ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

二期会名作オペラ祭「蝶々夫人」@東京文化会館

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二期会創立65周年・財団創立40周年記念公演ということで、こんな豪華な公演で、この料金設定は英断。売り出しと同時にチケット入手していたので、1階7列24番という、センターブロックの上手側の端といういい席で鑑賞でき、大満足!!

幕が開くと、見事な舞台装置に目を奪われた。今年は夏に2日連続でこのオペラを見ているが、やはりこれこそが国際標準とでも言おうか、ほんとうのオペラの公演と、改めて感じ入った次第。(でも、このスタイルでしかオペラは見るべきでないと言っているわけではない。演奏会形式であろうと、小劇場での簡易版であろうと、手軽にそれなりに楽しめればよいのだ。)

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両組とも素晴らしい配役なのだが、どうしても森谷真理の蝶々さんが聴きたくて、敢えてこの組を選んだ。(毎度のことながら、両組見るのが定石なのだらおうが、財布がそれを許さない)

そして期待通りというか、それをはるかに上回って、森谷真理の力量を感じ取った。正味2時間を超える舞台で、いついかなる場面でも発声の芯がまったくぶれない。あとで5階席で聴いた合唱仲間の友人にも確認したが、一番奥までビシッと届く声は、なかなかない。最高音のピアニッシモの美しさにも幻惑されたが、声質に生来の品格のようなものが備わっていると感じた。

ピンカートンの宮里直樹もいいところが全部出ていたと思う。3幕の聴かせどころ、Addio, fiorito asil!はもっと響かせてくれてもよかったと思ったが、全体的には素晴らしい出来栄えだったと称賛を贈りたい。2012年の第10回東京音楽コンクールで1位なしの2位をソプラノの嘉目真木子と分け合い、聴衆賞を合わせて受賞した時は会場に居合わせ、聴衆賞に1票投じたのを覚えている。それから5年、やはり期待に違わず立派に成長の証を、今日は堂々披露してくれた。

シャープレスの今井俊輔、過去何度も聴いていて、うまいバリトンと思っているが、今日は立ち位置の問題もあったのか、時折うまくオケの響きに乗り切れていないような感じがしたのだが。

スズキという難しい役どころを、山下牧子がうまく捌いていた。蝶々さんに誠心誠意お支えをし、終始助け続けるという立場ゆえ出過ぎず、かと言って遠慮しすぎず、その呼吸が大変だったと思うのだが、見事に演じきった。

今日はなぜか2幕に入った頃からずーっと泣きっぱなしで、理由は偏に山下の演技に負うところが大きい。昔見た永井和子のズスキも素晴らしかったが、今日の山下の出来栄えも長く記憶に残りそうだ。

装置もよかったが、照明がまたすばらしかった。2幕、蝶々さんの家。右側には庭におおきな枝垂れ桜。(聞くところによると、この舞台は27年前に使ったものを使用しているらしいが、その間、どこでどのように保管していたのだろう)

上手手前の縁側には、なぜか鳥かごが10個以上も。花の二重唱の後、徐々に日が暮れて、やがてすっかり夜のとばりが落ちる。障子を閉めているから、星がきらめく夜空こそないが、3人がシルエットになり、美しいハミングコーラスが響く。ここで今回は一旦幕を下ろす。そして3幕が開くと、明るい調べが朝の雰囲気を醸し出して行き、その朝日を浴びてきらめく海の感じを、照明がみごとに障子越しに映し出して行く。

そして悲劇の終幕へ。頸動脈をスパッと切った蝶々さん、遠くからピンカートンの「バタフライ!」と呼ぶ声を聴きながら、後ろ向きのまま上体をそらし、その体勢をしばらくキープしつつ、息絶える。

全体に栗山演出が光った舞台。ご本人、観客席でお見かけした。

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ウィーンから駆けつけた恩師(?)とのツーショット。

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衣装は脱いだ後。お顔はそのまま。宮里直樹

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軽めのテノールで、キャラとか体つき、雰囲気がゴロー役にはぴったりの升島唯博

 

#66 文中敬称略