ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「さよなら、アドルフ」

140130 原題:LORE(主人公の女性の名前)豪・独・英合作 原作は「暗闇のなかで」(レイチェル・シーファー、42歳、独・豪のハーフで英国育ち)第二次大戦終結後のドイツの話だが、監督・脚本は豪国籍のケイト・ショートランド(45) ということは、こんな重厚かつ深刻なテーマを扱った作品を、40代の女性が原作,脚本・監督で作り上げたということ。素晴らしい!

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バリバリのナチ一家、終戦と同時に両親は当局に逮捕、収監されてしまう。途方に暮れる子供達。母に言われた通り、800kmも離れたハンブルク在住の祖母の家を目指す。長女ローレはまだ14歳。しかも、乳飲み子を含めて4人の妹弟を連れて、着の身着のままで、森を抜け、山を越えて行くのだ。

 

途中、進軍するアメリカ兵と遭遇、厳しく誰何される。身分証明書もなく、もしナチ一家であることがバレれば万事休す。たまたま途中で一緒になったユダヤ人トーマスの機転で、何とか嫌疑を免れ、途中までトラックに同乗させて貰う。

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しかし、助けてくれた恩人とは言え、ヒトラーを信奉するローレにとって、ユダヤは不倶戴天、憎むべき存在と骨の髄まで教え込まれてきたので、心を許すわけには行かない。かと言って、この際、トーマスは頼りになる男性であるのも事実。付かず離れず、絶妙の間を取る演技が見もの。思春期から徐々に青春期に向かう乙女の心の揺れ具合を、この、日本では無名の女優、ザスキア・ローゼンダールが見事に演じて見せる。

 

艱難辛苦の挙げ句、ついに祖母の家に到着、めでたしめでたしという訳だが、何週間にも及んだこの絶望的逃避行で見た、或は感じた人間の残虐性、はかなさ、優しさ・・・。14歳の少女には、理解をはるかに越えた、余りに重たい現実である。

 

加えて、途中で離ればなれになったトーマスだが、弟が車中でこっそり抜き取っていたトーマスの身分証明書を見たら、それは他ユダヤ人のものであることが判明。しかも、幸せそうな家族の写真が何枚も。と言うことはトーマスはユダヤ人を偽っていたことに。眺めながら、ますます複雑な心境になるローレ、いたたまれない気持ちだ。

 

一方、何も知らない祖母は、通り一遍の言葉で子供たちを慰め、食事の席では彼らの無作法さをとがめるだけ。その時、長女ローレは予想外の行動に出る。パンを敢えてガツガツとむさぼり、テーブルにわざとこぼした水を手で掬って飲む。そして2階に駆け上がり、サイドボードの上にきれいに並べてあった陶器製フィギュアを片端から床に投げつけ、足で粉砕する。彼女の怒りと悲しみが凝縮されたようなラストシーン。

 

ホロコーストものでは、被害者ユダヤ人の目線での作品が圧倒的に多いが、こうしたナチス側,加害者の家族の視点で描いた終戦人間模様はかなり珍しい。

 

 

#8 画像はALLCINEMA on lineから