ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「カヴァレリア・ルスティカーナ」、「道化師」@杉並公会堂大ホール

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定番ヴェリズモオペラの2本立て公演。前から12列目だが、4列分、オケが平土間を占有しているから、実際には8列目と言う、至極見やすいポジション。オケピットがない悲しさで、これだとオケの音が結構鳴るから、時折舞台で歌う歌手の声がかき消されることも起きる。

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P席を舞台の一部にする方式は珍しくないが、今回、舞台から斜めに階段を作り、上りきった踊り場を教会の入口にする設定で、これが両舞台ともに大いに生きる結果となったのは喜ばしい。ただ、演じ手は、段差のあるところを上り下りするわけで、エネルギーの消耗もハンパではなかったろう。

 

岩田演出は、すでに何度も見ており、まったく違和感は感じなかったが、特に昔からの高齢のオペラファンには、正統派の舞台を見慣れているだけに、批判的な見方をする人もいない訳ではない。

 

舞台の中央に大きな十字架が一本、周囲に大小の十字架が重なり合っていて、中に朱塗りの一本が置かれている。これは2年ほど前に、同じ岩田演出で箪笥町ホールでの舞台と似た設定。今回、目についたのは、そこから太い真っ赤なロープが真上に伸びていることで、カヴァレリアもパリアッチにも同じ装置をそのまま使っていて、登場人物が苦境に立たされたりすると、このロープに触れたり縋ったりしているから、天に通じる願掛け綱のような位置付けなのか。

 

このロープに見向きもしなかったのが、カヴァレリアのアルフィオで、サントゥッツァからトリッドゥとローラが密会を重ねていると知らされ、憤怒の形相物凄く、片っ端から十字架を蹴り出し、投げ捨て、大きな十字架まで根こそぎにしただけでなく、最後は意味ありげな赤い十字架を膝でへし折ると言う狼藉ぶり。このシーンは見応えがあった。

 

サントゥッツァが冒頭から舞台所狭しとばかり手前、奥、上手、下手と走りまくるのだが、ちょっと意図を図りかねた。そういえば、以前も同じ演出を見たことがあるが、それがやはり箪笥町ホールだったかも知れない。その時もそんな感慨を持った。散々走り回された小泉詠子、愚亭は初めて聞いたが、しっとりとした高音が特に耳に残った。

 

高田トリッドゥも、雰囲気的によく合っていたと思う。古い因習が強く残るシチリアの小さな村社会、他人の女房と昵懇になればたちまち町中の噂になる土地柄、いくら女たらしとは言え、これで身を滅ぼすことになるのは、あまりに頭が悪すぎ。

 

パリアッチの演出も素晴らしかった。コスチュームも冴えていたし、特に最後のシーンは、真っ赤なドレスのコロンビーナ(ネッダ)、白とグリーンのパリアッチョ(カニオ)、グリーンのテーブルクロスなど、イタリアン・トリコローレを意識したかのようなカラースキームは目に楽しかった。

 

日本語版はいいとして、「衣装をつけろ」は、普段からVesti la giubba聞き慣れているし、歌う青栁カニオもさぞ大変だったろう。こう言う名曲中の名曲はイタリア語で長年刷り込みができているだけに、日本語歌唱は歌手泣かせだ。カニオの、ややオーバーとも言えるこの慟哭シーン、見事の一言。場内から待ちきれずブラーヴォが飛び交った。

 

ネッダ役の塩田美奈子、いつもながらチャーミングで品がある。歌唱こそ、全盛期には届かないかも知れないが、存在感はピカイチ。コロンビーナのおかしさもたっぷり表現していて、言うことなし!

 

トニオに扮した武田直之、今回はなかなか美味しい役どころだったようで、拍手も結構来ていた。ケチをつける意図は、まったくないのだが、前口上では、もう少し低音を響かせて欲しかった。とは、言えこの歌、バリトンにはきついかなりの高音も出てくるから、これはないものねだりのようなものかも。

 

オケも合唱も立派だったし、特に子供達の歌も演技も可愛らしいもので、よほどの練習を重ねたことが窺われた。

 

演出にケチをつける気はないのだが、カヴァレリアでのお祭りシーンで、紙コップが使われているのには驚かされた。せめてプラスティックでもいいから、透明なものにして欲しかった。ついでに、ワインが泡立ってとかいう日本語歌詞、シチリアでスパークリングワインは、あまり聞いたことがないのだが・・・。ま、どうでもいいことだが。

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パリアッチのカーテンコール(フェイスブックから拝借しました)

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青栁カニオ。メイクはジョーカー。

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塩田コロンビーナ(ネッダ)。妖艶さと可愛らしさが同居するところが、持ち味。

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(総監督、演出、主要キャスト陣、facebookからお借りしました)

 

#34 (文中敬称略)