ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」

170110 原題も:EYE IN THE SKY 英国映画 102分 欧米では昨年春公開。監督:ギャビン・フッド(南ア出身 53歳 本作で米軍の中尉役で出演。 「X-MEN ZERO」)なお、撮影はケニヤでなく、全て南アで行われた。製作に、コリン・ファースの名前も。

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これほど緊張する軍事サスペンスは稀。「ハートロッカー」(2008)、「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012)以上だ。

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英軍の担当の中将を演じるアラン・リックマンはこれが遺作となった。冒頭、彼に対する追悼の一行が。

英米軍が協力して、ナイロビ郊外にあるテロリストのアジトを特定、いよいよドローン攻撃開始の段階で、目標建造物の脇でパンを売る少女を発見。さあどうする。この瞬間を逃せば、自爆テロが決行され、死者は80人と見込まれる。1対80という単純な数式では解決不能。

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超小型虫型ドローンを操作して、アジトの室内にまでカメラが潜入、鮮明な画像が英米軍の作戦司令室で見られるシステムには驚嘆。この俳優、「キャプテン・フィリップス」(2013)の準主役、犯人を演じたソマリア人、バーカッド・アブディ

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この緊迫の場面では、誰の決定権が優先するのか?軍か政府か、政府の中でも、首相なのか外務大臣か、法務大臣か。様々な意見が出され、様々な見解が示され、どれもが一理あるように見え、ジリジリと時は過ぎて行く。

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かくして、最終的には、計算上、少女の死亡率を45%と無理やり低く部下に算出させるという巧妙な手に出たキャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)の指示通り攻撃が実行され、作戦自体は成功するも、少女は病院で亡くなる。

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事後、上官のプレッシャーに耐えかねて数字を改ざんさせれるスタッフが、彼女に「良いわね、45%よ!」と念を押され、それまで「イエス、マム」と答えていたのだが、この時だけ「イエス カーネル」と初めて官名で答える。

また、同じく事後、閣僚の一人、アンジェラが目に涙をためて、出て行こうとする中将(アラン・リックマン)に対し、「最低の作戦ね!」と吐き捨てるように言うと、向き直った中将が答えるセリフがかっこいい。Never tell a soldier that he does not know the cost of war. 「兵士に、戦争の代償を知らないんじゃないのなんて、言っちゃダメだ!」まさに「利いた風なこと、言うんじゃねえよ!」と言わんばかりにね。

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それにしても、とんでもない世界が実際にあることを一般に知らしめたとすれば、この作品の効果は素晴らしい。「世界一安全な戦場」という副題、言い得て妙である。

ドローンの操縦士ほど気の毒な職種もないね、あの連中、あの後、きっと転任を願い出るか、軍をやめるか、どっちかだろう。自分の指先で、一瞬にして、無辜の民、いたいけな少女を葬ってしまうと思えば、おかしくならない方がおかしい。(実際のPTSD率は30%と以外に低い)

ついでながら、頻繁に会話に登場するCDEはCollateral Damage Estmateのことで、付随的損傷想定率、つまりミサイルを打ち込むことによる周辺の被害想定。これが50%以下なら、ゴーサインを出しやすくなることで、キャサリンは45%にこだわった。

#002 画像はIMdbから。