出ているのだろう。ローラさん、エクボと丸い鼻は相変わらず愛嬌があるが、重力に逆らえず、ずっしりと。

 

それにしても、この作品、描きたかったのは女は強し、男は情けない存在ということか!

 

#78 画像はIMdb及びALLAINEMA on lineから