ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「海辺のリア」

170628 2016年作品 105分 脚本・監督:小林政広

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これは完全なる舞台劇で、動きもセリフも舞台を見ている感じだ。ラストシーンなど、海をバックに浜で朗々とセリフを唸る仲代の左右の動きも、きちんとカメラの視野に収まるように計算されている。フラッシュバックも一切なし。

カメラはほぼ定点での長回しが基本。仲代の一人舞台と言っていい作品。相性のいい小林政広と長いこと構想していたらしい。撮影の舞台になったのは、仲代お気に入りの能登半島、付け根にある羽咋郡の千里浜。

かつて高名な俳優、桑畑兆吉 (仲代達也、黒澤の「用心棒」の桑畑三十郎から取ったのだろう)が、今は年老い認知症を発症、娘由紀子(原田美枝子)と、その婿で弟子だった男、行男(阿部 寛)に体良く施設に入れられ、財産も奪われてしまう。

映画は、この兆吉がブツブツ言いながら、キャリアバッグを転がし、パジャマに長い黒のコートを羽織った姿で無目的に歩きまわわるシーンから始まる。やがて浜に出て、先を歩いている女性、伸子(黒木 華、実は兆吉の娘だが、私生児を産んだことで、兆吉から家から追い出された過去を持つ)に追いつき、色々と絡み始める。伸子は突如現れた男が自分の父親であると気づくまで、少し時間がかかる。

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一方、金沢の家から、今まさに車を発進させようとする行男、それを止めようとする由紀子、あんなお父さん、ほっておいたらいいのよ、どっかで野垂れ死んじゃえばいいのに、とまで言う由紀子。結局、二人でアクゥアに乗って探すことに。発進する車の横にはクラウンと、運転手と思しきヤクザ風の男(小林 薫)が映っている。

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その後、海辺、兆吉が収容されている施設、金沢の自宅の駐車場という三ヶ所だけで、5人の男女が繰り広げるドラマは、終盤、昔出演したリア王のセリフを繰り返し、自分が可愛がったコーデリアリア王の末娘 - ここでは伸子になる)の名前を、兆吉が口にしながら、うつ伏せに波間に倒れこむと、さっき入水自殺したはずの伸子が現れて、兆吉を抱きおこすところで幕。

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伸子を演じた黒木 華が素晴らしい!!堂々たる演技で、仲代の十分期待に応えたようだ。由紀子の不倫の相手と思しき運転手のセリフはたった一言、「悪党!」。ずいぶんもったいない小林 薫の使い方だ。

#43 画像はALLCINEMA on lineから