ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「人生タクシー」

170615 原題:TAXI 2015 イラン 88分 監督:ジャファル・パナヒ 

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この監督、イラン政府から現在も映画監督禁止令が出されたままとは知らなかった。そんな中でも、いろんな手法を試しながら、映画を作り続ける反骨魂がたまらない。本作は、監督自身がタクシードライバーになって、乗り込んでくる乗客や自分の姪たちを通して、生き生きと今のイランの姿を映し出している。

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乗り合わせたこの二人、車中で死刑制度について激論となる。お互いに職業を告げることになるが、女性は教師、男性は強盗と告げて(冗談だろうが)、降りていく。

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金魚鉢に二匹の金魚を入れて乗り込んできた老婆二人、この金魚をもらってきた泉に正午までに帰してあげないと、自分たちの命が絶えることになるから、急いで欲しいと。訳のわからないことを告げる相手にも、パナヒ監督、淡々と走らせる。結局、自分の姪を迎えにいく途中で時間がないからと、半ば強引に別のタクシーに乗り換えさせてしまう。

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散々待たされたらしい姪、すこぶる機嫌が悪い。まずはこうして叔父さんをじーっと睨みつける、がとっても可愛いのだ。小学校の高学年ぐらいだろうか、とにかくおしゃべりで、学校で起きたことや、友達のこと、そして自分が今はまっている映画のことを延々と喋り続ける。CANONのデジカメ動画でずーっと叔父さんを取り続けたりする。

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知り合いの弁護士を見つけ乗せてあげる。真っ赤なバラを抱いたこの女性、見るからに理知的で、しかも笑顔を絶やすことがない。この人も政府から活動を禁止されているという。

こうして様々な市井の人々を乗せたり降ろしたりしながら、テヘランでの一日が暮れようする。撮影はダッシュボード上あたりに固定した小型カメラで、時折監督がカメラの向きを調整したりする。

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しかし、監督が車から降りて、別の車に近づくこのような描写は、どのカメラで撮影したのだろうか、疑問が湧く。偶然乗り合わせたように見せているが、やはり全員俳優だそうで、あらかじめおおよそのプロットは用意していたようだ。ただ、姪との会話は、あまりにも自然であり、とても台詞を言っているようには見えないので、ほぼ台本なしのアドリブだと感じた。

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 車内に落ちていた財布は金魚鉢のおばあちゃんのものと分かり、まだいるかも知れないとくだんの泉へ確認に行く監督。幸いおばちゃん達がいたので、車に引き返し、スタンバイしている姪と一緒に泉へ降りていくところをカメラは捉えている。そして・・・しばらくすると怪しげな男がカメラに向かってきて・・・まさかの車泥棒!もちろんカメラはストップして、THE END. うまい、うまい!なかなか洒落た展開と終わり方だ。

ところで、現役時代に一度テヘランに行ったことがあるが、だだっ広く、猥雑な街という印象だった。本作で、ほとんどテヘラン市中を走り回るので、市内の様子が結構分かって、それも興味深い。それと、誰もが当たり前にスマホを使っているのはやや意外だった。監督のiPhoneの着メロが自分のものと同じなので、鳴るたびに自分のスマホ、切り忘れたかとドキッとさせられた。

#36 画像はALLCINEMA on lineから