161130 原題:THE CHILDHOOD OF A LEADER 英・ハンガリー・仏 合作 116分 監督:Brady Corbet (米)初監督作品
気味の悪い映画である。弦楽器だけの不協和音が随所で使用されていて、まことに耳障りだが、それが監督の狙いだろう。撮影も凝ったもので、古い絵画のように印象に強く残る。
パリ郊外の古びた大邸宅、第1次大戦終結を迎え、アメリカを代表する政治家がヴェルサイユ条約締結を目指すため、この家を借り上げ、その一部を使って関係各国代表と大詰めの協議中。邸宅にはその妻(ベレニス・ベジョ)、思春期の一人息子、家政婦たちが住み込んでいる。時代背景などは当時に実写フィルムを使用して、結構真面目に解説。
問題はこの少女の見まごう美少年。感受性が強く、周囲の大人たちが自分をどう扱うか、常に敏感に反応する。偉そうにふるまう父親に反抗、父親のいいなりの母親が厳しく接することにも腹を立てている。彼女が不倫をしていることもしっかりお見通し。家庭教師のアデレードにいたずらを仕掛けた挙句、追い出してしまう。
唯一懐いている家政婦のモナにだけは心を開くが、母親がモナをある理由で解雇したことに、それまで我慢していた感情をついに爆発させる。それも、条約締結を祝うパーティーの席上という晴れがましい場面を狙うという、少年とは思えぬ悪知恵を働かせる。
不協和音が高鳴り、最終章「私生児 プレスコット」へ。明らかにナチズムを彷彿とさせる映像に続き、大人になったこの少年の姿が大写しになる。
何とも薄気味の悪い映画で、「オーメン」のダミアンを思わせる。ただ、何の説明もなしに一気に最終章は、どうも違和感たっぷりで、取り残された気分で、いささかいただけない。
相変わらず不可解な女優、ベレニス・ベジョ、うまいのか下手なのか、美女なのかそうでないのか。すでに5作品ほど見ているが、未だに自分には謎だらけ。
ヴェニスのサンマルコ映画祭でのトム・スウィート。彼の本作での演技は、ただものではないことを感じさせるに十分。「ヴェニスに死す」のビョルン・アンドレセンの持つ雰囲気に似ていなくもない。
エンドロールがかなり風変わりで、わずか1画面にびっしりキャスト・スタッフの名前を並べ、あっという間にジ・エンドとなる。
#89 画像はIMdbから。