ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「セールスマン」

160620 原題:FORUSHANDE(イラン語でセールスマンのことらしい)イラン・フランス合作 124分 脚本・監督:アスガー・ファルハディ

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上は英語版ポスターで、一番上に書いてあるのは、「別離(2011)でも、この監督、外国語映画部門でオスカーを取っていることを指している。本作も同部門のオスカーを取っているので、インゲマール・ベルイマンフェデリコ・フェッリーニと並んで、アカデミーで二度オスカーを取った4人目の監督になるとか。

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同監督の「彼女の消えた浜辺」(2009)、「ある過去の行方(2013)も見ているが、どれも素晴らしく、アカデミー賞以外でも国際映画賞をがっぽり取っている。

本作も期待通り、緻密な脚本で、まったくブレがなく、最後まで息詰まるような展開を見せてくれた。

 

舞台はこれもテヘラン(立て続けにイラン映画を見るとは思わなかった)、建物が崩壊するかも知れないから、早く避難しろと言う声で慌ただしく準備する夫婦。二人とも劇団員で、現在上演中のアーサー・ミラー原作「セールスマンの死」(ここから本作のタイトルが)の稽古も佳境に入っている。

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劇団活動とは別に、本業は高校の教師という顔を持つエマッド(シャハブ・ホセイニ)、その傍ら、家探しも加わり、イライラが募る。妻のラナ(タラネ・アリドゥスティ)との間も次第にギスギスし始める。劇団スタッフからの紹介で市心に、古いけどまあまあの物件を見つけて慌ただしく引っ越し。前の住人(なんとこれが売春婦)の荷物もまだ残っているという環境だが、ま、仕方ない。

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そんな時に事件が起きる。ラナがシャワー浴びている最中に、建物の入口のドアを開閉するための装置が鳴る。ちょうど、エマッドが帰ってくる時間だからと、疑うこともなく「開」を押し、ついでに玄関のドアの錠も外して、シャワー室に戻る。

 

エマッドが戻ったのは、事件の後。妻が一体何をされたのか、犯人は誰なのか、警察沙汰にしようとするエマッドだが、ラナはそれを制する。どうせ何の役にも立たないだけでなく、事件がおおっぴらになっちゃうからというのが、その理由。

 

PTSDの兆候を見せるラナ、犯人探しに執念を燃やすエマッド、そして意外な人物が浮かび上がる。飽くまでもそれ相当の罰を与えようとするエマッド、もう過ぎたことだし、相手が相手なんだから穏便に済ませようとするラナ。この辺り、見事な演出である。

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⬆︎この爺さんを見ていたら、アンドレ・カイヤットの「眼には眼を(1957 フォルコ・ルリ、クルト・ユルゲンス)を思い出した。そう言えば、本作もある意味、復讐劇だから、大いに共通点ありだ。果たして、どちらが被害者で、どちらが加害者なのか!

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呆然とするエマッドを置き去りにして、黙って出て行くラナの表情が哀れだ。

#38 画像はIMDb、およびALLCINEMA on lineから