ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「あなたを抱きしめる日まで」

140307 原題:PHILOMENA (フィロメーナ、主人公の名前 いかにもカトリック信者らしく聖女の名前だ)英仏合作 98分 [監]スティーブン・フリアーズ 予告編を何度も見ると、何となく見た気になってしまうものだ。それに、どうも感動の押しつけ的な雰囲気を感じたので、見る予定がなかったのだが・・・。姉に勧められるまま、その気になったが、近くのJR川崎周辺の映画館では、既に公開終了。仕方なく、銀座シネスィッチまで出かけた。

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勿論大感動というわけではないが、それなりによく出来ていた作品。主演のジュディ・デンチの演技が光る。さすがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされただけのことはある。共演のスティーブ・クーガンは脚本・製作にも名を連ねている。ノミネートされたのは、他に作品賞、脚色賞、作曲賞の計4部門だが、いずれも受賞を逃した。

 

物語は現在(2003年)と50年前とをフラッシュバックで行ったり来たりしながら進行する。アイルランドの田舎娘だったフィロメーナ、地元の祭礼で知り合ったイケメンと出来心から関係を持って、妊娠。ロスクレア(ダブリンから西南西200km)の修道院に送られてしまう。

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その修道院には、フィロメーナと同じような境遇の10代の娘達が、様々な制約と厳しい監視の下、子供たちと一緒に暮らしている。ある日、フィロメーナの眼前で信じられないことが・・・。

 

かねがね噂では聞いていたが、教会が彼女たちの子供を裕福な家庭へ養子縁組にだしてしまうというもの。聞こえはいいが、まとまった金で売り飛ばす”人身売買”である。いわば聖域である教会を隠れ蓑にしての金儲けは、今でも時折耳にするが、こんな辺鄙なところだとまず足がつくことはない。

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⬆そう言えば、あの日、まさにここでアンソニーが連れ去られる瞬間を胸が張り裂ける思いで目撃。

 

あれから50年、既に老境に達したフィロメーナ、敬虔なカトリック信者として、教会へ行っては、片時も忘れたことがない、連れ去られた息子アンソニーのために祈り続ける。いつか、必ず居場所を突き止めると密かな闘志を燃やしながら。

 

娘のジェーン(アンソニーの異父妹)は、母の秘密を知り、協力を誓う。ある日、パーティーでたまたま知り合った元ジャーナリスト、マーティン(原作者)に調査を依頼する。自分の専門分野でないとその場は断るマーティンだったが・・・。

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彼は政府の要職にありながら、不祥事で辞職に追い込まれ、今は再起を夢見て、当面執筆活動中の身。結局、調査を引き受けることになり、アンソニーの養父母がアメリカ人と判明したので、フィロメーナとアメリカへ飛び、事件解決へと俄然ジャーナリスト魂に火が着くのだった。

 

と言う訳で、後半はアメリカ、そして最後は再びロンスクレアを舞台に事件の核心へ一気に迫り、見せ場を作る。クーガンの脚本もなかなか冴えている。

 

教会が深く関与するおぞましい人身売買が明るみになり、ゲイであったアンソニーエイズに罹り余命が尽きる前に母親を探して修道院を訪れ、本人の希望で修道院敷地内に埋葬されていたことが判明。

 

当初は記事にされることを嫌がったフィロメーナも、事件を公にして欲しいとマーティンに告げ、元を辿れば自らの罪ゆえ、誰も憎まないし、”首謀者”であるシスター・ヒルデガードにもforgive(赦す)と告げるのだった。これに対し、シスターへの憎悪をむき出しにしてI could not forgive(赦せない)とつぶやくマーティンの姿が対照的。

 

同じく教会がかるむ人身売買を扱った英国映画「オレンジと太陽」を思わずにはいられなかった。

 

ところで、修道院の待合室にハリウッド女優、ジェーン・ラッセルのサイン入りの写真が飾られていて、シスターの説明では、彼女もここで養子を”買った”ということに。本当だろうか。

 

現在80歳のジュディ・デンチ、ちょっとこの役を演じるには年を取り過ぎているが、ほんとに上手い。整形など一切関心ない、と言わんばかりの老けぶりが見事だ。ハリウッド女優も、もう少し見習うと良い。最近、アカデミー賞授賞式に登場したキム・ノヴァク(81)の化け物のような整形後の顔を見たばかりなので余計そう思ってしまう。

 

 

#29 画像はALLCINEMA on lineから