131119 原題:Hannah Arendt ドイツ映画 114分 [監][脚]マレガレータ・フォン・トロッタ [出]バルバラ・スコヴァ
頗る暗く重い作品だが、まことに力強い。それは、主役のハンナ・アーレント(1906-1975)そのもの。自らもユダヤ人として迫害を受け、ナチスの手を逃れるも、逃れた先のフランスで、収容所に入れられ、辛くも夫と脱出、アメリカに逃れた思想家・哲学者・教育者。まさしく鉄の意思で、世論とも、同胞であるべきユダヤ人からも弾圧される中を生き抜く。
アドルフ・アイヒマンが南米で捕まり、イスラエルに移送され、裁判にかけられる。これを傍聴したハンナは、彼が重罪人で死刑判決を当然としつつも、彼は単なる組織の歯車の一つに過ぎず、上からの命令を、なんらの思考なしに、忠実に実行しただけの平凡な小役人的存在という論理を展開、それをニューヨークの雑誌に連載し、非難囂々となる。
ナチス=極悪、ユダヤ人=善良なる民俗、という単純で、ステレオタイプな見解は持ち合わせない。飽くまでも哲学者の目でアイヒマン裁判を見つめるハンナには、まったくブレというものがない。
四面楚歌状態の中で、学生たちを相手に行った終盤の8分間の崇高な講義が胸を打つ。
ただし、延々と議論する場面が多く、また哲学的な文言がふんだんに出てくるので、いささか眠くなるシーンがあるのも事実。
余談ながら、彼女はもの凄いヘビー・スモーカーで、講義が始める前にもまず一服するほど。他にもスモーカーだらけ。あの時代はあんなもんだったろうけど、今考えると恐ろしい。
主役を演じたバルバラ・スコヴァが上手い。この人、横顔は理知的で時に冷徹に映るが、正面顔はまったく別の顔で寛容と優しさに満ちている不思議な女優だ。
単館上映とは言え、開映15分前に入場して、ほぼ満席とは、今更だが驚く。高齢者8割、女性も8割。
#95 画像はALLCINEMA on lineから