ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~」

170214 2月は殊の外忙しく、2週間ぶりに見た作品。原題:FUOCOAMMAREシチリア方言、標準語ならFUOCA AL MARE. 直訳では海の火。作中、サムエレ少年の祖母が語る戦時中の話で、爆撃で海が赤く染まったことから)伊仏合作 114分 監督・撮影・製作:ジャンフランコ・ロージ(「ローマ環状線、巡りゆく人生たち」2013年、イタリア映画祭出品作。ヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞作品。 その年に来日して、トークショーを聞く機会があった。60歳)

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物語の舞台は、イタリア最南端の島、ランペドゥーザ島。10年近く前から、アフリカ、中東方面からの難民が辿り着くヨーロッパ最初の地点として、ニュースに頻繁に登場することになったので、聞いたことのある人は少なくない筈。それがなければ、小舟が浮いているように見える、やたら透明度の高い海でよく知られた観光スポット。⬇︎

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しかし、本作に登場する島は季節の違いもあり、どんよりした空の下、何の変哲もない島にしか見えない。

冒頭、この島で昔から暮らしている一家の日常風景を、淡々と描き出す。とりわけ12歳の少年サムエレを中心に描き続ける。友達と、パチンコ(スリングショット)遊びに興じ、自動小銃を撃つ真似を繰り返す。⬇︎

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この少年、サムエレ、弱視を指摘されて島のドクターの診断を受ける場面があるが、手振り、身振り、話し方が大人のイタリア男、そのもので、何か微笑ましい。

宗教色の濃い、古くからの生活をカメラが丹念に追う一方、まったく異なる姿がこの島にはある。それが押し寄せる難民との絶え間ない”戦い”である。島民、約6,000人に対して、年間数万人の難民がこの島を目指すから、対応が間に合わないのだ。

その難民船を長い時間かけてロージ監督は克明に撮影していく。船の一番上、デッキの上部にいるのは”一等船客”、ついで屋根の下に”二等船客”、そして最も悲惨な”三等船客”は、船底となる。一瞬、カメラがその実態を映し出すが、ほぼ正視に耐えない。陽が入らず、空気も澱んだままで、数週間は、まさに地獄絵図とのまま!

それでも無事、救出される人たちはこの上なくラッキーである。2、3割は海で命を落とし、遺体で辿り着くか、海に投げ出されるか。地上の楽園のような小島で、こんな光景が繰り広げられていることを、世界はほとんど知らないのだ。

難民問題を抱えている島と、昔ながらの漁法や、観光で生計を立てている平穏な島、まったく異なる二つの顔を知る唯一の存在として描かれているのが、村のドクターである。サムエレ少年の目を心配しながら、一方では運ばれてくる瀕死の難民の診察にも当たる。

ローマ環状線・・・」でも見せたロージ監督のドキュメンタリー技法が光る作品がまた一つ。

#7 画像は、IMdbから。