ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「わたしに会うまでの1600キロ」

150902 原題:WILD 米 116分 [監]ジャン=マルク・ヴァレ(カナダ人、「ダラス・バイヤーズ・クラブ」、「ヴィクトリア女王、世紀の愛」)原作:シェリル・ストレイド 主演のリース・ウィザースプーンは、製作にも名前を連ねている。彼女のこの作品への入れ込みようは、製作以外に主演も考えていた「ゴーン・ガール」の出演を、結局、本作のために断念したことでも窺える。

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北米大陸の大平洋岸に沿ってPACIFIC CREST TRAIL(通称PCT)と呼ばれる長距離自然歩道がある。全長、実に4,260km!クレストとは頂きの事で、この間、幾つかの峰があるので、高低差がきついし、季節を間違えると雪中行軍は必至。ゆえに踏破するのは難事業だが、往復達成者がすでに存在する。物好きは、世界中、どこにでも。

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この原作者、ストレイドは1995年(今から20年前)、最愛の母親を亡くし、自暴自棄に。そこで、まあいわゆる「自分探し」の旅に、ここの踏破を選択。とは言え、女性で、それまで何のトレーニングもしていないのだから、はなっから無謀であり、誰に話しても信じてもらえない。

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⬆︎高い岩山から落ちかかったり・・・

自分でもほとんど自信がなく、ダメなら途中でやめよう、ぐらいの軽い気持ちで、そろりそろりととりあえず第1歩を踏み出す。もちろん全行程踏破は、初めから考えておらず、カリフォルニアの端からオレゴン州ポートランドまで1600km(約1/3)に限定。これは正しい判断だろう。

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⬆︎激流に流されかかったり・・・

途中、何度も断念しかかるが、なんとか90日かけて踏破達成!道中、大自然の猛威、がらがら蛇など、小動物やならず者からの脅威、体調不良、食料や飲料の枯渇などの危険に耐えずさらされながらだから、この女一人旅がどれほど過酷で危険なものだったかは想像に余りある。

達成できたのは、もちろん本人の強固な意志によるのだが、途中で出会う旅仲間からの励ましや友情の効果は無視できない。PCTの要所要所には、ハイカーが自由に書き込みができるログブックのようなものが置いてあり、貴重な情報源になったりするし、ポイントなる町では、手紙や荷物が受け取れるシステムもあり、ある意味、サンチャゴ・デ・コンポステーラ巡礼に共通するシステムだ。

つい最近見たばかりの「奇跡の2000キロ」は、そういうシステムの全くない、茫漠たる砂漠をただひたすらラクダ4頭と行くわけで、この方がよほど大変だった気がする。

それに、本作は、自分の幼少時代の遠い過去の映像、あるいは亡くなる直前の母親(ローラ・ダーン)とのやりとり、去っていったDV父の姿や、別れた元夫との会話のシーンが繰り返しフラッシュバックされる。これも「奇跡の・・・」とは大きく異なる点だろう。

ついでに、2008年に見た「イントゥ・ザ・ワイルド」(原題同じ)も、裕福な家に生まれついた青年(エミール・ハーシュが好演)が、あり金全額を寄付し、アラスカに向け一人旅。目指すアラスカの荒野で、うっかり毒草を食べて命を落とすという悲劇だが、これも実話。探せば、似たようなテーマを扱った作品が少なくない。

ウィザースプーは美人でもないし、スタイルも大したことのないハリウッド女優だが、演技力は定評があり、すでに「ウォーク・ザ・ライン/君に続く道」で見事アカデミー主演女優賞を獲得している。因みに、この作品は歌手ジョニー・キャッシュの話だがホアキン・フェニックス同様、彼女も劇中の歌は吹き替えなしで、すべて自身で歌ったというから、やはりただ者ではないのだ。

#71 画像はIMdb、およびALLCINEMA on lineから