ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「キャプテン・フィリップス」

131203 原題もCAPTAIN PHILLIPS 134分とちょっと長い![]ポール・グリーングラス(「ボーン・スプレマシー」、「ボーン・アルティメイタム」など)[]トム・ハンクス 名の知れた俳優は彼だけ。他のメインキャストは無名のソマリア出身の俳優と素人。これが凄い演技で、圧倒される。実際に、誘拐されかかった船長が書いた原作を忠実に辿った作品だけに臨場感,迫真力に怖さがある。

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フィリップス船長がカリフォルニアの自宅を出て、出港地のあるイエメンに向かうところから始まる。空港への道すがら、彼が助手席のカミさんに言う。

 

「俺たちの世代は、普通に就職して、普通に勤務していれば、そこそこの地位まで行けたが、子供達はそうはいかない。サバイバルゲームのようにして厳しく生きて行かなくちゃならないから、大変だ。ま、でもすべて上手く行くさ。」

 

この、Everything’s gonna be OK. というフレーズが、作品を通して何度出て来るか。作品のキーワードになっている。

 

同じ時刻、カリフォルニアから18000kmも離れた、いわゆるアフリカの角にあたるところでは、貧しい漁民たちが、新たに海賊として雇われる場面が描かれる。概ね屈強な者と、才覚のある者が選抜される姿を映す。

 

そして、出港地、オマーンのサララ港。勤務する船は米船籍の「マースク・アラバマ」号。船荷満載で出航すると間もなく海賊船が登場。と言っても、実際に追いかけてくるのはちっちゃな高速ボート2隻。象に立ち向かう蟻のような存在だ。

 

当然誰もがこの二匹の蟻を蹴散らして、と思ったら、そうは行かない。執拗に食らいついて、あれよあれよと見ているうちに、何とはしごをかけられて制圧されてしまうのだから。

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ちょっと待て、海賊がウヨウヨしている海域で、武装していないって!!!海賊が銃を乱射しているんだから、反撃するのが普通だろうに。

 

ま、乗っ取られそうになっても、最後は船長の沈着冷静で、自己犠牲も惜しまないような振る舞いで、最後は無事生還するのだが、それにしても海軍のでっかい軍艦やら、海軍特殊部隊SEALsまで投入するんだから、これで失敗したら、目も当てられないし、米軍の国際的信用度の失墜は免れないところだったろう。それだけに、慎重にも慎重を重ねたように映る。

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敵が船長を人質にして、ちっぽけな救命艇で陸を目指す中、何度も救出できるチャンスがあったのに、見ている我々がじれったくなるほど動かないのは、上記事情があったからだろう。

 

それにしても、いくら熟達の射撃手と言え、揺れる船から同時に船内の犯人3人だけを射殺したことには驚かざるを得ない。今まで怒鳴り合っていた犯人達が一斉に血だらけに横たわる姿を見て、初めてパニックになり慟哭するキャプテン・フィリップス。貨物船船長としての経験豊富でも、こんな経験をすれば、彼とて常人、泣きわめきたくなるさ、そりゃ。

 

さっそく医務室に収容され、身体の傷を微細にチェックする担当医の女、もの凄く事務的に、矢継ぎ早に質問を浴びせかけるところが、いかにもアメリカらしい。九死に一生を得て生還した船長だよ、相手は。もう少し優しく出来ないのかねぇ。(日本人らしい感想)

 

これは2009年の話だが、既にマラッカ海峡以上に海賊の出没が多いと言われた海域で起きたことを考えると、どうもやっていることが余りに後手に回り過ぎて、要らぬエネルギーを消耗したとしか思えない。

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⬆やせこけて目だけぎらつかせる表情が実に怖いのだ。

それと、海賊の正体は、最貧国の一つ、ソマリアの貧しい漁民たちである。フィリップスが「3万ドルくれてやったんだし、そのままおとなしく帰った方がよかったのに。しかも我々の積荷の中身は、貧しいアフリカへの救援物資」と付け加えると、主犯格が言う、「3万ドルのようなはした金じゃ話ならねえ。それに、もともと我々の海からごっそり魚を穫っていってんのはお前らの方じゃねぇか。俺は、いずれアメリカに行くんだ。そこででっかい車買ってさぁ・・」

 

 

#100 画像はIMdbとALLCINEMA on lineから