ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「とらわれて夏」

140512  原題:LABOR DAY 111分 [監]ジェイソン・ライトマン(加)(「マイレージ、マイライフ」)この邦題は上手い!日本でレイバー・デイと言われても、何のことやら。因に、このアメリカ版「勤労感謝の日」は9月の第1月曜日、新学期の初日で、このことが後で結構重要な意味を持つことになる。

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3人にとって、新規蒔き直し、カナダでの新しい人生が、もうすぐ手の届くところにあったというのに!!遠くから聞こえてくる無情なパトカーのサイレン、嗚呼。

 

ニュー・ハンプシャーの田舎町、町外れの、あばらやと言えるような古い一軒家に住むアデル(ケイト・ウィンスレット)と一人息子のヘンリー。いつものように町のスーパーへ二人でお買い物。離婚したばかりのアデルは依然情緒不安定で、13歳のヘンリーはそれが心配でたまらない。できるだけ母親の近くにいてやろうとする優しい息子だ。

 

買い物中、突如見知らぬ男に声をかけられるヘンリー。見れば、男の腹部には血がにじんでいる。実は、負傷していて追われる身、ちょっとだけでいいから、かくまって欲しいと。ひげもじゃ男に言われるままに自宅へ。脱走した脱獄犯フランク(ジョシュ・ブローリン)だ。身なりはともかく、凶悪犯には見えない。

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犯人に強要されるまま、仕方なく自宅に向かうアデル。この辺りの表情が冴える。

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捕まった時に、犯人に協力したと思われないよう、一応、椅子に縛り付けるフランク。縄の縛り方も手慣れたもの。でもゆるく結んであげる優しさも。

 

次第に打ち解けるうちに、家の仕事を次々に手際よく片付けて行く。料理、洗濯、床磨き、屋根直し、車整備と留まるところを知らない。合間に、ヘンリーに野球の手ほどきをしたり、どこから見ても悪い人ではない。離婚後の寂しさにうちひしがれていたアデルには、何とも頼もしい存在に映るのはごく自然な流れだ。

 

しかし、世の中、そう甘くはない。5日間の出来事だが、その間、目に見えぬ形で、徐々にほころびが広がって行くことに3人は気付かない。近所の目、現金を下ろしに行く銀行の係員、ヘンリーの友達、そして近所に住むヘンリーの父親(アデルの別れた亭主)など、どこかこの母子の様子がいつもと違うことに気付き始める。

 

結局、カナダへの逃避行は夢で終わるのだが、それから数十年、獄中のフランクが偶然目にした雑誌に掲載されたあるパン屋の記事と写真。まごうことなき成人したヘンリー(トビー・マグワイア)の姿がそこに。そしてあの”楽しい”5日間で、最も楽しいひと時だったピーチパイ作りの映像がだぶる。そう、フランクが伝授したあのピーチパイの写真がフランクの目を釘付けに。

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3人にとって一番楽しかったピーチパイ作り。3人の心が通い合った瞬間だ。

ラストシーンには、思わず胸が熱くなった。間違いなく秀作である。脚本も上手いのだが、やはり俳優たちの演技、とりわけウィンスレットの、揺れ動く心の襞まで見事に描写してみせた演技には脱帽。ブローリンも、無骨な中にも優しさをにじませるスタイル、彼でないと出来ないと思わせた。

 

なぜフランクが収監されることになったのか、若き日のフランクが、フラッシュバックで登場するが、これがまたよく似た俳優で、ブローリン本人かと思わせるほどの出来映え。よくぞトム・リピンスキーを見つけて来たよ。キャスティングに大喝采!

 

脱獄犯が善良な市民を人質にして、その家に立てこもる作品は、これまでゴマンとあり、中でも1955年の「必死の逃亡者」(フレデリック・マーチ、ハンフリー・ボガート)などが特に記憶に残っているが、本作はそうした作品群でも異彩を放つ作品で、長く記憶に残るのではないかな。

 

 

#40 画像はIMdbとALLCINEMA on lineから