ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

新印象派展@東京都美術館

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いつもは高齢者無料日を利用する美術館だが、先月はうっかりその日を失念、今月は旅行中、来月は既に会期終了ということで、久しぶりに有料で入館した。

全部で109点の展示で、そのほとんどが油彩という豪華版。よくぞこれだけの点描を一堂に集めたことに敬意を表したい。それにしても、国内所蔵が相当数あるのに驚く。

点描と言えば、ジョルジュ・スーラとポール・シニャックしか思い浮かばないが、意外にも多くの画家が試みていることがよくわかる。印象派展というのは、1974年から全部で8回開催され、すべてに出展したのがピサロ、ただ一人ということや、1880年の印象派点で、モネに啓示を受けたのがシニャックだったとか、逸話がいろいろ紹介されているのも興味を引く。

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入場するとすぐに展示してあるのはモネらの普通の印象派の作品。これは「税関吏の小屋、荒れた海」と題する1882年の作品で、こうした粗いタッチを点描派が細密にしていくことを示す一例としての展示か。日本テレビ放送網株式会社所蔵。海の描き方、イマイチ。あまり海の感じがしていない。ちょっとモネらしくないようだ。

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スーラの「ポール・アン・ベッサンの外港、満潮」額縁にまで点描していて、実に興味深い。

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シニャック「髪を結う女、作品225」退色を防ぐために、古代エジプトの棺に描かれた絵画手法である蜜蝋に顔料を溶かし込んだもので彩色。モデルはシニャックのカノジョ。

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アンリ=エドモン・クロス 「地中海のほとり」既にかなり普通の点描手法から遠ざかりつつある。

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シニャッククリシーのガスタンク」なんでも例のエッフェルが設計したガスタンクとか。ここでは家の屋根のオレンジ色と手前の庭の緑色、空の青と手前の黄色が、それぞれ補色関係になっていて、印象派の特色を表しているとか。

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ジョルジュ・モレン「日没」。なんとなく川瀬巴水の版画を思わせるような筆致だ。

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シニャックマルセイユ、釣り舟」1907年にもなると、点描の点がどんどん大きくなり、フォーヴィズムに引き継がれる予感が現れる。

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アンドレ・ドラン「コリウール港の小舟」1905  点描派が行き着く先の一例。鮮やかな色彩をより大胆な筆致で並べていく手法へと。フォーヴィズムの誕生である。

マチスは逆にシニャックらの作品に興味を覚え、自分でもトライしているが、いち早く、自分の目指す絵画手法でないと気づく辺り、やはり天才だろう。彼のその1点も展示されているが、あまり熱心に点描しておらず、途中で放り出したような作品が面白い。

フランス人だけでなく、その後は、ベルギー人が数多くこの絵画手法を採用して作品をのしているが、どうもイマイチで、やはり点描はスーラとシニャックだけで十分という気がしてくるし、他の作品は亜流に見え、ものによっては、余りに品位に欠け、なんだか虫がいっぱいくっついているような不快感を覚える作品まである。

いずれにしても、長い絵画歴史の中で、一時代を画したことだけは確かだし、その意味でもこの二人の偉業には敬意あるのみだ。

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シニャックのパレット。色の数が少ないのと、几帳面な正確なのか、随分整然としている。