ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶」

171205 料理そのものや料理人をテーマにした作品は、とくに最近、欧米の映画に多いような気がするが、同じ料理がテーマでもこれはいささか角度を変えた異色作であり、大した意欲作。

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当初、見るつもりのなかった作品。一足先にみた姉が絶賛するもんだから、見に行った。満州で生まれた我が兄弟、長女の姉は9歳まで現地で暮らしたから、記憶も鮮明で、この作品の満州が舞台のシーンでは、特別の思い入れがあったのは当然だろう。

筆者はほとんど現地での暮らしの記憶がないから、その辺の感じ方は微妙に異なる。しかし、それを差し引いても、よくできた作品で、見てよかったと思った。

そもそも原作がしっかりできていると思うのだが、脚本も緻密に作られており、加えて「おくりびと」の滝田洋二郎の作品だから、つまらないわけがない。それに、出演者にも、なかなかの俳優を起用していて、飽きることなく2時間あまりを見終えた。

1933年当時、謀略の限りを尽くして、中国との戦争に持ち込もうとした関東軍がいかにも考え出しそうな薄汚い策略。そこに不覚にも関わってしまった料理人の無念さが、文字通り寝食を忘れて、愛妻と助手2名(うち一人は関東軍からの目付け役であることが後で明かされる)と作り上げた幻のレシピ、質量ともにあの満漢全席を凌ぐとされた”大日本帝国食菜全席”レシピに乗り移り、不思議な運命を刻むことに。

主演の二宮和也のうまさが断然光るが、無二の親友役(実生活でもそうらしいが)の綾野 剛も引けを取らないし、中国人役の笈田ヨシは「沈黙」同様、存在感たっぷりの渋い演技。西島秀俊、もう少しうまいかと思ったのだが・・・ちょっと残念。

1933年の満州と、現代の日本を行き来しながら見せるのだが、時代の入れ替わり場面のつなぎと間の取り方が絶妙で、違和感がまったく感じられなかったのは、さすがというべきか。

一度味わったものは絶対忘れないし、またそれを再現できるという超絶の舌を持った男(絶対音感に例えていたが、ちょっと違うような気もする)と、それがDNAでつながったかのような孫、不思議な運命の糸に操られて、時間と空間を超えて、繋がって行く様がジグソーパズルで埋まって行くように展開される。

難を言えば、セットを、もうすこし上質に作って欲しいのと、人によってメイクがかなり杜撰で、もうちょっとなんとかしろよと言いたくなく。例えば若い頃の大地康雄、ついでに食堂のコック長、周りが老けまくって、自分だけ、以前の格好?あり得ない!

ついでながら、やっと探し当て、持つべき娘の元に届けた大日本帝国食菜全席(112品目以上)のレシピ、これを元に食堂を開店してメデタシとなるところ、隣家の火災で開店当日になんと焼失、娘も周囲がとめるのを振り切って父の遺産であるレシピだけでもと家の中に飛び込み焼死、しかし紙のレシピは難を逃れる?このあたりのご都合主義がどうもね、白ける。

やはりそういう細部にまでこだわってこその名画であり、どれか欠けてしまっては、他がいいだけにあまりに勿体ない!

それにしても、料理の場面がやたらに多いのは当然として、どれもいかにも美味しそうに撮るから、しょっぱなの二宮の作るオムレツから涎が垂れそうで、この作品は空腹時に見るものではないと思った。

#81 画像はALLCINEMA on lineから。