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ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」

160829 原題:LES HÉRITIERS 仏 105分 2014年の作品を、日本では今頃公開。監督:マリー=カスティーユ・マンション=シャール(どうでもいいが、ちょっと長すぎないかね)脚本は劇中、マリック役を演じたアハメッド・ドラメが監督と一緒に書いた。

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実話による学園モノとくれば、つい先日もブラジル版を見たばかり。要するに、悪ガキ集団の中に果敢に飛び込む勇気ある熱血教師が、いつしかガキどもの心を捉えて、信じがたいほどの成果を上げていく、ただそれだけの話なのだが、それでもそこにはいく通りものパターンがあり、本作もまたキラリと光る一本に仕上がっている。

授業中だろうとお構いなしに、タバコは吸うは、ガムは噛むは、ヘッドフォンではラップを聞き、ちょっとしたことですぐキレて、大声でどなり合い、果ては殴り合いまで。

ここはパリ近郊のとある高校の授業風景。そこへその辺のおばさん風の教師が現れる。「今日から歴史を一緒に勉強するアンヌ・ゲゲン(アリアンヌ・アスカリッド、「キリマンジャロの雪」2011)よ。つまらない授業をするつもりはないからね」とまったく気負いもなく自己紹介。

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なんだこのクソババアと毒づかれてもまったくひるむことなく、厳しく指導を続けていくアンヌ。根くらべの様相だ。そしてある日、歴史コンクールに皆で出ることにしたいと告げる。テーマは「子供と若者たち」だが、ナチ政権下でのフランスのというところがポイント。すなわち、ナチズム、ホロコースト強制収容所などというすこぶる重いものだ。

あっけにとられる生徒たち。「俺らにそんなことできるわけ、ねぇし・・」と予想通りの反応。それでもいつしかアンヌのペースに乗せられ、次第に興を持ち始めたところで、強制収容所を生き抜いた人物を教室に呼び、生徒たちを前に体験談を語ってもらう。

語り手は、ちょうど聞き手の生徒たちと同じ年齢でアウシュビッツに送られたのだ。感動のあまり涙滂沱の生徒たち。効果てきめん、果たせるかな、生徒たちが自主的に動き始める。(語り手の男性は、映画完成の翌年、亡くなられたとエンドロールに表示された)

迷路に入るたびに、アンヌが具体的な手法について、適切な助言を与えていくと、ついに驚くべき成果を生む。そしてコンクール当日、会場の陸軍士官学校のホールには、まるで別人のような表情で晴れがましい舞台に立つ生徒たち。優勝を勝ち取った彼らは、シャン・ドゥ・マルスの芝の上で、アンヌ共々いつまでも勝利の感動に浸るのだった。

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邦題だが、原題が「受け継ぐ者たち」だけなのに、やはり定番通り一言説明を加えている。まあまあ。

劇中で、生徒たちを連れてバス旅行をする場面があるが、行き先はブラッセル。費用の問題もあるだろうが、なぜ強制収容所のあるところじゃなかったのか。ブラッセルのグランプラスで騒いでいる姿では、単なる親睦旅行。

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それにしても、海外での学級崩壊や暴力教室は、日本では到底考えられないレベルだ。しかも、生徒は、白人、中東・アフリカ系、アジア系、ヒスパニック、ユダヤと、人種、宗教も様々で、この対応には教師も命がけだ。なり手がなくなるのではと、つい余計な心配まで。(それでも、一人二人一生懸命先生の話を聞こうとする生徒がいるのは救いだが)

生徒たちと自然体で接した主役のアンヌを演じたアリアンヌ・アスカリッドがいい。ここはいわゆる美人スターの配役はあり得ない。生徒たちも、プロの俳優だけでなく、実話での生徒たちも何人か混じっていたのだろうか。

ナチスに蹂躙されたフランスは、ヴィシー政権が樹立され、それまでのフランス共和国からフランス国(État Français)に成り下がり、イタリア同様、国が二分されるという、実に複雑な状況下に置かれた。したがって、ナチズムは避けて通れない重大な歴史上の汚点であり、紛れもなく後世に語り継がれていくべき事実。その必要性を説いた作品とも言えるだろう。

#65 画像はIMdb、およびALLCINEMA on lineから