ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ニューオペラ『歌劇的夜会』」@みなとみらい大ホール

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オペラの今後に危機感を抱いたかどうかわからないが、何か今、オペラ界をアッと言わせる革新的な仕掛けを目論んだのかも知れない。

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格式張らないオペラを目指そうとしたのか、今回の「夜会」の座長には、敢えて生粋のオペラ人ではない秋川雅史を選んでいる。生粋ではないとしたのは、「千の風になって」などの大ヒットで、NHK紅白に登場したりしているからだが、ご本人はもともと国立音大声楽科出身のバリバリのオペラ歌手だったのだ。従って、今回は、久々に自慢の本格オペラ歌手の喉を披露していた。

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ご覧のようにオペラアリア以外のものも幾つか含まれたラインアップ。とりわけ20番の雪国は、満を持して登場した中鉢 聡がド派手な和服姿で、しかもイタリア語で歌い上げるという、まあ一種のキワモノで場内を盛り上げていたのが印象的。

そしてトリは、中堅どころのメゾソプラノ郷家暁子が務めるという意外性。ただ、22番の後にテノール4人によるNESSUN DORMAがあり、さらにイタリア人が次々に登場し、アンコールは延々15分に及んだ。

これには場内は大喝采だったが、愚亭は大いに白けた。理由は簡単で、あたかも日本人聴衆に媚びるかのように、「帰れ、ソレント」のようなナポリ民謡を女性二人に歌わせたり、「カタリ、カタリ」をシチリアーノのサルヴォ・グァステッリが歌うのはいいとして、最後に「私の太陽」を三人で歌うという趣向にはついて行けない。

舞台に指揮者やピアニストを含め全員が登場して大拍手を浴びたら、それで幕とすれば、シンプルでよかったのに、最後に味噌をつけたような気がしてならない。

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21名のオペラ歌手が、ほぼ一人一曲で休憩なしで歌いつないだのは、確かに豪華で、贅沢の極み。だが、いろんな歌が脈絡なく出てくるのは、やや違和感がある。そもそも冒頭の「威風堂々」をアンサンブルが演奏する意図もよくわからないし、そこから闘牛士の歌、さらになぜか水夫姿のソプラノとメゾでPIE JESUを歌うかと思えば、舞台はシチリアになり、アル・カポネ風の清水良一が出てきてゴッドファーザーの「愛のテーマ」を歌うという流れだ。まあ、あまり難しいことを考えないで、楽しめばいいのだろうが、何かしらはっきりしたテーマが一本通っているのでは、と思うと肩透かしとなる。

応援している青柳素晴が歌ったのは「教会のアリア」で、多分愚亭は初めて聞く楽曲。とても美しい調べである。ちなみに今回出演のテノールの中では、青柳が出色だったと思う。声の艶というか音色が際立っていたと感じた。下はパヴァロッティが歌った「教会のアリア」

柴田紗貴子大山大輔のデュエット、オペラ座の怪人は、ミュージカルなので、マイクを使用して欲しかった。クリスティーヌ役は、ソプラノとしては、低音から超高音まで歌い上げる名場面で、低音部がほとんど聞こえないというのは、まことに残念だった。

イタリアからはるばる参戦した三人だが、パヴァロッティの姪と言う触れ込みのシモーネ・トーダロ・パヴァロッティは、繊細な高音域を巧みに歌える素晴らしいソプラノ。これだけの技術があれば、パヴァロッティなどと名乗らない方がいいだろう。不思議なのは、イタリア語の検索サイトでこの名前を打ち込んでも、まったくヒットしないし、そもそもシモーネとは男性の名前だ。(女性ならシモネッタとか)ただ、ミミで登場した場面では、まるでロシアの農婦のような、どっしりとした舞台姿は、さすがにちょっと違和感あり。他の二人は、まあごく普通という印象。

17番のTIME TO SAY GOOD-BYEを誰が歌うのかと思ったら、なんとバスの大塚博章で、これもサプライズだった。この日、一番ブラーヴォ!が多かったようだ。こうして休憩なし、たっぷり2時間半、この間、ずーっと弾きっぱなしのピアニスト、藤原藍子さん、本当にご苦労様でした!

というわけで、プロデューサーの狙いは今年の11月から12月にかけて桜木町駅そばの小さめのホール、県民共済ホールみらいホールで予定している40回のロングラン公演、「ボヘミアンラプソディー in 巴里」と新歌劇「本牧の歌劇場の恋」である。興味をそそられる公演なので、一度は行ってみるつもりだ。

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⬆︎これは主催者様のFBからお借りした画像。冒頭のエスカミリオ(森口賢二)が歌う闘牛士のアリア。愚亭の席からもほぼこのように見えていた。

(敬称略)

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