ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ダナエの愛」@東京文化会館

151003 奥方が急な用事に行けなくなったから、一緒に行かないかと、小学校のクラスメートから誘われたのは、前日!この日は一件、演奏会が入っていたが、夕方なので、ダナエがマチネーならギリギリ間に合うと分かり、思わぬ幸運を手にした。

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ダナエと聞けばすぐ思い浮かべるのが、ヴェネツィアの巨匠、ティツィアーノが描く⬇︎この作品。レンブラントでも、クリムトでもない。

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ユピテルギリシャ神話では、ゼウス)が、ダナエに横恋慕して、黄金の雨になって、ダナエに侵入する有名な場面。

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一方、ギリシャ神話で、触れるものを全て黄金に変えてしまう不思議な能力を持ったミダス王。これら二つの話をフォン・ホフマンスタールが融合させて出来たのが「ダナエの愛」の下敷きとなった原作。台本はヨーゼフ・グレゴール。

リヒアルト・シュトラウスのオペラと言えば、割に上演回数の多い「バラの騎士」、「エレクトラ」、「ナクソス島のアリアードネ」や、時折上演される「サロメ」、「アラベラ」、「カプリッチョ」などが代表作。このオペラはまず滅多にお目にかかれない。手元の名曲解説全集を見ても、「無口な女」と「影のない女」までで、「ダナエの愛」は載っていない。

本場のヨーロッパでもそれほどやらないのか、初日には、ポーランド人が大挙して見に来ていたという情報もあるぐらいだ。

そんな貴重な公演を偶然聞くことができたのは、ラッキーだった。しかも、1階センター・セクションの16列という、まず絶好のポジション。遮るものなく、よく見られた。

一点非の打ち所がないないと言いたいところだが、3幕には、放射能防護服にガイガー計数管を持ったメルクールが登場したのには、いささか???東日本大震災の現場という風に見立てらしいが、はっきり言って違和感。右手前には、大震災が起きた時間で止まったままの掛け時計の残骸やら、神話の時代でも、電気冷蔵庫やら卓袱台やら、現代生活の家電らしきものをあちこちに散らばせている。

瓦礫も相当大掛かりに造られていて、時代錯覚に陥りそう。そこが狙いだったのか。黄金だらけの1、2幕から一転、3幕では、金ではなく、愛こそが大事だと伝え、欲しいものは何でも手に入れることが出来る万能のユピテルも、ダナエがミダスと築いた愛の強さには対抗できず、寂しく去っていく。

分厚いソリスト陣にも圧倒された。多分、全盛期が過ぎようとしている(ちょっと問題発言かな)佐々木典子さん、「何言ってんのよ、今が全盛期よ!」と怒られそうな、素晴らしい演唱を披露。出だしはともかくとして、2幕以降の素晴らしさはさすがと唸らせるものが、間違いなくあった。

大沼 徹さんも、すっかりこう言う大役が普通になった観のある舞台で、進化の跡が実に頼もしい。ユピテルは、バリトンでも相当高音の発声が求められると思うので、声域からしても、彼にはぴったりな役どころではないだろうか。

えらそうなことを書いてしまったが、シュトラウス、必ずしも、よく解っているとは言い難い。と言うか、イタオペ大好き人間には、正直馴染みにくい。美しい旋律は随所に出てくるが、単独のアリアとしては、あまり身近に感じられるものが少ないような気がするが、そこがシュトラウスなのだろう。ま、つべこべ言わず、できるだけ多くシュトラウスの舞台を観ることだろう。

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