ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「私の、息子」

140623 原題はルーマニア語なので省略。因に英文タイトルはCHILD’S POSE これを「胎児の姿勢」と訳して、エンドロールの後に突如表示される。暗示的である。

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セレブな母親と一人息子との愛憎劇。舞台はルーマニアの首都、ブカレスト。社交界にも出入りする派手好きな母コルネリアは、家のデザイナーでもある。それゆえか、近代的な設備の立派な邸宅に住んでいるし、息子にも相応の贅沢をさせている。

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30過ぎの一人息子バルブは、連れ子のいるカルメンと同棲しているが、カルメンのいいなりで、それもコルネリアには大いに不満の種。こんなうだつの上がらないダメ男にしてしまった、その原因は、溺愛する母親にあるのだが、そんなことには気付かないふりをするコルネリアだ。

 

国内外を問わず、どこにもあるような話ながら、この母親の場合は、まことに度が過ぎていて、まさにエキセントリックの極致。自分ちの家政婦に息子の家の面倒も見させるが、本当の狙いは監視。息子の様子、嫁の様子、何を食べて、何を読んでいるかなど、逐一報告させている。いい加減うんざりの家政婦、さもありなんだし、当然、息子たちもそのことには薄々気付いているが、経済的には助かってもいるから、これまで表沙汰にして来なかっただけのこと。

 

ところが息子が高速道路で子供をはねる死亡事故を起こしてしまう。これをきっかけに母子関係は決定的な局面を迎えてしまうのだった。

 

このケース、双方に責任があるのだが、父親というのは、まったく何の役にも立たないところが、世界共通という感じがしてくる。

 

映画は、コルネリアが嫌がるバルブとカルメンを引き連れて、遺族のところへお悔やみを言いに行くところでジ・エンドとなる。お悔やみを言いながらも、いかに自分の息子が素晴らしい息子かを涙ながらに語り、そんな息子の将来を奪わないで欲しいと亡くなった子供の母親に懇願するという、何ともはや呆れ果てた加害者家族もいたもんだ。

 

遺族から何をされるか分からないからと、車から出ることを拒み、ひたすら後部座席に座っていたバルブ、車が動き出す前に、送りに出て来た亡き子の父親の姿を認めると、車から自発的に降り、謝罪をしている様子が、運転席横のバックミラーに映る。

 

邦題が「私の、息子」であって、「私の息子」としていないところが意味深長だ。

 

#52 画像はIMdbから