170729
まったく面白い企画を立てたものと、今更ながら、吉田貴至のプロデュース力に脱帽である。人気のバリトン歌手を、たまたま同じ名前だから、この二人でドゥオをやれば受けるという単純な発想でなかったのは明瞭。吉田なりの秘策があったと思われる。
このところ進境著しい加耒に対し、大沼は今や押しも押されもしない、日本オペラ界が誇るトップクラスのバリトン。
徹 X 徹、さらに演目には武満 徹が含まれ、あっと驚くアンコール曲は、船村 徹の「兄弟船」!徹尽くしの70分!
さて、バリトン同士となれば、二重唱と言ってもかなり限定されるから、交互にソロを歌う構成だろうと思っていたら、もちろんそれもあるが、それだけではなく、
なんと後半の出だし、「セヴィリアの理髪師」から《私は町の何でも屋》を二人で交互にコミカルに歌って、大喝采。技量的には差が見られないからこそ、こんな離れ業をやってのけるのだろう。この演目、バリトンにはかなりきつい高音も出てくるし、例の早口言葉もあるから、並大抵の歌手同士では、到底無理な試みと思われる。
声質にはかなり差がある。言ってみれば、ディートリッヒ・フィッシャーディースカウvs.ディミトリ・ホロストフスキーの差と言えるようなものだろう。どこか温かみのある大沼の声に対して、やや重く鋭い加耒の声は対照的だ。それにしても、加耒の細身からどうしてこんな太いしっかりした声が出てくるのか不思議である。
トークも、ひょうきんな大沼に対し、どこまでも真面目な加耒、会場を笑わせまくる大沼、端正で、淀みのないトークで聴衆を魅了する加耒、これも対照的だ。
加耒によれば、若い頃から大沼に憧れていただけに、今回の企画は大いに楽しみにしていたと語っていたが、よほど嬉しかったらしく、終始笑みを浮かべていたのが、新鮮で印象に残った。
暑かったし、遠かったが、やはり来てよかったと思わせたコンサート!
facebookからお借りしちゃいました。
#38 (文中敬称略)