ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「0.5ミリ」

150602 一般館で上映期間に、行くつもりで、とうとう見損なってしまった作品が、たまたま近くの映画館にかかるという幸運。原作、脚本、監督を安藤桃子、主演を安藤サクラ、エグゼクティブ・プロデューサーを奥田瑛二、そしてフードスタイリストとして安藤和津がクレジットされていて、まさに家族総出である。

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しかし、この長女も、30ちょっとでこうした作品を作れることに舌を巻くが、演じる次女も、また天才的に上手い。本作より後にできた「百円の恋」の方を先に見ているが、これまでの女優にない、天然自然の演技にすっかり魂を抜かれた。

百円の恋」ではたまたま本人の劇場挨拶があって、生でも見ているが、まことに天真爛漫、かつ他人に対する気配り、心遣いがとっても自然にできてしまう、やはり稀有な存在のようだ。

さて、本作。5つの話で構成されている一種オムニバス的な手法を取っている。話と話を結んでいくのが主人公のサワ(安藤サクラ)という、天涯孤独の女。ケアセンターから派遣される介護人で、しかもどこで習ったか料理がめっぽう上手いという設定。

織本順吉を世話する第1話では、娘(木内みどり)から必死に懇願され、仕方なく二階で寝ている織本に添い寝をすることを承諾するが、興奮した織本が暴れた拍子に石油ストーブの火が布団に燃え移り、必死でサワが階下に転がり落ちると、そこには天井からぶら下がった娘の屍体。それを呆然と見上げるマコト(孫娘?)が。

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センターを追い出され、住む場所もなくしたサワ、街を歩いていると偶然目にした光景は、⬆︎カラオケで宿泊交渉をする老人と、断る店員(東出昌大だということは、後で気づいた)の姿。さっそく割って入りうまいこと老人に取り入ってしまう。この辺の話術も天才的に長けた女なのだ。

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⬆︎本屋でエロ本を見て、万引きしようとする自称大学教授(津川雅彦)を脅すサワ。

こうしてワケあり老人に取り入り、手玉に取りつつ、映画は進行していくという趣向。第3話に登場する坂田利夫のすっとぼけた演技、第4話の津川雅彦の、戦争と人間についての長広舌(ワンカット)、第5話での柄本 明との壮絶なバトル。3時間を超える長尺だが、中だるみゼロ。実に面白く最後まで見られた。監督としても、実に見事な手腕にひたすら脱帽。

脇を固める俳優たちがまた実に上手い!キャスティングの妙だね、これは。織本順吉の老人ぶりが余りにリアルで、別人、というか本物の認知症病人を実写したのかと思ったほど。

ところで、タイトルの0.5ミリが何を表しているか、原作によれば、以下。

「極限に追い込まれた人の輝きは極限状態を凌駕し、自己の実存として覚醒され、それは山をも動かす事となる。その山とは一人一人の心、0.5ミリ程度の事かもしれないが、その数ミリが集結し同じ方角に動いた時こそが革命の始まりである」

こんなことを30ちょっとの娘が書くかしらねぇ。

それと、津川の独白だが、戦争がいかに愚かな、史上最大の人間の犯した過ちであり・・・云々の場面が、どうも津川自身の説にかぶって妙に説得力を感じた。

#37 画像はALLCINEMA on lineから