ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「私の男」

140619 原作:桜庭一樹  監督:熊切和嘉 [出]浅野忠信二階堂ふみ藤竜也ほか

原作は読んでいない。タブーに正面から挑戦した、ドロドロした半モラル的作品で、こういう作品はコメントしづらい。怖いもの見たさ半分、二階堂ふみ見たさ半分で見に行った。

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1993年夏、奥尻島を襲った大津波で家族を失い一人残った幼児を、娘として引き取った腐野(くされの)という二十代の男(浅野)、家族を作りたいと口では言うが、正業についているわけでなく、どうもまっとうな男には見えない。十数年後、ほぼ成人になりかかった娘、花(二階堂)との、まともでない関係は紋別のような小さな世界で、住人たちの口の端に上らない筈がない。

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一人残された花(子役時代を演じるのは、NHK連ドラ「花子とアン」で花子の子供時代を演じた山田望叶)は偶然声をかけてくれた腐野(何とも凄い名前だ!)の養女となる。

そんな中、二人をよく知る地元の世話役、大塩(藤竜也)は旭川に花の受け入れ先を見つけ、何とか二人の不自然な関係を断ち切ろうと尽力するが・・・。言うことを聞かない花を何とか説得しようと花を追いかけるうちに、いつの間にか回りは流氷の世界、そして悲劇が。ここまでが北海道編。

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⬆まさかの展開に呆然とする花は、黙って事件現場を後にする。

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⬆何食わぬ顔で、大塩の葬儀に参列する二人。既に周囲からは奇異な目で見られている。

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 更に数年後、舞台は東京。線路脇のあばら屋に住まう二人。腐野はタクシー運転手、花は会社の受付でそれぞれ仕事を得て、暮らしている。そこへ、ふらりと立ち寄った男。紋別にいた警察官、田岡(モロ師岡)。何しに来たかいぶかる腐野に、田岡が見せたのは、大塩殺しの証拠品⬆。

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この作品、全編(北海道)と後編(東京)で、使用カメラを替えているのがよく分かる。前編は画質が粗く、後編は画質をシャープにして、時代感覚を見事に表現している。更に音響効果が素晴らしい。流氷のきしむ不気味な音、豪快な花火の音、住宅脇を走る電車の轟音、それぞれがその場面を大きく盛り上げている。

 

また殺人場面の凄惨さは、ほとんど顔をそむけ、のけぞりそうになるほどの迫力を生む。黒沢の「椿 三十郎」のラストを思い出した。

 

浅野の演技も素晴らしいが、やはり二階堂が凄い。やはりこういう演技が出来る女優だったのだ。改めて多いに感じ入った次第。この二人のキャスティングは大成功で、もはや浅野・二階堂でないとこの作品は成功しなかったとしか思えない。久しぶりに凄い日本映画を見た。

 

二階堂は、「ヒミズ」(2012 園子温監督)で鮮烈な印象を受け、「ほとりの朔子」(2014 深田晃司監督)での極めて自然な演技に感心した女優。美貌からはほど遠いが、内面から魂が突き動かすような演技は、どこから出て来たのだろう。まだ19歳だが、既にさまざまな賞を受賞している。今後の活躍が見ものだ。

 

ついでながら、二階堂ふみは目と鼻が宮崎あおいにそっくりで、アングルによっては、どっちだか判断つきかねるほど。宮崎が8歳ほど年上で、上背も6cmほど高いという違いはあるが、こういうケースは珍しい。尤も二階堂は宮崎を似ていると言われるのが大嫌いだそうだが。

 

#50 画像はALLCINEMA on lineから