ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ドリーム」

171010 原題:HIDDEN FIGURES  米 127分 製作・脚本・監督:セオドア・メルフィ(「ヴィンセントが教えてくれたこ」2014、「ジーザンズ 初めての強盗」2016)

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だいぶ脚色されているらしいが、ほぼほんとうの話をベースにした作品。日本ではもとより、米国でもこの話、知っている人は少ないだろう。

米ソが有人宇宙船打ち上げを競い合っていた1960年代初頭、その成功の陰に天才黒人女性が活躍していたという事実。細かい専門分野は異なれど、いずれも並外れた数学的才能を発揮するキャサリン、ドロシー、メアリー。米国での公民権運動が盛り上がる中、依然として、あらゆるところで、黒人差別が普通に行われ、まして男性優位の社会で黒人女性の出る幕などあろうはずがない。

数々の露骨な嫌がらせにも屈せず、NASAという限られた舞台かも知れないが、ついに自分たちの存在を白人、特に男性に認めさせるに至った、”快挙”には喝采を送られずにはいられない。

作品中、もっとも印象的な出来事といえば、スタッフの一員として白人男性の群れの中で働くことになった軌道計算スペシャリスト、キャサリンがボス(ケビン・コスナー)から、肝心な時にたびたび姿を消すとは一体どういうことだ、と詰め寄られ、ついにキレて叫ぶ。「われわれ黒人はこの建物内のトイレ使用を禁じられていて、毎度800mも離れた別の建物まで小走りに往復してんのよ!私たちにだってトイレぐらい自由に行かせ欲しいわよ!」

当時の雰囲気を醸し出すため、できるうる限り、車やロケットの部品、店の看板や小物類に至るまで当時のものを再現していて美術・小道具係の努力がしのばれるが、さすがに打ち上げや帰還・着水となれば実写映像が多用されている。

偶然ながら、この日、種子島からH2型ロケット打ち上げに成功、日本版GPS衛星「みちびき4号」が無事予定の軌道に乗り、来年あたりからGPSの精度が俄然上がり、数センチの誤差しかなくなるそうだ。これが農業にもたらす画期的な農法が期待されるとか。つまり無人のトラクターが走り回ることになるらしい。

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ソ連に先を越され、意気消沈するも、俄然巻き返しを誓うNASA

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ひさしぶりのケビン・コスナー、腹の出具合が気になる。

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小難しい軌道計算をたちまちやってみせるキャサリンに感嘆しかない白人スタッフ

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ドロシーに大抜擢の事例を渡すミッチェル人事部長(キルスティン・ダンスト、しばらく見ないうち、それなりに年をとった)。それまでドロシーとファースト・ネームで呼んでいたが、初めてメセス・ヴォーンと呼ぶ。

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前代未聞!重要会議へ、同席を許されるキャサリン。飛行条件が会議でひんぱんに変わるため、その場で軌道計算結果を求められることから、会議同席は彼女が課長に頼んでいたのだが、らちが開かず、直接本部長に直訴した結果だ。

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夜間コースながら、初めて白人専用の講義に出席することになったメアリー。白人男性から白い目で見られようが、お構いなし。並みの神経ではもたない。

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アメリカ人として初めてフレンドシップ7で地球周回軌道を飛行することになるジョン・グレンNASAを訪問、彼女たちのことは仄聞していたらしく、案内するスタッフの制止を振り切って、彼女たちの元へ来て敬意を表する。

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試写会のセレモニーでたまたま居合わせたイザベル・ユペールとドロシーを演じたオクタヴィア・スペンサーのツーショット。ちょっと珍しい顔合わせ。

ところで、この原題だが、「隠れた人たち」、と同時に「隠された数字」という意味合いを持たせているようで、なかなか深いタイトル。この「ドリーム」という邦題は、チト安易すぎないかな。

#69 画像はIMDbから