ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「蝶々夫人」@練馬文化センター つつじホール(小)

160923

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⬆︎このチラシがまず素晴らしい。文字のバランス、背景の色調、何よりそこに立つ荒牧小百合さんの表情とポーズ、そして衣装の純白、髪の漆黒、その先端(?)の深紅!!

去る7月、芸大内奏楽堂での「海の日のチャリティーコンサート」祝祭合唱団でご指導いただいた荒牧小百合さんが主宰するオペラチックナイト、5回目の公演。初めて聞きに行ったが、前回が「椿姫」、その前が「トスカ」だったらしい。主要なキャスト・スタッフは、繰り返し登場しているようだ。

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今回演出とナレーションを担当した武田竹美さんも何度目かの登場。字幕が出ないから、代わりに、かなり詳細にストーリー展開と場面の説明をされる。的確、丁寧で、さすがプロの技。

タイトルロールの荒牧小百合さん、初めて本格オペラを聞かせていただくので、多少、当方も緊張した。期待通りだが、最高音に達するあたりで、ほんの少し神経質な揺れを感じたような気がしたが、それもほんの一瞬、終わってみれば、演技も含め実に見事な蝶々さんだった。上背があり、顔の作りもしっかりしていて、舞台映えのする、大変気品のあるバタフライになっていた。

ピンカートンの望月哲也さん、つい先日も紀尾井ホールでドボルジャークのスタバトマーテルを聞いたばかりだが、つややかでメローな響きは相変わらずだ。ただ、突き抜けるようなテノールではないから、少し立ち位置が下がると前方のソプラノやバリトンに押され気味に聞こえてしまうのが、なんとなくもったいない気がした。ピンカートンの衣装と言えば、白い海軍士官の制服が多いが、今回はネイビーブルーの士官服。

シャープレスの甲斐栄次郎さん、素晴らしいの一言。既にウィーンから活動の舞台を日本に移しているようで、これから聞く機会が増えそうで、これも楽しみだ。

メゾソプラノ中島郁子さんは、3年前のアプリコ第九で”共演”(?)も果たしているし、これまでなんども聞いている方。安定感抜群のメッゾでしょう。

一人で伴奏を弾き抜いたピアノの山口佳代さん、まことにBravissima!チラシを見ると、「あれっ、子役が二人?」と思わせるほどのお姿(失礼!)だ。ピアノは一般的には下手の端っこに申し訳ないように位置するが、本舞台では、上手側、やや奥に堂々(?)とセットされていた。何か意気込みが伝わってくる。

低予算(と思うが)の割りに、しゃれた舞台を作り上げていたと思う。演出も控えめで好印象。コスチュームも上の写真のように白い打掛風のドレスの上に和服を羽織るというスタイル。これがなかなか考えていて、ほとんど日本人が見ても違和感はない。これなら動きや着替えも楽だったろう。

今回カットされたボンゾやヤマドリの登場するシーン以外は、ほぼ全編そのまま忠実に演奏していた。最後の自決の場面、いろんな演出があるが、今回は蝶々さんが正面を向いて、喉でなく胸を刺す形で、斜め前に倒れふすという演出。ピンカートンの「バタフラ〜〜イ、バタフラ〜〜イ・・・」は、もう少し遠くから聞こえた方が、さらに余韻が深かったかなと思った。

照明がまた素晴らしかった。2幕の終わり、例の夜明かしする場面の素晴らしかったことと言ったら。深い深い群青に星がきらめき、白っぽい着物の蝶々さん、髪には赤い花を差しての立ち姿、横に膝をついたスズキ、さらにその傍に子供のドローレと、マニエリズモの西洋絵画のごとく、きれいな構図で、徐々に全体が暗くなっていくという、ただそれだけだが、光の当て方が実に感動的で、忘れがたい。

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