ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「カプチーノはお熱いうちに」

150929 原題:ALLACCIATE LE CINTURE (安全ベルトをお締め下さい)伊 112分 原案、脚本、監督:フェルザン・オズペテク(妙な名前だと思ったら、トルコ人。既にイタリア人に帰化しているが)

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舞台となるレッチェ(LECCE)は深南部とでも言おうか、長靴のかかと辺り。

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10kmほどでアドリア海に出る。行ったことはないが、なかなかオシャレな街にようである。この辺りだと、かなり訛りが強くなると思うのだが、本作ではほぼ標準語が話されている。

冒頭、土砂降りの雨の中、足早に通り過ぎる足だけのショットが冴える。やがて、雨宿りをする一群にカメラが近づく。溢れんばかりの人の群れに、さらに移民らしい人間が加わろうとするから、ひと騒ぎ。主人公のエレナは、移民に罵声を浴びせる男に「差別するのはよしなさいよ!」と。これに言い返す男。日本では起こりえないシーンだが、イタリアでは、当たり前、特に南部では。

このエレナ、市心のカフェで働いていて、そこで開かれたパーティーに、親友のシルヴィアが連れてきた恋人というのが、なんとあの時、怒鳴りあったいけ好かない男。互いに、なんとも気まずい思いが交錯。

エレナにはジョルジョという恋人らしい男はいるが、あまりうまく行っていない。むしろ事故死した弟の親友(ゲイ)、ファビオと仲良しで、二人で、たまたま一等地に売りに出ている物件を買い取って、カフェを共同経営しようとしている。

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そんなある日、勤めているカフェに”あの男”が来る。それも何度か訪ねてきて、じーっと意味ありげな眼差しを送っては去っていく。ま、ここで、二人の間に電流が走るのだが、うまく撮っている。

そして、次のシーンでは、この二人、既に2児の親になっている。共同経営のカフェも繁盛し、幸せな生活である。忍び寄る”影”に、気付くことはない。

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エレナ、シルヴィア、ファビオ。エレナとシルヴィアは、知らない間に互いに恋人を交換したことに。それを親友である相手にだけは、事前に告白しておこうと呼び出すのだが、何を勘違いしたのか・・・この告白の場面は、笑えた。

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エレナ、母親、叔母。母親と叔母は、しょっちゅう口汚く罵りあっているが、いざとなるとすこぶる仲が良い。典型的なイタリア的光景。この叔母が乳がんのチェックに行くことになり、姪であるエレナに同行を求める。一緒に診断を受けたところ、叔母でなく、エレナに乳がんの疑いが濃厚と判明。

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カフェに勤めていた頃に、偶然出会った客と気が合って、おしゃべり。聞けば、医者を目指して勉強中という。まさか何年か後に、乳がん治療で、彼女のお世話になろうとは!

抗がん剤治療開始からの展開、これが見せ場で、オズペテク監督の真骨頂というところか。

前半、なんとなく映画に入りにくく、こりゃ失敗作かと思い始めた頃から徐々に見せ場をチラチラと巧みに繰り出し、エンディングまで引っ張っていく力が凄いと思った。

エレナを演じる、これまた妙な名前のカシア・スムートニアクポーランド人!特別うまいとは思わなかったが、目力がなかなか印象に残る。

相手のアントニオを演じるフランチェスコ・アルカ、イタリア人の中でもことさらに濃い顔で、若い頃のフランコ・ネロジャン=マリア・ヴォロンテを彷彿とさせる。

原題だが、別に飛行機のシーンが出てこないのに、と思ったら、二人の子供が遊びながら、このセリフを言う場面があって、一応合点が行ったが、あまり良いタイトルではない。邦題の方も、あまり意味がない。カフェで、エレナが医者の卵の女性にカップッチーノを出すときに「ハイ、カップッチーノです。熱いから気をつけて!」からつけたようだ。こう言うタイトルだけで、女性客を呼べるのが日本だからね。

#76 画像はALLCINEMA on line, 動画はYouTubeから