ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「没後40年 幻の画家 不染鉄展」〜暮らしを愛し、世界(コスモス)を描いた〜

170801 遅ればせだが、不染 鉄展へ。知らない名前だった。「幻の・・」なんて書かれているから、世間的には知られざる存在だったんだろう。だいたい不染 鉄という名前からして、なにか不思議な存在という感じだ。鉄は画名で、本名は哲治というらしい。

f:id:grappatei:20170802104628j:plain

⬆︎中央に富士山を配しているが、手前は駿河湾だろうか、ずっと手前には魚まで描き込み、奥は一転日本海側の雪景色という、なんとも不思議な絵だ。このように俯瞰した風景も彼の絵の特徴の一つ。

今回は絵以外の展示物も含めて、120点が展示された堂々たる回顧展。章の構成は、

第1章:郷愁の家

第2章:憧憬の山水

第3章:聖なる塔・富士

第4章:孤高の海

第5章:回想の風景

章のタイトルにもなっているが、郷愁とか懐かしさとか、そういうものが前面ににじみ出ている作品が少なくない。全体にセピアの色調の作品が多いこともあるが、描き方に独特の優しさを感じてしまう。

家をたくさん描きこんだ作品が目立つが、そもそも家の形が丸っこくて、そこだけ浮き出るような不思議な感覚を覚える。そして、中に人影があったり、目を近づけて覗き込むといろんなものが見えてくる。

昔、週刊新潮の表紙を描いていた谷内六郎という絵描きがいたが、彼の絵も、見るものを童心に帰らせてしまう雰囲気に満ちていて、作風は違うものの、ふと彼のことを思い出した。

f:id:grappatei:20170421133705j:plain

バックにどかーんと赤錆びた廃船を配したその名も「廃船」!ものすごい迫力だ。ところが、廃船のすぐ手前や、さらにずーっと手前には、例によって細々と民家群を描きこんでいて、ここが不染 鉄の不染 鉄たるゆえんか。

f:id:grappatei:20170421133635j:plain

前述のように、この温かみのある色といい、フォルムはどうだろう。よほど心根の優しい人なのだろう。

f:id:grappatei:20170802111419j:plain

どっしりと根を張るイチョウ。昭和40年というから、74歳の時の作品。繋いでいく命のようなものを感じさせる作品。

ところで、この美術館、何度も足を運んでいるが、東京駅構内という抜群の立地で、しかも広くもない空間を効率的に生かした素晴らしい構造で、実に個性豊かな美術館である。今後も、このような洒落た展覧会をどんどん企画してほしい。それほど世間に知られてなくても、隠れたところに、超一級品を生み出したアーティストは世界中にいくらでもいるはず。学芸員の方々のたゆまぬ努力に大いに期待したい。