ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「自由が丘で」

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国際的に知名度の高いホン・サンス監督が、対談した加瀬亮と意気投合して生まれた作品とか。基本は英語で、時折韓国語、日本語はゼロ。

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主人公モリ(加瀬亮)がはるばる韓国まで追ってきた相手の女性クォンがほとんど描かれないから、彼女がどういう女性なのか、見る側に任されている。

彼女が留守にしている間に溜まっていた手紙の山。それは綿々と募る思いを綴ったモリからのラブレター。ところが、うっかり階段から落としてしまい、拾い集めたが、日付が抜けているため、順序が分からず、それを元にして映像を起こしているので、時間軸が乱れているという仕掛け。

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彼の韓国滞在中、ずーっと不在だったクォン、⬆︎最終的に出会い、連れ立って日本に行き、どうやら一緒になるらしい。つまりハッピーエンドなのだが、その後に来る映像が、何やら意味ありげで、なんとなく不可解なまま、劇場を後にした。

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⬆︎隣の部屋の住人、サンウォンとすっかり親しくなって酒を酌み交わす仲に。

初めの方で、朝寝坊したモリに対して、ゲストハウスのオーナーらしい女性から、朝食時間を守るように告げられる。ところが、サンウォンには10過ぎでも、普通に朝食を出しているのを目撃して、不公平ではないかとも文句をつけると、サンウォンは、実は彼女の甥っ子で、借金を背負ってここに転がり込んできたから面倒を見ているのだと言い訳する。こうな風に文句をつけるのは、日本人にはちょっと珍しい。モリは嘗て、韓国に語学教師として住んでいたことがあるというから、自然に身につけたのかも知れない。

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⬆︎タイトルにもなっている「自由が丘」はゲストハウス近くのカフェ。そこで暇つぶしをするモリに好感を持つオーナーのヨンソンと、何度も通ううちにどんどん親しくなり、一線を越えるところまで。ある日、店のサービスと言って、ケーキを振舞うヨンソン。奥のテーブルにいるのは、実は彼のボーイフレンドで、「俺にも出してよ!」と。その後、モリのそばに来て英語であれこれ尋ねるのに、すっかり気分を害したモリは「自分はまだ手をつけていないから、このケーキを食べれば」と言い残して憤然と立ち去る。これまた、一般的日本人の取る行動ではないような気がする。

大女優イザベル・ユペールを主役に据えてホン・サンスが撮った「三人のアンヌ」(2012) も一風変わった作品と思ったが、本作と共通する部分、少なからず。英語を共通語にしているせいか、会話の中身が、極めて皮相的で、中身がないのだが、作品全体で見ると、却って新鮮さを覚える。

そう言えば、「三人のアンヌ」の時も、確かどっかの映画祭で会ったユペールと意気投合して、一緒に映画を撮りましょうと約束したはずだから、全く同じシチュエーションだ。ホン・サンスの癖かな。

#65 画像はALLCINEMA on lineと本作の公式ホームページから