ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」

160322 原題:THE BIG SHORT (空売りのこと。邦題はあまりに陳腐!)米 130分 (ちょっと長すぎ)監督:アダム・マッケイ(監督としては、日本公開はこれが2作目。これまでは製作者としての関わりが多いが、あまり目立った作品はない)これまた実話に基づく原作の映画化。原作、The Big Shortの日本語版書籍タイトルは「世紀の空売り」。Amazonでのこの本の紹介文は、以下の通りで、これを頭に入れておくと映画を見る際、役に立ちそうだ。

世界中が、アメリカ発の住宅好況に酔っていた2000年代半ば、そのまやかしを見抜き、世界経済が破綻する方に賭けた男達がいた。投資銀行、格付機関、米政府の裏をかき、彼らはいかに世紀の空売りと呼ばれる大相場をはったのか。『マネー・ボール』の著者マイケル・ルイスが世界同時金融危機の実相を描く痛快NF。

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例の全米を揺るがした不動産バブル崩壊を、2005年頃から敏感に察知し、それなりの対策を立てて、ウォール街に一矢報いた何人かの男たちを、群像劇的手法で描いた社会派ドラマ。専門用語が飛び交い、??というシーンもなくはなかったが、概ね理解の範囲。

それでも、さすがに内容が内容だけに、時折、出演者の誰かがカメラ目線で解説を加える手法が面白い。特に不良債権を優良債権の中にまぶしてしまえば分からなくなると、汚い手口を料理に例えて、調理人が実際、賞味期限を過ぎた野菜を他の野菜に混ぜて煮込んでしまう場面は笑える。

ただ、どうでもいいような場面がいくつも挿入されていて、冗長の印象は免れない。もう少し脚本を工夫して、コンパクトにして欲しかった。

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すでに業界から引退した伝説的ベン・リカート(ブラッド・ピット)も、途中から参戦する。

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およそ金融マンには見えない風変わりな一匹狼、マイケル(クリスチャン・ベール、本作でアカデミー助演男優賞ノミネート)がエンディング近くで、一人オフィスを出るときにボードに書いた数字は、+489%!!! だが、彼の顔には、喜びより、むしろ虚しさが漂うところが印象的だ。

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ファンド会社のマーク・バウム(スティーブ・カレル、⬆︎左)も、何かが起きていることに感づいているが、どう動いていいのか、部下たちと必死に情報集めに奔走。大手格付け会社、スタンダード&プア社に乗り込み、担当役員(メリッサ・レオ)に、メガバンクの格付けは実体を反映していないと散々悪態をつく場面も。確かにいい加減すぎるよな。

一方、ジャレッド(⬆︎右 ライアン・ゴスリング、妙なヘアスタイルで、ずいぶん感じが違う!)は、独自理論で新商品を開発し、売り込みを図ろうとする。

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こうしてついにX-Dayを迎えるアメリカ、リーマンブラザーズは破綻し、世界を大混乱に陥れる。それでもウォール街は生き残り、実際に罪に問われたバンカーはごく僅かで、大部分はほくそ笑んでいたことになる。実話に基づいているだけに、人物はともかくとして、登場する企業が全て実名であり、リアリティに満ちた展開は、まことにスリリングであった。先月、住宅価格の暴落で、路頭に迷う人々を扱った「ドリームホーム 99%を操る男たち」を見たばっかりだけに余計、一般のアメリカ人が抱える問題が切実味を帯びる。

冒頭、"Truth is like poetry. And most people fucking hate poetry." こんな引用で始まる。途中、村上春樹のIQ84からの引用も。Everyone, deep in their hearts, is waiting for the end of the world to come. また原作者か監督の好みが知らないが、かなり以前からアメリカに進出している高級和食レストラン、"NOBU"についての言及が二回も!

#22 画像はALLCINEMA on lineから。