ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

井上道義X野田秀樹版「フィガロの結婚」@ミューザ川崎

150617

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だいぶ前から楽しみにしていた異色のオペラ。マエストロ井上は体調を崩されて、しばらく休養を余儀なくされていたので気がかりであったが、めでたく復帰できたのが何より。

野田秀樹演出というところが、大いに期待されたわけだが、期待を大きく上回る出来栄えで、納得、ナットク!大喝采のうちに無事終演となった。

そもそもはマエストロ側から野田秀樹に声をかけて、用意周到に準備された企画だったようだ。キャスティングを巡って、日本人でやるか、外国人歌手を据えるかでも侃々諤々の末、折れ合って取った手法が、まさしく素晴らしいケミストリーを生んだと言えよう。

日本人同士は日本語で、外国人同士、或いは混合の場合は原語、つまりイタリア語でという、ちょっと考えるとかなり奇天烈な決着なのだが、すべてていねいな字幕が出るので、なんの違和感も生じることはなかった。

加えて、演出たるや!舞台は長崎、時代は黒船来航時という、これまたトンデモな設定。ここにどうやってモーツァルト時代の伯爵やら伯爵夫人が絡めるか、ま、細かいことは、この際措いておこう。まさにオペラの楽しみ方の新趣向が提示されたと言っていいだろう。

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タイトルの後に、「〜庭師は見た〜」と、なにやらテレビドラマのごとき副題が。そうなのだ、庭師アントニオが、まあ狂言回しの役を振られた形で、要所要所で軽妙な芝居をする。この役を演じた方は舞台俳優だが、実は歌もすこぶるお上手である。

さて、主要なソリスト。まずはタイトルロールの大山大輔さん、堂々たるフィガ郎を演じられ、さすがである。お相手の小林沙羅さん、今更言うまでもなく、まことにチャーミングな容姿と美しい声に恵まれ、天真爛漫にスザンナを演じられた。二人ともうってつけの役どころで、言うことなし。

海外勢の三人、誰一人名前は知らなかったが、本場仕込みの演唱で、日本勢と見事なバランスを保ちながら、観衆を最後まで魅了し続けた。しかし、ケルビーノ役のマルテン・エンゲルチェズ(オランダ人かな)は、カウンターテナーとして、普段バッハやヘンデルを歌うことが多いらしいが、なにせ上背があるから、正直、ケルビーノとしてはかなり違和感があった。

まあしかし、こんな突拍子もないフィガロが見られたのは、幸せなことだ。5月26日の金沢を皮切りに、秋の公演も含めると全部で13回、全国縦断することになっている。

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