151009 原題:Im Labyrinth des Schweigens (嘘の迷宮)独 123分 [脚・監]ジュリオ・リッチャレッリ(50、イタリア人)
1958年、フランクフルト。戦後10年以上が過ぎ、やっと先の大戦のことも人々の口の端に上る機会が減り、”奇跡”の復興を遂げつつある西ドイツ。ある若き検事が、上司や周囲の反対を押し切って、自分たちの犯した蛮行について口を閉ざし、のうのうと暮らしている元ナチの親衛隊を次々に暴き出し、追い詰めていく話。
きっかけは、ある新聞記者が、元ナチ親衛隊員が、小学校の教師をしている情報を検察にもたらしたことだ。だが、検察内でこの情報に飛びつくものはいない。記者もダメもとで取った行動らしかったが、一人だけ興味を持った男がいた。新任検察官、ヨハン・ラドマンである。
⬆︎上司である検事正からも、「悪いことは言わない。これ以上、この件に鼻を突っ込むのはやめろ」と、たしなめられるヨハン。
正義感に燃える駆け出し検事だけに、この件に目を瞑るわけにはいかないと、密かに情報を集め始め、検事総長に訴え出る。最初は相手にされないものの、粘り強く訴え続けるヨハンに、かすかな希望を見る総長、証拠固めが一段落したところで、ヨハンに特別班を組織させることに。実は、総長はユダヤ人。だが、ナチスのことを早く忘れてしまいたい世の中の風潮に抗しきれずにいたのだ。
⬆︎次々に元親衛隊を喚問するヨハンと同僚。
⬆︎ナチに関する膨大なデータを保管しているのは駐留米軍なので、早速掛け合いに行くヨハン。始めは難色を示すものの、ヨハンの熱意と剣幕に押されて、協力する側に回る。
ある時、母親から自分の父親に関する驚くべき事実を告げられる。信じられないヨハンは、アメリカ軍将校の反対を押し切って、父親に関する極秘ファイルを見せてもらう。すると、あろうことか、何とナチ党員だったことが判明。うろたえ慌てるヨハン、すっかり自暴自棄になり、酒浸りの日々。ついには検事総長に辞表を叩きつけてしまう。
その後、自分の過ちに気づき、総長に素直に詫びを入れ、特別班に復帰。膨大な情報を片端から当たる気の遠くなるような作業を経て、ついに核心に迫るヨハンだった。
それにしても、最も残虐非道とも言える生体実験を繰り返したと言われるヨーゼフ・メンゲレをモサドと協力して逮捕寸前まで追い詰めながら、みすみす取り逃がしたことは、最大の痛恨事だったろう。メンゲレはアルゼンチンからパラグアイ、さらにブラジルまで逃げ、最後は海水浴の最中、心臓発作で、とうとう裁かれることなく没している。
モサドによれば、アイヒマンかメンゲレのどちらかに絞らざるを得ず、両面作戦は考慮外だったらしい。
なお、本作に出てくる建造物や家具・調度品のデザイン性の高さには驚かされる。また、当時の女性の服装など、興味を引かれる点が少なくない。
#79 画像はALLCINEMA on lineから