ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「オマールの壁」

160422 原題:OMAR  97分 パレスティナ映画 監督:ハニ・アブ・アサド

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滅多に見る機会がないパレスティナ映画。

日常の生活圏を8mはあろうかという高い壁で延々実に40km(予定は700km)に渡って分断されているパレスティナの若者の姿を、鋭い視線で描く社会派ドラマの佳作。

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パン屋を営むオマール、ごく普通のパレスティナの若者。

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こうして壁を乗り越えて、幼馴染や恋人に会いに行く日々。なんでもないように軽々と器用に壁を超えているが、実は命がけ。時には巡回している秘密警察やイスラエル兵士に撃たれるかも知れないからだ。

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ただ道を歩いていても、こうしてイスラエル兵士に意味もなくホールドアップされ、侮辱されるのは、ざらだ。

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⬆︎幼馴染の三人とは、こうやって屈託なく馬鹿話に興じたりしている。しかし、イスラエル軍に対しては怒りの炎を絶やすことはなく、いつかリベンジを誓い合う。

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そのために日頃から彼らなりに準備に余念がない。そして、ある夜、イスラエル兵の詰所に近づき、腕試しとばかり、引き金を引き、兵士一人を撃ち殺してしまう。

当然、徹底的な犯人探しが始まり、日頃から目星をつけられていたオマールはついに捕まり拷問にかけられるが、頑として口を割らない。一旦は証拠不十分で釈放されるも、実は泳がされているだけで、監視の目が一段と厳しさを増し、再び逮捕、拘留、拷問。

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⬆︎幼馴染の一人、タレクの妹、ナディアとは恋仲で、いずれ一緒になることを誓い合っていた二人だったが、思わぬ方向に物語が急展開していく。

結局、釈放されたものの、仲間を売ったと誤解されたオマール、幼馴染とは決裂、恋人も失った上、タレクも三人でもみ合っているうちに、銃が暴発して死ぬという最悪の事態に。

半ば自暴自棄になったオマールは「それもこれも、あいつのせいだ」と、イスラエル側のキーマンと接触、協力を約束するふりをして・・・衝撃的なエンディングである。

オマールにとって”壁”とは、あの高い壁だけではなかったのだ。心の折れてしまったオマールには、あれほどひょいひょいと超えていた壁が、もう自力では登れなくなってしまっていた。エンディング近くで、人の手を借りながらやっとこさっとこ上るオマールの姿があまりにも痛ましい。

いわゆるヨルダン川西岸地区と呼ばれる地区が舞台であるのは、イスラエル警察のキーマンの会話の中で知ることができる。

一度ヨルダン・イスラエル旅行で、この地域でヨルダン・イスラエルの国境越えをしたことがあるが、鋭い目つきの兵士たちが銃口をこちらに向けていて、恐ろしい思いをしたことを思い出す。そうした極度に緊迫した日常を過ごすパレスティナ人たちを、このように描いた作品は初めてだろう。撮影も実際にそこで行われたようだ。

 

#30 画像はALLCINEMA on line, 及び公式ホームページから