ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「アクト・オブ・キリング」

140416 原題も:THE ACT OF KILLING(殺人行為)デンマークインドネシアノルウェー・イギリス合作 121分 []ジョシュア・オッペンハイマー 

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以下、チラシのイントロから抜粋これが“悪の正体”なのだろうか―。60年代のインドネシアで秘かに行われた100万人規模の大虐殺。その実行者たちは、驚くべきことに、いまも“国民的英雄”として楽しげに暮らしている。映画作家ジョシュア・オッペンハイマーは人権団体の依頼で虐殺の被害者を取材していたが、当局から被害者への接触を禁止され、対象を加害者に変更。彼らが嬉々として過去の行為を再現してみせたのをきっかけに、「では、あなたたち自身で、カメラの前で演じてみませんか」と持ちかけてみた。まるで映画スター気取りで、身振り手振りで殺人の様子を詳細に演じてみせる男たち。しかし、その再演は、彼らにある変化をもたらしていく…。

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いやはや、とんでもない映画があるものだ!これまで随分いろんな映画を見て来たが、これほど衝撃を受けた作品も珍しい。それにしても、いまだに知らないことの何と多いことよ!愚亭がイタリアから帰国して大学に復学、4年の秋に起きた事件だが、まったく知らなかった。1965年9月30日に起きたいわゆる9.30事件として、インドネシア人なら誰でも知っている、当時世間を震撼させた大事件を扱っている。

 

ナチと対比させるには無理があろうが、政敵に共産主義者のレッテルを貼って、片端から、それも100万人という規模の大量殺戮実行の首謀者たちが、今ものうのうと英雄気どりで生活していること自体、まことに異常であり、それを普通に赦している国民の気が知れない。もし、それをインドネシア人気質とするなら、実に恐ろしいことだ。

 

もともとギャングで、実行犯の一人、アンワル・コンゴという人物が主役として登場する。もとより悪びれた様子もなく、当時の殺戮シーンを嬉々として演じる姿には、何とも言えない戦慄が走る。自分の孫たちに、殺人シーンをビデオで見せる感覚は、異常さを通り越している。 

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⬆実際殺人が行われた現場で、そのシーンを再現して見せるアンワル・コンゴ。この時点では、表情からも分かるように、何の抵抗感もなく、淡々と演じている。

 

しかし、当時の殺戮シーンや、拷問に遭う共産主義者役を演じているうちに、徐々にだが明らかに表情に変化が見られ、やがて激しく嘔吐する場面が出て来る。半世紀近くも経って、追体験を通じて初めて己の野蛮さ、非情さを覚ったのか。

 

エグゼキュティブ・プロデューサーに、ニュー・ジャーマン・シネマの旗手、ヴェルナー・ヘルツォークが名を連ねているが、監督や製作者の一部を除く、実にキャスト48人がanonymousとしてしかクレジットには出て来ないのは、危険回避上、やむを得ないのだろう。これも異常なことだ。

 

ところで、本作の上映館、渋谷のイメージ・フォーラムへ到着したのは、開映の10分前。映画館の前の路上が人の群れで溢れ返っている。これは想定外。人気作品でも、これまでこんなことはなかったと思うのだが、1200円(シニア料金、一気に200円も上げるのは、明らかな便乗値上げではないのか!)払って、渡された整理券は何と100番!覚悟して入場したら、前から3列目の右端にやっと席を確保。前に、こんなに見づらい席で鑑賞したことは・・・最近では思い出せないほど大昔のこと。

 

 #31 画像はIMdbALLCINEMA on lineから